日本では年間約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3,000人が亡くなっています(厚生労働省 子宮頸がん予防ワクチンQ&Aから)。近年は20~30代で発症する人が増加していますが、ウイルス感染が主な原因である子宮頸がんはワクチンで予防したり、定期的な子宮頸がん検診で早期発見することが可能です。子宮頸がんの予防法などについて、いけした女性クリニック銀座の池下育子院長に伺いました。
子宮頸がんの主な原因は
ウイルスによる感染
子宮の構造は、妊娠したときに胎児を育てる「子宮体部」と、出産のときに産道の一部となる「子宮頸部」に大きく分けられます。
子宮がんには、子宮体部に発生する「子宮体がん」と子宮頸部に発生する「子宮頸がん」の2種類があります。
子宮体がんは卵胞ホルモン(エストロゲン)という女性ホルモンの長期的な刺激が主な原因と考えられており、年齢を重ねるごとに発生しやすくなる傾向が見られます。
一方、子宮頸がんの主な原因は、性的接触によって感染する「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスによるものだと考えられています。
性交渉の経験のある人であれば性別や年齢を問わず、誰でもHPVに感染する可能性があります。また、性交経験のある女性の過半数が、一生に一度は感染するとも言われており、人によっては何度も感染を繰り返す場合もあります。
HPVには100種類以上の型があり、そのうち8種類のHPVが発がん性のある「高リスク型」であることが分かっています。中でも子宮頸がんやその前段階である「異形成※」という症状の原因の大半を占めるのが、16型、18型と他6タイプのHPVです。
※正常な細胞が変化を起こし、がんに進行する確率が高くなった状態。
仮にHPVに感染しても、免疫の力で自然にウイルスが排除される場合は多く、治療をしなくても治るというケースもあります。
しかし、ウイルスが排除されず、長期間にわたってHPV感染が続くと、次のような段階を経て、数年~数十年かけて子宮頸がんへと進行していきます。
- 1.軽度異形成
- 2.中等度異形成
- 3.高度異形成
- 4.上皮内がん
- 5.微小浸潤
扁平 上皮がん - 6.浸潤がん
早期発見のためには
子宮頸がん検診が不可欠
子宮頸がんは進行すると、子宮の全摘出手術が必要になります。また、再発率や死亡率も高くなるので、早期のうちにしっかり治療をすることが欠かせません。しかし、子宮頸がんの前がん症状である異形成の段階では、自覚症状がほとんどなく、つい見過ごしてしまいがちです。
そこで不可欠なのが、子宮頸がん検診です。検診を受けることで早期発見が可能になります。自覚症状がなくても、1~2年に1度の頻度で検診を受けることをお勧めします。
子宮頸がん検診では、子宮頸部をブラシなどでこすって、集めた細胞を顕微鏡で観察し、がん細胞や異形成の細胞の有無を調べる細胞診検査を行います。
子宮頸がんだけでなく、子宮体がんや卵巣がんなどについても同時に検査を行う場合は、内診や
なお、子宮頸がん検診では「細胞に変化があり、軽度異形成も否定できないが、単なる炎症の場合もある」という状態の「ASC-US(アスカス)」という判定が設けられています。
この場合には、さらに追加の検査や精密検査が必要になります。
高度異形成や上皮内がんは
子宮の入り口を切除する手術で治療
子宮頸がん検診で異形成と診断された場合、軽度であれば自然治癒する場合も多く基本的には経過観察となります。この場合、毎年必ず検診を受けて、状態を調べることが必要です。
高度異形成や上皮内がんでは、治療が必要になることもあります。広く行われている治療法に、
治療方針については、将来的に妊娠や出産を希望するかどうか、すぐに治療を受けられるかどうかといった状況などによりますので、医師とよく相談して治療方針を決めることが大切です。
予防の2本柱は
HPVワクチン接種と子宮頸がん検診
HPVにより発症する子宮頸がんは、HPVワクチンを接種することで予防することができます。国内外の多くの研究で、ワクチンを接種しない人に比べて、接種した人のほうがHPVの感染率が低下することや、子宮頸がん検診で異常な細胞が見つかる割合が少ないことなどが報告されています。
HPVワクチンの安全性については世界保健機関(WHO)によって評価されています。
筋肉注射であることから、注射をした部位に痛みを感じたり、腫れが生じたりすることもあります。また、注射時の痛みの恐怖心や緊張などにより、稀に心拍数や血圧が低下して具合が悪くなるケースもありますが、事前に医師に相談することで回避することは可能です。
2013年4月に国内でHPVワクチンが定期接種化されてから、接種後にさまざまな副反応があったという報告が社会問題となりました。同年6月からは自治体による積極的勧奨が差し控えられていますが、定期接種としての位置づけに変化はありません。
2017年11月の厚生労働省専門部会では、副反応の原因がワクチンであるという科学的根拠は示されておらず、「機能性身体症状※」と考えられるという見解が発表されています。ワクチンの副反応などに不安や疑問があれば、医師に相談してみると良いでしょう。
※何らかの身体症状があり、その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見が見つからず、原因が特定できない状態。
定期接種の対象年齢は、12~16歳までとされていますので、HPVワクチン接種を検討することをお勧めします。
なお、HPVワクチンには、すでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果はありません。また、ワクチンでは感染を予防できない高リスク型のHPVもあるので、定期的な子宮頸がん検診も大切です。検診とワクチン接種を活用し、子宮頸がんを予防していきましょう。
帝京大学医学部卒業後、帝京大学麻酔学教室助手として勤務。国立小児病院麻酔科を経て、東京都立築地産院産婦人科へ。1991年、同産院院長に就任。92年に現クリニックを開業。
著書に『女性の病気百科 気になる体の悩みや症状がわかる』(主婦の友社)、『ラブ&セーフティ・セックス 愛するふたり』(日東書院)、『Maternity Book ママになるまでの10ヵ月ダイアリー』(梧桐書院)など。