寒さが厳しくなり、乾燥がつらい季節は、風邪を引きやすくなります。風邪をきっかけに長引く咳に悩まされる人が増えますが、“咳だけ”と思って軽く考えてはいませんか。1週間以上、咳が長引くようであれば、 “咳喘息”を疑っても良いかもしれません。ひどくなると本格的な喘息に移行することもあります。30〜40代に増えていると言われる咳喘息の症状や予防法について、佐野虎ノ門クリニック院長の佐野靖之先生に伺いました。
咳だけが続く
咳喘息は「喘息予備軍」
咳喘息とは、気管支が過敏になりアレルギー性の咳が発作的に続く病気で、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘息の典型的な呼吸音(
風邪がきっかけとなることがほとんどで、風邪を引いてから2〜3日後、風邪の症状は良くなっても咳だけが続き、次第にひどくなっていくのが典型的な経過です。咳喘息の発症は、体質の変化が影響していると考えられます。花粉症を発症するように、環境などさまざまな要因によってアレルギー体質になり、風邪や季節の変わり目の寒暖差、冷気、乾燥によるホコリなどが誘発剤となって、咳喘息を発症するケースが多いようです。
咳だけといっても、風邪の咳とは明らかに違います。咳喘息はいったん治まっても、完全に改善せず咳発作を繰り返し、夜も咳で眠れなくなったり、昼間も大声で話した時などに激しく咳き込むようになるなど、症状は徐々に悪化していきます。また、気道は炎症によって過敏になり、次第にタバコや整髪料、香水など人工的な匂いや冷気など、普通であれば何ともないようなものに反応するようになります。激しい咳が続くと体力も消耗し、生活の質も低下してしまいます。
重症の咳喘息の3割は喘息に移行すると言われています。咳喘息はいわば「喘息予備軍」です。早めに対処し、発作を繰り返さないためにも、咳が1週間以上続く場合は呼吸器科やアレルギー科の専門医を受診しましょう。
以下の項目に3項目以上当てはまる場合は、咳喘息の可能性があります。
- □咳がいったん出ると咳き込んで止まらなくなる
- □夜、横になると咳き込んで寝つきにくい
- □夜中に咳き込んで目が覚めることがある
- □大きな声を出したり、長く話したりすると咳き込む
- □冷気、寒暖差で咳き込む
- □電車の中や人混みで咳き込む
- □タバコの煙や強い香水の匂いが苦手
- □風邪の後に激しい咳が続いた経験がある
- □咳は激しいが息苦しさやゼイゼイという音はない
- □子供のころ、小児喘息だった
- □喉のイガイガを取り除こうと咳をした結果、咳き込む
(佐野先生作成の問診票を一部改変)
咳喘息の診断と治療
吸入ステロイドを正しく使う
専門医は、問診から特徴的な症状を見極めたうえ、さまざまな検査で気道の状態や呼吸機能などを確かめ、診断します。咳喘息では多くの場合、呼吸機能、特にPEFR(ピークフローレート)と呼ばれる最大呼気流量の低下が見られます。
また、感染症による咳など他の疾患との識別も重要です。感染症による咳は
咳喘息の場合は、重症度に応じた治療を行うことが重要です。軽症の場合はβ刺激剤(気管支を拡張して咳などを改善する薬)だけで改善することもありますが、長く話した時に咳き込む、息苦しさを感じる、夜に咳き込んで眠れないといった中等症以上の場合は、基本的には気道の炎症を抑える吸入ステロイド剤(単剤)や、吸入ステロイド剤とβ刺激剤の合剤が第一選択になります。重症になると咳発作で嘔吐したり、失神したりする場合もあり、このような場合は経口ステロイド剤が使われることもあります。
吸入ステロイド剤を処方されていても、正しく吸入できていなければ効果が表れません。薬の種類や量によって方法は多少異なりますが、基本的には息を吐き切ってから、十分肺に行き渡らせるように薬を吸い込むのがコツです。医師や薬剤師に正しい使い方を聞いて、上手に薬を使うようにしましょう。吸入ステロイド剤を正しく使って丁寧に治療をすれば、10日から2週間くらいで呼吸機能が上がり、咳もかなり少なくなります。
咳喘息を悪化させずに早く治すには、患者さん側から症状について詳しく伝えることが重要で、的確な診断の参考になります。例えば、いつごろから始まったのか、どんなときに悪化するのか、咳の出る場所・時間帯、激しさの程度などを、なるべく把握して伝えるようにしましょう。
咳発作を繰り返さないことが大事
我慢せず早めに受診を
「そのうち治る」「ただの風邪だろう」と我慢してしまいがちですが、咳喘息を甘く見てはいけません。1〜2回は軽症のうちに治まっても、3回、4回と風邪を引き咳発作を繰り返すうちに、症状はどんどん悪化し、確実に喘息へ近づいていきます。気管が腫れぼったい、気管が痛い、気管が狭くなったように感じて少し息苦しい、などの症状があれば、すでに喘息へ移行し始めている可能性が高いと言えます。このような場合はアレルギー体質があることを自覚し、風邪を引かないように注意を払う、ホコリや寒暖差などの悪化要因を避けるなど、より一層の予防に努めましょう。
喉を守り、咳を防ぐ日常の対策としては、適切な湿度(50〜60%)を保ち、喉の潤いを保つことや、のど飴などを持ち歩くのもお勧めです。抗炎症作用や抗酸化作用があるハチミツも効果があります。また、大声で話したり、長時間話しすぎたりすると、喉を刺激して咳がひどくなります。低く小さめの声で話すようにする、マスクをして冷気や人工的な匂いを避けるなど、気道を刺激しないように工夫しながら過ごしましょう。
- □風邪を引かないようにすること
- □乾燥を防ぎ、室内の湿度を50〜60%に保つ
- □マスクを着用する
- □のど飴などで喉を潤す
- □大きな声で話す必要がある場面ではマイクを使う
- □タバコ、整髪料、香水など刺激となる人工的な匂いを避ける
疲労がたまると風邪を引きやすくなります。自分の体調を把握してセルフケアを心掛けましょう。喘息になってしまうと、完治することは難しくなります。「咳だけだから」と放置せず、重症になる前の早い段階で専門医を受診することをお勧めします。
1970年東京大学医学部卒業。1972年東京大学物療内科入局。東京大学物療内科文部教官助手、米国ネブラスカ州クレイトン大学アレルギー病センター、独立行政法人国立国際医療センター病院、東京大学医学部非常勤講師などを経て、2006年佐野虎ノ門クリニック 東京アレルギー・喘息研究所開設。著書に『ぜんそく最新治療と健やかな毎日の知識』(法研)、『ぜんそくに克つ生活読本 発作のない健康な毎日を取り戻す!』(主婦と生活社)、『隠れぜんそく』(幻冬舎) など。