知っておきたい病気・医療
2018.12.07

乾燥する季節は咳喘息にご用心

~夜眠れないほどの咳は、喘息の可能性も~
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寒さが厳しくなり、乾燥がつらい季節は、風邪を引きやすくなります。風邪をきっかけに長引く咳に悩まされる人が増えますが、“咳だけ”と思って軽く考えてはいませんか。1週間以上、咳が長引くようであれば、 “咳喘息”を疑っても良いかもしれません。ひどくなると本格的な喘息に移行することもあります。30〜40代に増えていると言われる咳喘息の症状や予防法について、佐野虎ノ門クリニック院長の佐野靖之先生に伺いました。

咳だけが続く
咳喘息は「喘息予備軍」

咳喘息とは、気管支が過敏になりアレルギー性の咳が発作的に続く病気で、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘息の典型的な呼吸音(喘鳴ぜいめい)や息苦しさはありません。
風邪がきっかけとなることがほとんどで、風邪を引いてから2〜3日後、風邪の症状は良くなっても咳だけが続き、次第にひどくなっていくのが典型的な経過です。咳喘息の発症は、体質の変化が影響していると考えられます。花粉症を発症するように、環境などさまざまな要因によってアレルギー体質になり、風邪や季節の変わり目の寒暖差、冷気、乾燥によるホコリなどが誘発剤となって、咳喘息を発症するケースが多いようです。

咳だけといっても、風邪の咳とは明らかに違います。咳喘息はいったん治まっても、完全に改善せず咳発作を繰り返し、夜も咳で眠れなくなったり、昼間も大声で話した時などに激しく咳き込むようになるなど、症状は徐々に悪化していきます。また、気道は炎症によって過敏になり、次第にタバコや整髪料、香水など人工的な匂いや冷気など、普通であれば何ともないようなものに反応するようになります。激しい咳が続くと体力も消耗し、生活の質も低下してしまいます。
重症の咳喘息の3割は喘息に移行すると言われています。咳喘息はいわば「喘息予備軍」です。早めに対処し、発作を繰り返さないためにも、咳が1週間以上続く場合は呼吸器科やアレルギー科の専門医を受診しましょう。

■咳喘息チェック

以下の項目に3項目以上当てはまる場合は、咳喘息の可能性があります。

  • 咳がいったん出ると咳き込んで止まらなくなる
  • 夜、横になると咳き込んで寝つきにくい
  • 夜中に咳き込んで目が覚めることがある
  • 大きな声を出したり、長く話したりすると咳き込む
  • 冷気、寒暖差で咳き込む
  • 電車の中や人混みで咳き込む
  • タバコの煙や強い香水の匂いが苦手
  • 風邪の後に激しい咳が続いた経験がある
  • 咳は激しいが息苦しさやゼイゼイという音はない
  • 子供のころ、小児喘息だった
  • 喉のイガイガを取り除こうと咳をした結果、咳き込む

(佐野先生作成の問診票を一部改変)

咳喘息の診断と治療
吸入ステロイドを正しく使う

専門医は、問診から特徴的な症状を見極めたうえ、さまざまな検査で気道の状態や呼吸機能などを確かめ、診断します。咳喘息では多くの場合、呼吸機能、特にPEFR(ピークフローレート)と呼ばれる最大呼気流量の低下が見られます。

また、感染症による咳など他の疾患との識別も重要です。感染症による咳は鎮咳剤ちんがいざいや抗生剤で比較的短期間に改善することが多いのですが、これらの薬を使ってもなかなか咳が治まらない場合は、咳喘息が疑われます。

咳喘息の場合は、重症度に応じた治療を行うことが重要です。軽症の場合はβ刺激剤(気管支を拡張して咳などを改善する薬)だけで改善することもありますが、長く話した時に咳き込む、息苦しさを感じる、夜に咳き込んで眠れないといった中等症以上の場合は、基本的には気道の炎症を抑える吸入ステロイド剤(単剤)や、吸入ステロイド剤とβ刺激剤の合剤が第一選択になります。重症になると咳発作で嘔吐したり、失神したりする場合もあり、このような場合は経口ステロイド剤が使われることもあります。
吸入ステロイド剤を処方されていても、正しく吸入できていなければ効果が表れません。薬の種類や量によって方法は多少異なりますが、基本的には息を吐き切ってから、十分肺に行き渡らせるように薬を吸い込むのがコツです。医師や薬剤師に正しい使い方を聞いて、上手に薬を使うようにしましょう。吸入ステロイド剤を正しく使って丁寧に治療をすれば、10日から2週間くらいで呼吸機能が上がり、咳もかなり少なくなります。
咳喘息を悪化させずに早く治すには、患者さん側から症状について詳しく伝えることが重要で、的確な診断の参考になります。例えば、いつごろから始まったのか、どんなときに悪化するのか、咳の出る場所・時間帯、激しさの程度などを、なるべく把握して伝えるようにしましょう。

咳発作を繰り返さないことが大事
我慢せず早めに受診を

「そのうち治る」「ただの風邪だろう」と我慢してしまいがちですが、咳喘息を甘く見てはいけません。1〜2回は軽症のうちに治まっても、3回、4回と風邪を引き咳発作を繰り返すうちに、症状はどんどん悪化し、確実に喘息へ近づいていきます。気管が腫れぼったい、気管が痛い、気管が狭くなったように感じて少し息苦しい、などの症状があれば、すでに喘息へ移行し始めている可能性が高いと言えます。このような場合はアレルギー体質があることを自覚し、風邪を引かないように注意を払う、ホコリや寒暖差などの悪化要因を避けるなど、より一層の予防に努めましょう。

喉を守り、咳を防ぐ日常の対策としては、適切な湿度(50〜60%)を保ち、喉の潤いを保つことや、のど飴などを持ち歩くのもお勧めです。抗炎症作用や抗酸化作用があるハチミツも効果があります。また、大声で話したり、長時間話しすぎたりすると、喉を刺激して咳がひどくなります。低く小さめの声で話すようにする、マスクをして冷気や人工的な匂いを避けるなど、気道を刺激しないように工夫しながら過ごしましょう。

■喉を守り、咳を防ぐ対策
  • 風邪を引かないようにすること
  • 乾燥を防ぎ、室内の湿度を50〜60%に保つ
  • マスクを着用する
  • のど飴などで喉を潤す
  • 大きな声で話す必要がある場面ではマイクを使う
  • タバコ、整髪料、香水など刺激となる人工的な匂いを避ける

疲労がたまると風邪を引きやすくなります。自分の体調を把握してセルフケアを心掛けましょう。喘息になってしまうと、完治することは難しくなります。「咳だけだから」と放置せず、重症になる前の早い段階で専門医を受診することをお勧めします。

佐野 靖之 佐野虎ノ門クリニック 院長

1970年東京大学医学部卒業。1972年東京大学物療内科入局。東京大学物療内科文部教官助手、米国ネブラスカ州クレイトン大学アレルギー病センター、独立行政法人国立国際医療センター病院、東京大学医学部非常勤講師などを経て、2006年佐野虎ノ門クリニック 東京アレルギー・喘息研究所開設。著書に『ぜんそく最新治療と健やかな毎日の知識』(法研)、『ぜんそくに克つ生活読本 発作のない健康な毎日を取り戻す!』(主婦と生活社)、『隠れぜんそく』(幻冬舎) など。

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