健康ライフ
2019.01.25

卵子の老化は30代から!?

~知っておきたい「卵巣年齢」~
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妊娠・出産の年齢は、仕事や経済的な事情などさまざまな理由から高齢化傾向にあります。妊娠を望んでも、卵子のもととなる卵胞には数に限りがあり、年齢とともに減っていくのに加え、卵子自体が老化するため、加齢とともに妊娠しづらくなります。卵子はなぜ老化するのか、自然な妊娠・出産を望む場合どのような準備が必要なのか、いけした女性クリニック銀座の池下育子院長に伺いました。

卵子のもと「原始卵胞げんしらんぽう」は
年齢とともに減少する

子宮の左右両側に1つずつある卵巣の内部には、卵子を蓄える「卵胞」(卵子を包む袋のようなもの)が多数存在しています。卵胞には、「原始卵胞」と「成熟卵胞(グラーフ卵胞)」の2種類があります。

原始卵胞は1個の卵細胞と、それを囲む1層の細胞層で構成されており、卵巣の中に蓄えられています。通常は休眠状態にありますが、月経周期とともにその中の1つが大きく発達し、排卵へと至ります。この排卵前の卵胞のことを成熟卵胞(グラーフ卵胞)と言います。

卵子のもととなる原始卵胞は生まれる前から一生分が用意されているので数に限りがあり、年齢を重ねるとともに減少していきます。生まれた時には数百万個におよぶ原始卵胞を卵巣に蓄えていますが、思春期のころには数十万個に減り、その後も毎月数百~千個単位で減っていくと言われています。

近年では、卵巣の中に残っている卵胞の数を血液からおおまかに測定する「AMH検査(抗ミュラー管ホルモン検査)」を受ける女性も増えていますが、その測定値からも加齢に伴う卵胞の減少が見て取れます(下グラフ参照)。

■「アクセスAMH(IVD)」測定値の年齢別分布(中央値) 「アクセスAMH(IVD)」測定値の年齢別分布(中央値)

出典:一般社団法人JISART(日本生殖補助医療標準化機関)
第61回日本生殖医学会学術講演会(2016年11月)発表データ。
2015年5月から2016年8月までの間、不妊症患者を対象にAMH検査試薬を用いて測定した16,526例のうち、多嚢胞性卵巣(PCO)※1939例と早発卵巣不全(POI)※242例と診断された症例を除いた15,545例のAMH測定値の年齢別分布(中央値)をノンパラメトリック法※3により求めた。
山本貴寛, ほか:日本生殖医学会雑誌 61(4):487,2016.

※1:月経不順をもたらす排卵障害の原因の1つ。脳下垂体から分泌される卵巣刺激ホルモン(ゴナドトロピン)と卵巣から分泌される女性ホルモンのバランスが崩れることで、排卵が障害される。

※2:一般に40歳未満で月経が来なくなってしまう状態。

※3:パラメータ(母数、母数団を規定にする量)分布の前定を設けないもの。正規性の仮定が難しく、サンプルサイズが小さい場合に主に使用される。

ただし、AMH値は不妊治療(体外受精)がいつまで可能かを判断する目安の1つとなるものであり、AMH値が低い=妊娠率が低いということではありません。AMH検査は婦人科や不妊治療を行っているクリニックなどで受けることができます。費用は保険適用外で、1万円前後が目安です。

妊娠・出産には
適切なタイミングがある

年齢を重ねるとともに体にはさまざまな変化が現れます。例えば筋肉などは、何歳になってもトレーニングで鍛えたりすることで、ある程度増やしたり、維持したりすることが可能です。

しかし、原始卵胞は自分の努力で減少をストップさせたり、増やしたりすることはできません。毎月1つの原始卵胞が妊娠可能な成熟卵胞となり、排卵を起こしますが、その1つが残ることで他多くの卵胞は減少していきます。

また、原始卵胞年齢は、自分の実年齢より1歳年上だと言われています。つまり、卵子は実際の年齢よりも早く老化していくということになります。自分が何歳まで “若い”卵胞を持ち続けることができるのかは、AMHなどの検査では測定できません。

自然な妊娠・出産に適した時期は、一般的には原始卵胞が十分に蓄えられている20~30代前半と言えます。仕事や社会的な事情など個々人が抱える問題もありますが、出産を望むのであれば、妊娠・出産に適したタイミングを逃さないよう心掛けることも大切です。

原始卵胞の数を自力でコントロールすることはできませんが、質の良い原始卵胞を持つためにも、卵巣を健康な状態に保つことは女性の体にとって非常に重要です。

初潮を迎える年齢が早い、適齢期に妊娠・出産をしない、仕事などによるストレスが多い、といった現代女性が抱えるさまざまな事情や背景が、卵巣の健康に影響していると考えられます。

なお、ピルを服用している女性の中には「ピルを飲めば排卵しないから、その分卵巣内に卵子がストックされているはずだ」と考える人もいるようですが、それは誤解です。排卵の有無にかかわらず卵子は毎月消耗されています。そして前述のとおり、卵子を自力でコントロールすることはできません。

妊活中は特に
ストレスに要注意

原始卵胞の一つが大きく発達して妊娠可能な成熟卵胞となり、排卵した卵子が受精し、子宮に着床が起こります。自然な妊娠のためには、質の良い成熟卵胞を育てるという考え方もポイントの一つです。

卵胞の発達を促すのは、脳の下垂体※4から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)です。過度のストレスを抱え込んでいたり、極端なダイエットや偏食などで栄養が偏ったりしていると、脳が正常に機能せず、卵巣刺激ホルモンの分泌が滞る場合があります。すると成熟卵胞の発達が妨げられ、妊娠しづらくなる要因の一つとなることもあります。

また、冷えやストレス、栄養不足、喫煙や過度の飲酒などは卵巣機能にダメージを与える一因となるので注意しましょう。

ストレスをため込まない、バランスの良い食事をする、などは健康の基本ですので、より意識をした生活をすることが大切です。

また、「嬉しい、楽しい、美味しい、幸せだな」というポジティブな感情を日々大切にすることは、ストレスを感じにくくするためにも有効です。

将来の妊娠に備えて、早い段階から卵巣に負担が掛からない生活を心掛けましょう。

※4:成長ホルモンなどさまざまなホルモンの働きをコントロールしている部位。

池下 育子 いけした女性クリニック銀座 院長

帝京大学医学部卒業後、帝京大学麻酔学教室助手として勤務。国立小児病院麻酔科を経て、東京都立築地産院産婦人科へ。1991年、同産院医長に就任。92年に池下レディースクリニック銀座を開業。著書に『女性の病気百科 気になる体の悩みや症状がわかる』(主婦の友社)、『ラブ&セーフティ・セックス 愛するふたり』(日東書院)、『Maternity Book ママになるまでの10ヵ月ダイアリー』(梧桐書院)など。

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