知っておきたい病気・医療
2019.03.08

早期発見がカギ!大腸ポリープ

~大腸がんを防ぐには~
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ほとんど自覚症状がないため、発見が遅くなりがちな大腸ポリープ。明らかな異変を感じた時には、すでに深刻な大腸がんへと症状が進行している例は少なくないと言います。「大腸ポリープを早期発見できれば、確実に大腸がんを防ぐことができる」と、新宿大腸クリニック院長の後藤利夫さんは話します。そのためにもぜひ受けてほしい検診や、大腸ポリープを防ぐ生活習慣などについて伺いました。

大腸ポリープの大きさと
がんの発症には関係がある

大腸は小腸の外側から続く、長さ約200cmの管状の臓器です。その管の表面にある粘膜にできる盛り上がったイボ状のものを大腸ポリープと言います。
ポリープは腫瘍性と非腫瘍性の2つに大きく分けられ、このうち腫瘍性ポリープの良性のものを「腺腫せんしゅ(アデノーマ)」、悪性のものを「大腸がん」と言います。

良性か悪性かは大きさでは判断できず、大きい腺腫であっても良性の場合や、反対に小さくても悪性の場合がありますが、腺腫の大きさと大腸がんの発症には相関関係があると考えられています。腺腫が直径1cmを超えるくらいから悪性のものが出てきて、2cmを超えると多くは癌化している傾向があります。

大腸がんを防ぐためには、腺腫が小さい段階で早期発見することが極めて重要です。
できたばかりの腺腫はミリ単位の大きさしかありませんが、そのままにしておくと細胞がどんどん増殖して大きくなります。

自覚症状がないまま
数年かけてがんへと進行

腺腫はすぐに大きくなるわけではありません。大まかな目安としては、初期の腺腫ががんの疑いのある大きさになるまでは通常2~3年ほど、進行がんの大きさになるまでは5年ほどかかります。ゆっくりしたスピードで、時間をかけて少しずつ大きくなっていくのです。

先に述べた早期発見が重要な理由もここにあります。いわゆる“がんの芽”が大きくなる前に摘み取ることで、ほぼ100%大腸がんを防ぐことができるからです。

大腸ポリープは、直径1cm程度の大きさがあったとしても、ほとんど自覚症状はありません。

大腸がんには(1)下血(排便時などの出血)、(2)便通異常(下痢や便秘)、(3)下腹部痛(排便後は痛みが緩和されるなど、排便とセットになった痛み)という三大症状がありますが、1cm程度のポリープは生活してく上で支障がないため、こうした症状が起きにくいのです。

また、3~5cm程度の大きさの悪性腫瘍であったとしても、症状がほとんど出ないケースも少なくありません。

2~3年に1度の
内視鏡検査が重要!

ぜひ受けてほしいのが、2~3年に1度の大腸内視鏡検査です。大腸がん検診の一つに便潜血検査がありますが、この検査だけで腺腫や早期がんを確実に発見することは困難です。

出血していなくても、腸の中にポリープができている可能性は十分あり得るからです。「毎年必ず便潜血検査を受けていて、何も異常がないから大丈夫」とは決して言い切れません。

大腸内視鏡検査は精度が高く、ごく小さな腺腫でも確実に発見することができます。先に述べたように、初期の腺腫が大きくなって悪性化するまでには2~3年かかります。その間に大腸内視鏡検査を受けておけば、大きくなる前に内視鏡手術で取り除くことが可能です。内視鏡手術は、体への負担が少ない、術後の回復が早いなど、さまざまなメリットがあります。

「進行がんになるまで5年かかるなら、検査も5年に1回でよいのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、症状が進行した状態で発見された場合には、命は助かっても開腹手術をしなくてはならない可能性が出てきます。開腹手術の場合、ある程度の大きさの傷になるため、体への負担が大きかったり、手術後の痛みが予想されます。

便潜血検査のように毎年受けなくてはならない検査ではありませんが、早期発見のためには、やはり2~3年に1度受けることをお勧めします。

苦痛を伴わない検査も
増えつつある

大腸がんは早期発見できればほぼ確実に助かる病気ですが、年間5万人以上の日本人が大腸がんで命を落としています(国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」2017年部位別がん死亡数データから)。

その大きな原因の一つが、定期的に大腸内視鏡検査を受けないことにあると考えられます。自覚症状がないからと何もしないで放っておいているうちに腺腫が悪性化し、さらに進行して他の臓器などにがんが転移して取り返しがつかない状態になってしまう例は少なくありません。

実際、大腸がん検診(便潜血検査)の受診率は男性が44.5%、女性が38.5%(厚生労働省「国民生活基礎調査」の2016年のデータによる)と、国が目標に掲げている受診率50%を下回っています。

精密検査(大腸内視鏡検査)の受診率は更に低く、25%程度だと言われています。受診をつい敬遠してしまう理由には、大腸内視鏡検査でスコープを挿入する際に伴う痛みや、下剤を飲む苦しさ、検査に時間を要するため仕事などに支障が生じることなどがあります。

しかし、近年ではこうしたデメリットを改善する新しい方法も登場してきています。水を少しだけ入れて腸を押さずにスコープを進めることで麻酔なしでも痛みを感じにくくする「水浸法」や、胃カメラを用いて下剤を直接胃から腸に注入することで下剤を飲む苦痛を軽減し、検査時間を短縮する「下剤注入法」などがその代表的な方法です。できるだけ年齢の若いうちに一度検査を受けておくことをお勧めします。

腸内環境を良好に保ち
大腸ポリープを防ぐ

大腸ポリープができる原因には遺伝が関係している場合がありますが、食事や運動など生活習慣も大きく影響しています。特に便秘になりやすい人は腸内環境が悪いことが多く、大腸ポリープができやすい状態にあるので気を付けましょう。

腸内環境を良好に保ち、便秘を防ぐために有効な食事のポイントは次のとおりです。

  • 肉料理や揚げ物など、脂肪分の多い料理や食品は控えめにする
  • 野菜や果物、海藻類、大豆製品など食物繊維の多い食品を積極的に摂る
  • ヨーグルトなどから乳酸菌を毎日摂取する

また、便秘予防には腸をよく動かす習慣も大切です。1日1万歩程度のウオーキングは腸の動きを活発にする効果が高く、便秘になりにくい体質に近づくことができます。無理のないペースで毎日続けましょう。

大切なことは、リラックスした気持ちで体を動かすことです。勝負するなど緊張を伴うスポーツは自律神経の交感神経を優位にするため、かえって腸の動きを悪くする場合があります。
なかなか歩く時間がとれない、膝が痛くて歩けないといった場合は、おなかのマッサージや、おなかを軽くねじったりするようなストレッチも便秘予防につながるのでぜひ取り入れてみてください。

後藤 利夫 新宿大腸クリニック 院長

1988年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院物療内科(消化器研究室)、徳洲会病院などを経て、98年に独立し、西新宿ナルミクリニック、大隅鹿屋病院内視鏡センター長を経て、2009年、現クリニックを開設。大腸がん撲滅を目標に、独自の無麻酔・無痛大腸内視鏡検査法を開発。『水浸法による無痛大腸内視鏡挿入マニュアル』(中外医学社)、『あなたの知らない乳酸菌力』(小学館)、『腸をきれいにする特効法101』(主婦と生活社)など著書多数。

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