知っておきたい病気・医療
2017.11.10

若い世代も注目!
侮れない白内障

20代・30代でも発症するケースも
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年齢とともにシワや白髪が増えたりするのと同じように、目も加齢に伴い老化します。その代表的な目の老化現象の一つが「白内障(老人性白内障)」です。しかし、「最近は老化以外の要因で、早ければ20代~30代で発症する例も増えている」と、医療法人財団順和会 山王病院アイセンター(眼科) センター長の清水公也さんは語ります。白内障とはどのような病気なのでしょうか。正しく理解して、早期発見・早期治療につなげましょう。

老眼は白内障の
初期症状の一つ

目の中でレンズの役目を果たしている「水晶体」。ほぼ無色透明で、ちょうど凸レンズのような形をしています。水晶体は、近くを見るときには厚くなり、遠くを見るときには薄くなります。このように厚みを変えることで光の屈折を調節し、物がゆがんで見えないようにピントを合わせているのです。

水晶体は20歳を過ぎた頃から徐々に弾力性が低下し、ピントを合わせにくくなっていきます。40代で近くの物が見えにくくなる「老眼」になるのもそれが原因です。
さらに加齢が進み50代を過ぎると、水晶体の弾力性にばらつきが出てゆがみ、ピントの合い方が悪くなる「乱視」が老眼に加わり、やがて白内障へと進行していきます。

白内障は、本来透明に近い水晶体が白く濁ることで光が散乱し、物が見えにくくなる病気です。病気といってもある日突然発症するものではなく、加齢とともに誰にでも起こり得る現象なのです。70代以降90%を超える人に症状が表れます。

白内障の主な症状は下記の通りです。

  • ■眼鏡やコンタクトレンズをつけても視力が低下したままでよく見えない
  • ■室内外問わず、光をまぶしく感じる
  • ■目がかすんだり、物が二重に見えたりすることが増える

視力が低下しても通常の近視や老眼、乱視なら眼鏡やコンタクトレンズで視力矯正することができますが、白内障の場合はそれができないのが決定的な違いです。自覚症状がある場合はもちろん、ご家族など身近な人がこのような症状で悩んでいたら、ぜひ一度眼科の受診を勧めてください。

アトピーや生活習慣病患者の場合は
若くても白内障になることも

白内障の約8割は加齢によるものですが、それ以外にも外傷で目に強い衝撃を受けたり、強力な紫外線や放射線を長期間浴びるなど、他の原因もいくつかあります。

特に、まだ若いからといって油断できないのが、アトピー性皮膚炎の合併症である「アトピー性白内障」です。かゆみのためにまぶたをこすったり、たたいたりすることが影響している可能性が高く、特に利き腕の方の目に白内障が生じやすい傾向が見られます。また、副腎皮質ステロイド性抗炎症点眼剤を長期間にわたって使用することも一因と考えられています。

どのような病気でもそうですが、年齢が若いほど症状は早く進行します。最近は、アトピー性白内障を発症した後、わずか数か月~半年程度であっという間に視力が低下してしまう20代~30代の人が増えています。普段からできるだけ目をこすらないよう気をつけるのはもちろん、目に異変を感じたら早めに眼科を受診するようにしてください。仕事が忙しいからと病院に行くのを後回しにしているうちに、悪化してしまうケースは少なくありません。

また、主に40代~50代に増えているのが糖尿病の合併症である「糖尿病性白内障」です。この場合も年齢が若いほど症状が急激に進む傾向があります。そのほか、抗がん剤や副腎皮質ホルモン(ステロイド)による副作用も、白内障を引き起こす原因の一つとされています。

加齢による目の老化をピンポイントで防ぐ方法はありませんが、食事のバランスに気をつけたり、適度な運動を定期的に行ったりと、健康的な生活を心がけることはとても大切です。糖尿病やがんなどから身を守ることは、結果的に白内障の発症を遅らせることにつながります。

術後の見え方を考慮した
最新の治療法とは

白内障の治療では、濁った水晶体を超音波で砕いて取り出し、眼内レンズを入れる手術が広く行われています。

白内障手術に用いられている眼内レンズにはさまざまな種類がありますが、大きく「単焦点」と「多焦点」の2つに分けられます。

このうち健康保険が適用される単焦点眼内レンズは、遠くか近くのどちらか一方に焦点を合わせるものです。それ以外の距離に焦点を合わせたいときには眼鏡で調整する必要があります。

一方、多焦点眼内レンズは遠くと近くの両方にピントが合うのが特徴です。こちらは現在先進医療であるため、健康保険は適用されません。
「眼鏡がなくても遠くも近くも見えるようになりたい」と多焦点眼内レンズを希望する人は多いですが、視力に左右差がある場合などは多焦点眼内レンズを入れた結果、見え方に違和感を覚えたり、不快感を抱くケースも少なくありません。

その大きな理由は、遠くと近くの両方にピントが合うことで、視覚情報が格段に増えることにあります。通常、人は見たいものだけを見て、見たくないものは脳がシャットアウトして見ないようにしています。例えば、誰かと話をするとき、相手の顔はしっかり見ていても、視界に入っている周りの様子までは見ていないはずです。

それが多焦点眼内レンズを入れることで何から何まで認識してしまうため、脳が情報を処理しきれなくなり、不自然さや不快さを感じやすくなるのです。

実際、多焦点眼内レンズを入れた後に不具合を感じ、眼内レンズの交換を希望する患者さんは10人に1人程度の割合です。再度手術することは可能ですが、非常に難しい治療になります。

こうした術後の「見え方」をより自然で快適なものにする方法として、比較的よく見える利き目の方に単焦点眼内レンズを、もう一方の目に多焦点眼内レンズを入れる「ハイブリッドモノビジョン法」が近年では行われるようになってきています。

白内障の手術は年間約130万件以上行われており(出典:公益社団法人 日本白内障屈折矯正手術学会より)、最も安全な治療法の一つといえます。症状によっては、日帰りで治療を受けることも可能です。

大切なのは、「手術を受けた後にどういう見え方を望んでいるのか」ということを医師とよく話し合うことです。自分の職業やライフスタイルなどに応じて最も適した眼内レンズを選ぶためにも、手術前にしっかり検査を受け、きちんと納得できるまで相談しましょう。また、できれば複数の眼科を受診し、十分に比較検討したうえで手術を受ける病院を選ぶことをお勧めします。

老化現象と諦めずに、普段の生活から目の状態をチェックし、適切な対処をしましょう。

清水 公也 医療法人財団順和会 山王病院アイセンター(眼科)センター長
国際医療福祉大学 病院教授

1976年北里大学医学部卒業。東京大学大学院で博士号を取得、武蔵野赤十字病院眼科部長を経て北里大学医学部眼科主任教授となり、2016年から現職。世界初となる点眼麻酔や前嚢ぜんのう切開による眼科手術、ディスポーザブル眼内レンズ、乱視矯正眼内レンズの開発など、現代の白内障手術の礎を築く。清水医師が開発し、現在世界70カ国以上で使用されている眼内コンタクトレンズ(ICL KS-AquaPORT)を用いた屈折矯正手術は、レーシックを超えた次世代近視矯正手術として注目されている。

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