健康ライフ
2020.11.27

半身浴より全身浴!? 効果的な入浴法とは

~温熱効果で心も体も温まろう~
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私たちは、湯船に浸かると「疲れがとれる」「ほっとする」など、体が楽になることを経験的に知っています。最近では研究が進み、なぜお風呂が健康に良いのかが解明されてきました。入浴の健康効果と正しい入浴方法について、東京都市大学の早坂信哉教授に伺いました。

入浴の最大の効果は
「温熱効果」による血流改善

入浴には「温熱効果」「浮力効果」「水圧効果」の3つの効果があります。
中でも注目すべき1つ目の効果は、温熱効果です。体を温めて血流が良くなることで、さまざまな健康効果が期待できます。疲労回復もそのひとつです。人間の体は37〜40兆個の細胞から成り立っていると推定されています。一つひとつの細胞に酸素と栄養分を届けているのは血液です。また、不要になった老廃物と二酸化炭素を細胞から回収するのも血液です。血流が良くなれば、体の隅々にまで血液が行き渡り、疲労回復のスピードが上がりますし、パソコンやスマホによる目の疲れや肩こりの解消にも効果的です。細胞の新陳代謝が良くなるので、肌のターンオーバーも促されます。

2つ目は浮力効果です。水に入ると体が浮くのと同じで、お風呂に肩まで浸かると浮力が働き、体重が普段の10分の1になります。体を支える筋肉や関節の負荷が減るため、体の緊張がほぐれてリラックスできます。
3つ目は水圧効果です。湯船に入ると適度に水圧がかかり、ポンプ作用で血流が増加します。足から心臓に向かって戻る血流が増えるため、むくみ改善の効果が期待できます。

■入浴の効果

「温熱効果」「水圧効果」で血液の流れが良くなり、「浮力効果」でリラックスしてさまざまな健康効果につながります。

入浴の効果

また、入浴効果で体の不調を解消できることもあります。

  • 冷え性
    お湯が直接手足を温める、いわば物理療法です。血流が増えることで冷えが改善されます。
  • 目や肩のコリ
    目の周りや肩の筋肉が緊張して血流が滞るとコリになります。コリは疲労物質が溜まった状態です。お風呂で体を温めて血流を良くすることでコリを解消しましょう。
  • 慢性の痛み
    慢性の痛みがあると、神経が過敏になってしまいます。体を温めると神経の過敏を抑えることができるので、痛みが和らぎます。関節の痛みにも入浴は効果的です。関節を包む靭帯じんたいは、温めると柔らかくなって動きが良くなるので、入浴中にストレッチでほぐすのもお勧めです。
  • 便秘
    緊張した状態にあると、自律神経の交感神経が優位になり、胃腸に行く血流が減って動きが鈍くなります。逆に、副交感神経が優位でリラックスしていると、胃腸の働きは活発になります。副交感神経を高めるには、40℃までのぬるめのお湯に入るのがお勧めです。胃腸の血流が良くなり、便秘解消につながります。
  • 眠れない
    就寝前には、自律神経を交感神経から副交感神経に切り替えましょう。ぬるめのお湯にゆったり浸かると副交感神経にスイッチが入ります。人は体温が下がると眠くなるようにできています。入浴でいったん体温を上げ、再び体温が下がってくる90分後くらいにベッドに入ると質の良い睡眠が得られます。
  • 気持ちが休まらない
    リモートワークや外出自粛で、気持ちの切り替えができなくなっている人が増えています。オンとオフの切り替えに入浴を活用しましょう。「夜9時になったらお風呂タイム」「お風呂の後はパソコンを開かない」など、入浴でメリハリをつけることができます。お湯に浸かり、副交感神経を優位にして、リラックスモードに切り替えましょう。

入浴の基本は、40℃のお湯で
全身浴、時間は10〜15分

入浴にはさまざまな健康メリットがありますが、入り方を間違えると逆効果ということもあります。次の項目をチェックしてみましょう!

  • ぬるめのお湯で半身浴をしている
  • 熱めのお湯で一気に温まる
  • ダイエットのために長く湯船に浸かる
  • 石けんで毎日、体を洗う
  • 一番風呂に入る

実は、上記はいずれも最適な入浴法ではありません。健康効果を得るための入浴法は、次のとおりです。

  • 1.効果を得るなら全身浴
    「半身浴で汗をかくと美容に良い」というイメージがありますが、残念ながら根拠はありません。半身浴はお湯が少ない分、全身浴と比べて体温を上げる時間が長くかかります。水圧と浮力も半減します。入浴は全身浴がお勧めです。
    ただし、心臓や肺の機能が落ちている人は、体への負担を減らすために半身浴が適していることがあります。
  • 2.お湯の温度は40℃が最適
    血流を増やすには、深部体温(体の内部の温度)を上げる必要があります。体表近くの体温が35℃台と低めの人もいますが、深部体温は誰でも37℃ほどで変わりません。深部体温を上げるには、これより少し高めの38~40℃のお湯が適しており、最適温度は40℃です。38℃より低いと体を温める効果が出にくかったり、41~42℃と熱くなると交感神経のスイッチが入ったり血圧が上がったりしてしまいます。熱いお湯は肌にも影響があります。お湯の温度はきちんと調節し、適温で入浴しましょう。
  • 3.入浴時間は10~15分
    お湯に長時間浸かると、体温が上がりすぎてのぼせてしまいます。肌の潤い成分を保つセラミドという成分も流れてしまうので、長湯は禁物です。入浴時間は40℃で10分から15分までが良いでしょう。途中で熱くなったら湯船から出てもOKです。入浴回数は1日1回が基本です。
    長湯はダイエットやデトックス効果がありそうですが、入浴の消費カロリーは30~40kcal程度です。汗も出ますが、それは体温が上がっているサインであって、老廃物が出ているわけではありません。ただし、温熱効果と水圧効果で血流が良くなり、腎臓に血液がたくさん運ばれて、尿の量が増えて老廃物が排出されるという効果はあります。
  • 4.洗いすぎに注意
    石けんやボディソープで洗うと、皮脂や角質が取れすぎて肌のバリア機能が低下してしまい、乾燥肌の原因になります。冬場は全身を洗うのは3日に1回くらいで十分です。石けんで毎日洗うのは、皮脂や臭いが気になる部分だけにしましょう。ゴシゴシこすらず、よく泡立てて優しく洗うのがポイントです。
  • 5.一番風呂の刺激を避ける
    肌が弱い人は、一番風呂を避けましょう。水道水には塩素が含まれるうえ、日本の水は軟水でミネラル分がほとんど溶けていないため、水と体液とのミネラル濃度の差が刺激になることがあります。一番風呂に入る場合は、入浴剤を活用しましょう。医薬部外品または浴用化粧品の表示がある入浴剤を選べば、使っている成分が分かり安心です。

時々、入浴するよりも毎日入る方が、効果は高まります。高齢者を対象にした最近の調査では、毎日入浴する人は、脳卒中や心筋梗塞のリスクが3割減るという報告もあります。30代、40代の方も、将来を見据えて入浴を習慣化しましょう。

入浴前、入浴後のケアも大切
ヒートショック対策も忘れずに

1回の入浴で、体の水分は500〜800ccほど失われます。入浴の前と後に、コップ1〜2杯の水を飲んで水分を補いましょう。
冬場はヒートショックにも注意が必要です。暖かい部屋から寒い脱衣所に移動すると、血管が縮んで血圧が上がり、お湯に入って少しすると温熱効果で血管が広がり血圧が下がります。この血圧の急激な上下が負担になり、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。65歳以上の高齢者に多い症状ですが、若くても血圧が高い人、コレステロールが高い人、糖尿病を患っている人は注意が必要です。お酒を飲んで酔った直後の入浴も避けるようにしましょう。
湯船から出た後は、肌の乾燥が進みます。入浴後はすぐに肌を拭いて髪を乾かし、肌には10分以内に保湿効果のあるスキンケア剤を塗りましょう。

体が冷えて辛い、リモートワークで疲れている、運動不足で体が重い…。コロナ禍でストレスを溜めている今こそ、お風呂の健康効果を上手に活用するため、普段入浴しない方も、お風呂習慣を取り入れましょう。

早坂 信哉 東京都市大学人間科学部教授

温泉療法専門医、博士(医学)。1993年自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。2002年自治医科大学大学院医学研究科修了後、浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学スポーツ・健康科学部教授などを経て、現職。(一財)日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、(一社)日本銭湯文化協会理事、日本入浴協会理事。生活習慣としての入浴を医学的に研究する第一人者。メディア出演も多数。著書に『たった1℃が体を変える ほんとうに健康になる入浴法』(KADOKAWA)、『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案』(大和書房)など。

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