知っておきたい病気・医療
2018.09.14

腰に痛みやしびれを感じたら…

腰椎椎間板ようついついかんばんヘルニアを正しく理解しよう~
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厚生労働省の発表によると、腰痛を持つ日本人は全国で2,770万人に及ぶと言います。原因が特定できない「非特異的腰痛」が全体の約85%を占めますが、腰椎椎間板ヘルニアは、原因がはっきりしている「特異的腰痛」の 一つです。どうして腰椎椎間板ヘルニアになってしまうのか、治療や予防はどんな方法があるのか、出沢明PEDクリニックの出沢明院長に伺いました。

腰椎椎間板ヘルニアとは
どんな病気?

腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間をつなぐ椎間板の一部が背中側に飛び出し、痛みやしびれを引き起こす病気です。

日常では、椎間板の存在を意識することはないかもしれませんが、体を動かす上でとても大切な役割を担っています。やわらかく弾力のあるクッションのように、骨や関節の動きに合わせて少しずつ変形しながら動いているのです。

人は日常のさまざまな動作で無意識に背骨を反らしたり丸めたり、関節を自在に動かしたりしています。もし、そのときに椎間板によって衝撃を和らげることがなかったらどうなるでしょうか。骨と骨とがぶつかって痛みを生じたり、関節の動きがぎこちなくなって、スムーズに体を動かすことができなくなってしまいます。

このように重要な働きをしている椎間板ですが、他の臓器や組織と同じように、加齢に伴い老化していきます。

老化により椎間板の水分が減少し、内部にあるゼラチン状の髄核※が外に出っ張りやすくなり、この出っ張った状態をヘルニアと言います。おなか側に髄核が出っ張るのであれば、痛みやしびれは起こらないので問題はありませんが、背中側に出っ張ると神経が圧迫されるため、強い痛みやしびれなどを引き起こすことになります。

※髄核:椎間板の中心部にあるゼラチン状の組織。周囲はコラーゲンを豊富に含む線維輪で取り囲まれている。

■腰椎椎間板ヘルニアの状態 腰椎椎間板ヘルニアの状態:正常時 腰椎椎間板ヘルニアの状態:椎間板が神経を圧迫

腰椎椎間板ヘルニアには
急性と慢性がある

腰椎椎間板ヘルニアに多く見られる症状の一つが、腰や下半身の左右どちらかに偏る痛みやしびれです。

腰椎椎間板ヘルニアは急性のものと、長期的に痛みが続く慢性のものがあります。急性の場合は、重いものを持ち上げたり、ハードなスポーツをしたりした後など、何らかのタイミングで突然発症します。

魔女の一撃と例えられるように、急激で強烈な痛みが特徴です。この痛みは炎症によるものなので、炎症が鎮まるまで痛みもほとんど治まりません。

1~2週間ほど安静にすることが最善の治療となります。硬めのベッドや布団で、膝を曲げて横向きに寝ることや、膝を少し高いところに乗せて横たわることをお薦めします。

慢性の場合は、比較的軽度の痛みから、重度の痛みまで症状は広範囲にわたります。原因は先に挙げた椎間板の老化のほか、遺伝的な要因も関係していると言われています。

また、部活動などでハードな運動を日常的に行っていた人は、知らず知らずのうちに背骨にダメージを受けていることも多く、40~50代になって症状が表れるケースが目立ちます。

さらに、女性の場合は40代後半の閉経前後から女性ホルモンが激減し、それに伴って骨の量も減少していきます。その影響が椎間板に及ぶことで、ヘルニアを発症する場合も少なくありません。

急性期のような激痛ではなくても、1~2日たっても腰の痛みが続くようなら、整形外科を受診して、専門の医師に診てもらうことが早期治療のために大切です。

診断は問診のほか、患者さんに体を動かしてもらい痛みの有無を調べること、痛みを感じる部分を診るテスト(神経学的検査)、MRI(磁気共鳴画像装置)の画像検査などによって行います。

腰椎椎間板ヘルニアの
最新の治療法とは

腰椎椎間板ヘルニアの治療は、保存療法と手術療法の大きく2つがあります。

  • 保存療法とは
    腰や脚の痛みやしびれを、消炎鎮痛薬などの内服や、神経ブロック※などで和らげる治療です。患部の筋肉の緊張を緩和する温熱療法や、骨盤にベルトをかけて引っ張り、筋力を高めるけん引療法などを行っている医療機関もあります。

    ※神経ブロック:末梢神経(脳脊髄神経や交感神経節)に直接またはその近くに薬剤を使って、一時的または長期間にわたって、神経機能を停止させる治療。
  • 手術療法とは
    手術を行い、ヘルニアを切除する治療です。
    保存療法を3カ月行っても痛みやしびれ、筋力の低下が改善されず、日常生活に支障がある場合は手術が適応されます。

また、我慢できない強い痛みのために日常生活が制限されたり、排せつ機能の低下や筋力のまひなどによる尿失禁がある場合なども手術の適応となります。

従来は全身麻酔下で背中を切開し、飛び出したヘルニアを切除する方法が主流でしたが、近年は体への負担を極力抑えた、内視鏡などを用いた低侵襲ていしんしゅう※の手術が普及してきています。
中でも「PED(経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術/ペド)」は、筋肉の損傷も少なく、体への負担が非常に少ない手術として知られています。

※ダメージを少なくするために、より小さな傷で行う手術のこと。脊椎手術においては、傷の大きさ、出血量、手術時間、筋肉に対するダメージ、骨を削る範囲など、さまざまな要素が絡んでくる。

PEDは直径約2ミリの超小型カメラ装置を先端に備えた直径6~8ミリの内視鏡を用いて行います。非常に狭い椎間板の入り口から侵入し、神経を観察しながらヘルニアを除去できるため、極めて安全性が高いのが特長です。骨を削る必要もなく、出血もありません。局所麻酔を行い、手術時間は30~60分、入院期間は1泊2日と、早期に社会復帰できるのも大きなメリットの一つです。

ただし、安全な手術を行うためには高度な技術を要するため、現段階ではPEDを行うことができる医師や施設は限られています。PEDを行っている全国の病院は下記のウェブサイトで調べることができます。

太ももの筋肉を柔軟に保ち
腰痛を防ぐ

デスクワークで長時間座りっぱなしだったり、スマートフォンの操作で前傾姿勢を続けたりするなど、現代人の生活はとかく腰に負担が掛かる場面が多くあります。
腰への負担を減らすためには、太ももの裏側の筋肉群であるハムストリングスを柔軟に保つことが欠かせません。

そこでハムストリングスをやわらかくするエクササイズとして考案したのが、次の「波止場のポーズ」です。波止場にあるくいに足を乗せる船乗りのポーズをイメージして行ってみてください。

■腰椎椎間板ヘルニア予防運動 腰椎椎間板ヘルニア予防運動
■エクササイズの方法
  • 1.階段や踏み台、椅子の座面など、適度な高さの台に片足を乗せます。
    膝が90度以下に曲がるくらいの高さが最適です。
    膝がつま先より前に出ないように気をつけながらぐっと踏み込んで、ハムストリングスに力を入れます。
  • 2.もう一方の足のかかとは床につけ、背筋を伸ばします。
    ハムストリングスとふくらはぎをピンと伸ばしましょう。
  • 3.そのまま7秒キープ。いったん足を下ろして、反対の足も同様に行います。
    左右交互に10回ずつで1セットとし、朝昼晩の1日3セット行います。気が付いた時にその都度行っても良いでしょう。

足を乗せることのできる台や段差がある場所なら、いつでもどこでも行うことができるのが、このエクササイズの利点です。毎日続けることでハムストリングスがだんだんやわらかくなり、腰痛の予防や改善につながります。

筋肉が硬い人ほど、腰痛になりやすいものです。筋肉を柔軟に保つためには、腰への負担が少ない水泳や、体の深い筋肉にアプローチするヨガ、ピラティスなどの運動も効果的です。
無理のない範囲で運動を習慣にして、腰痛を防ぎましょう。

出沢 明 出沢明PEDクリニック 院長

1980年、千葉大学医学部卒業。国立横浜東病院整形外科医長、帝京大学溝口病院副院長補佐などを経て、2014年に開業。経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術「PED」を日本で初めて導入。日本内視鏡学会理事・広報委員会委員長、日本脊椎脊髄病学会理事・評議員・会則検討委員会担当理事、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)理事・財務担当・技術認定制度担当理事などを務める。著書に『もう怖くない! 筋肉のつり こむらがえり』(唯学書房)などがある。

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