めまいは多くの人が経験したことのある症状でしょう。数十秒程度で治まる軽いめまいから、入院治療が必要になるほどの重度のめまいまで、ひと口にめまいといってもその種類や症状はさまざまです。正しい知識について、JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則さんにお聞きしました。
めまいのタイプと
危険な症状をまず知ろう
めまいには大きく2つのタイプがあります。
ひとつは「ふらつき」です。このタイプは主に次のような症状があります。
- □体がユラユラ揺れているように感じる
- □体がふわふわ浮いているように感じる
- □歩くと床がぐにゃっとやわらかく感じる
- □後ろ髪を引かれるように感じる
- □階段を下りる時などにバランスを崩す
このようなふらつきタイプのめまいはストレスのたまった女性に多く、月経周期に伴って表れたり、貧血に近い症状として起こったりすることもあります。症状のほとんどは短時間で治まります。その場合、大きな病気につながることはありません。長引く場合には、専門医の診察を受けて下さい。
もうひとつは「回転性めまい」で、以下の症状が特徴です。
- □目が回る
- □天井がぐるぐる回る
回転性めまいを起こす病気は複数ありますが、その多くは体のバランスを保つ機能を持つ、耳の奥にある「内耳」に問題が生じることが原因です。
回転性めまいを伴う代表的な病気、「良性発作性
最も多いめまいが
「良性発作性頭位めまい症」
ベッドから起き上がる時や寝返りを打つ時、棚の上の物を取るために背伸びをしたり、靴下を履くために下を向いたりした時など、頭の位置を一定方向に変えた時にだけ数秒から数十秒程度、ぐるぐる目が回る――。
このようなめまいを「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」といいます。めまいで受診される患者さんに最も多い症状で、特に40代後半以降の女性によく見られます。初めて症状が表れた時やひどい場合には吐き気や嘔吐を伴うこともありますが、難聴や耳鳴りは伴いません。
良性発作性頭位めまい症を引き起こす原因となるのが、耳の中の「耳石(じせき)」です。
内耳には体のバランスをつかさどる三半規管と耳石器(
ところが耳石が何らかの衝撃を受けたり、老化して古くなったりすると、耳石器からはがれて三半規管に入ることがあります。三半規管には体の動きをリンパ液の流れなどで感知して脳に伝える働きがありますが、耳石が入り込むことでリンパ液の流れが乱れます。すると実際の頭の動きとは違う情報が脳に伝わり、めまいが起こりやすくなるのです。
カルシウムの粒が集まった小さな塊である耳石は、見た目も性質も白く小さな角砂糖に似ています。角砂糖をコーヒーや紅茶に入れてかき混ぜると溶けて消えますが、耳石もまた、リンパ液の中で溶けたり、あるいは移動したりする性質があります。このため、頭や体を動かすことによって耳石が自然と
対策としておすすめしたいのが、定期的な運動です。数週間程度、約20分のウオーキングを続けるだけでも、軽度の良性発作性頭位めまい症の改善が期待できます。
反対に、めまいが起こるのが怖いからとあまり頭や体を動かさないようにすると、耳石が三半規管の中に残ったままになり、改善しにくくなるので注意しましょう。良性発作性頭位めまい症の場合は、積極的に体を動かすことがとても大切です。
なお、耳石器から外れた耳石はまた再生するので、耳石器の機能そのものに影響はありません。
メニエール病は激しいめまいに
嘔吐や難聴、耳鳴りなどを伴う
ある日突然生じる、激しい回転性めまいに「前庭神経炎」と「メニエール病」があります。どちらも非常に強烈な発作が起こり、救急車で病院に搬送される場合も少なくない病気です。それぞれ次のような特徴があります。
前庭神経炎は、ウイルス(水疱瘡や帯状疱疹を起こすヘルぺスウイルス)による感染が一因と考えられています。年齢や性別、体質などには関係なく、睡眠不足や疲労などによって免疫機能が低下し、抵抗力が落ちることで感染しやすくなります。
一方、メニエール病は激しい嘔吐と耳鳴り、難聴、耳詰まりを伴い、発作が数十分から数時間続くのが特徴で、女性に多い傾向があります。
「5つの不」と「3つの嫌」がないか
セルフチェックしてみましょう
メニエール病をはじめ、原因不明とされる多くのめまいの背景にはストレスがあります。
特にめまいや耳鳴り、難聴に大きく関わっていると考えられるのが「5つの不」と「3つの嫌」です。
- □5つの不
不満 不平 不安 不幸 不信 - □3つの嫌
嫌なコト 嫌なヤツ 嫌な自分
これらの要素によって人はストレスを感じ、自律神経のバランスを崩しやすくなります。
まずは自分の中に不満や不平、不安などがたまっていないか、今「嫌だ」と思っていることは何なのか考えてみましょう。ストレスの原因に自分自身で気づくことができれば、それを解消するための糸口も見つけやすくなります。
「5つの不」と「3つの嫌」を感じている時は、言葉にして誰かに相談してみましょう。信頼できる相手に話を聞いてもらうだけでも十分ストレスは緩和されます。その結果、めまいの症状が軽減したり、改善したりするケースは少なくありません。
有酸素運動で
めまいを予防
日頃から適度な運動をしている人ほどメニエール病をはじめとするめまいになりにくい傾向があります。運動をすると交感神経は興奮しますが、運動を終えると交感神経の働きは低下していきます。このようにメリハリをつけることで、不規則な生活などで乱れていた自律神経が本来のバランスに戻りやすくなります。体がほどよく疲れることで、眠りが深くなるのも大きなメリットです。
運動は、ウオーキングやジョギング、水泳、エアロビクスなど有酸素運動が効果的です。中でも、深い腹式呼吸とともに行うヨガはリラックス効果も高く、自律神経を安定させるうえで非常に有効です。
こんな症状が出たら
すぐに病院で診察を
ふらつきも回転性めまいも、まれに脳梗塞や脳腫瘍など脳の病気が原因の場合があります。特に次のような症状が見られる場合には、すぐに脳神経外科または救急外来を受診してください。
- □手が動かない
- □物が二重に見える
- □食べ物が飲み込めない
- □言葉を発しづらい、話せない
- □顔の表情が左右で違う
- □入浴した時にお湯と水との温度差を感じない
- □手の触感がなくなる
- □いつもとは違う激しい頭痛がする
めまいはよくあることだからと思ってそのままにせず、専門医に相談することが大切です。
そして、普段から心と体をリラックスできるよう、疲労やストレスをためこみすぎないよう心がけましょう。
1980年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学院卒業とともに、米国ヒューストン・ベイラー医科大学・耳鼻咽喉科へ留学。87年に帰国後、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科医長に就任。2000年より同大学准教授。現在、JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長を務める。05年からヨガを始め、スタジオ・ヨギー公認インストラクター(現:ヨギー・インスティテュート認定インストラクター/専門講師)としても活動中。『耳鳴り・難聴を治す本 (最新治療法から民間療法まで専門家が詳細に解説!)』(マキノ出版)、『自律神経を良くすれば、耳鳴り、めまい、難聴も良くなる!』(廣済堂出版)ほか著書多数。