健康マメ知識
2020.09.11

免疫を整える「腸活」のススメ

~「“良い菌”をとる」に加え「菌がつくる成分」にも注目~
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体内に侵入してきた異物と闘う「免疫」の機能を保つことは、健康を維持するうえで重要です。そのカギを握る免疫器官が腸です。腸内細菌はさまざまな働きをしていることが知られていますが、最近の研究では、菌が作り出す代謝物が免疫に深く関わっていることが分かってきました。腸内環境を整えて、健康を維持するための「腸活」の最新情報について、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターの國澤 純センター長に伺いました。

腸は免疫のカギを握る
大切な器官

食べ物を消化し、栄養を吸収する働きを持つ腸は、体の中で最大の免疫器官とも言われています。免疫とは、体内に入ってきた異物を認識して排除する生体防御のシステムですが、腸には、ウイルスなどの外敵に加え、食べ物や腸内細菌が同居しています。そのため、腸の免疫細胞は、外敵を排除する生体防御に働くと同時に、異物であっても必要な栄養成分や腸内細菌は排除せず、共存・共生・利用する独自のシステムを持っています。こうした働きをし続けるために、腸には常に多種多数の免疫細胞が存在し、免疫が発達していると言われています。

腸の内壁は管状になっており、絨毛じゅうもうと呼ばれるヒダで覆われています。上皮細胞だけでなく、絨毛組織の奥(粘膜固有層)に抗体を作るB細胞、異物を攻撃するT細胞など、多くの免疫細胞が存在しています。体内の免疫細胞の約6割が腸に集中しており、細菌やウイルスなどの病原体の侵入を防ぎ、感染させないという重要な役割も担っています。

腸で免疫が働くしくみとは

免疫細胞自体は小腸に多いため、以前は主に小腸の免疫を中心に研究が進められていました。近年、腸内細菌の研究が進んだこともあり、多くの腸内細菌が棲息せいそくする大腸の免疫機能にも注目が集まっています。
基本的に栄養を吸収する役割の小腸では、異物となる食品成分に過剰に反応しないようにするため、免疫を抑制するシステムが発達しています。一方、消化・吸収された後の不要物を排出する役割が中心となる大腸では、免疫が活性化しやすい環境にあります。このような大腸の環境においては、腸内細菌が食物繊維などを分解し、短鎖脂肪酸を産生することで、免疫の暴走を抑えたり、さらに腸管バリアのエネルギーにもなることで恒常性を保っています。
小腸には「パイエル板」と呼ばれる免疫細胞が集まった組織があります。ここはウイルスなど病原体の情報を免疫細胞に伝える教育の場所になっていて、ここで学習した免疫細胞が、記憶した情報を全身に伝えていきます。なお、大腸にもパイエル板と同じような働きをする「コロニックパッチ」と呼ばれる部分があります。

■腸は免疫細胞を制御する 腸は免疫細胞を制御する

このように、腸は異物の情報を記憶し、必要に応じて免疫機能をコントロールしながら全身に指令を送る、言わば「免疫の司令塔」の役割を果たしています。ただし、特定の食べ物や物質に対して、指令の伝達系統がおかしくなり、過剰に反応してしまうと、全身の機能に悪影響を及ぼすこともあります。
つまり、免疫機能は活性化すればするほど良いわけではなく、抑制と活性化が適切に働くことが重要です。

腸内細菌の多様性と
菌が作り出す代謝物が重要

ヒトは500〜1000種類の腸内細菌を常に100兆個以上保有していると言われています。その中には免疫を活性化しやすい菌もいれば、抑制しやすい菌もいて、それら異なる機能の菌がどのくらい棲んでいるのか、その構成は人によってさまざまです。
私たちが食事として摂取した栄養は、腸内細菌のエサにもなります。腸内細菌も好きな栄養がありますので、偏ったものばかり食べていると、腸内細菌叢ちょうないさいきんそうも、それが好きな菌ばかりに偏ってしまいます。また、腸内細菌は取り込んだ食品成分を代謝させて、代謝物という形で体に供給します。この代謝物が免疫に影響を与えるため、どんな菌がどんな代謝物を作るかということが注目されるようになってきています。

腸内細菌の代謝物① 脂質代謝物

注目される腸内細菌の代謝物の一つは、脂質(油)を由来とする代謝物です。健康に良いと注目されているアマニ油やエゴマ油に多く含まれる成分に、αリノレン酸という必須脂肪酸があります。「オメガ3」と言われるものの一つです。αリノレン酸は腸で吸収された後、体内の酵素によってEPAやDHAに変換されます。EPAやDHAはさらに代謝され、さまざまな健康増進効果を発揮します。最近の研究から、私たちの体の中の酵素だけではなく、腸内細菌や発酵食品に含まれる微生物も酵素を発現し、代謝物を作ることが分かってきました。例えば、EPAから作られる17,18-EpETEという代謝物は、アレルギーや炎症を抑える働きがあることが研究で示されています。この代謝物はアマニ油を摂取することで私たちの体の中で作り出されます。同様に、納豆菌などに含まれる酵素でも作り出すことができるので、納豆とEPAを一緒に摂れるような食事を組み合わせれば、免疫に良い効果が期待できます。

腸内細菌の代謝物② 短鎖脂肪酸

細菌が食物繊維を発酵させてできる代謝物が短鎖脂肪酸で、酢酸、酪酸、プロピオン酸などが代表的なものです。酢酸は、強い殺菌力を持ち有害な細菌から腸を守り、酪酸は、エネルギー源として大腸の働きを助けます。
短鎖脂肪酸は、腸管でのバリアの働きをする上皮細胞のエネルギー源になったり、腸内環境のphを下げて病原体が嫌う酸性に保つことで、感染を抑えたりするなどの働きがあると言われています。

どんな菌とどんな食物繊維が組み合わされるかによって、できる代謝物は違ってきます。例えばビフィズス菌は酢酸を作りますが、酪酸を作ることはできません。一方、酪酸産生菌は炭水化物やアミノ酸からも酪酸を作りますし、ビフィズス菌が作った酢酸を酪酸産生菌がもらって、そこから酪酸を作り出すという代謝経路もあります。こうしたことからも、多様な菌がある方が健康に良い作用をもたらしてくれると言えます。

必須栄養素をしっかり摂って
免疫を整えよう

悪い外敵から防御する免疫はすぐに働いてほしいものですが、それが行き過ぎてしまうと、アレルギーや自己免疫疾患など、悪影響も出てきます。むやみに免疫機能を上げるよりも、活性化と抑制が適切に働く機能を維持することが大切です。

強いストレスがかかったり栄養バランスが崩れたりすると、免疫機能が下がってしまいます。例えば、ビタミンB1が欠乏すると、免疫機能が大きく下がることが分かっています。腸内細菌にはビタミンを作る菌と、使うだけの菌がいることが知られています。仮に使うだけの菌ばかりだと、食事からビタミンを摂取しても腸管からの吸収と腸内細菌との取り合いになり、栄養不足状態に陥りやすくなってしまうかもしれません。

自分の体では作ることのできない必須栄養素(ビタミン、ミネラル類)は免疫にとっても重要ですので、食事からしっかり摂ることが大切です。脂に溶ける脂溶性ビタミンであるビタミンA 、Dは、体に蓄積して過剰症が起こらないよう、摂りすぎに注意が必要です。一方、ビタミンB、Cなどは水に溶ける水溶性ビタミンのため、余剰分は尿から排出されるので過剰症の心配はないものの、不足しないように日常的に摂取することが重要です。また、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルも不足しがちですし、油ではオメガ3、オメガ6と呼ばれる不飽和脂肪酸は体内で作れない成分なので、食品から摂ることが必要です。
いずれも免疫機能を適切に保つのに大事な栄養素ですので、栄養バランスを意識して摂り、免疫機能を「整える」ことを心掛けましょう。

自分の腸内細菌に合う
食べ物、食べ方を見つける

個人が持っている酵素や、腸内細菌の種類や発酵食品に含まれる微生物の種類はさまざまなので、同じような食事をしてもどんな代謝物をどのくらい作ることができるのか、それによる健康への効果は人によって違います。自分の体に合わせてうまく取り入れていくことが大切です。
まずは自分の腸内細菌の個性を知るために、例えば「便秘になりがちなときは、この発酵食品を食べると、お通じが良くなる」といった感じで、「これを食べると調子が良くなる」と体感できるものを把握しましょう。色々な食品や食べ方を試してみて調整していくのが一つの方法です。ちなみに、発酵食品は腸内細菌の代わりをしたり、腸内細菌を刺激したりするため、積極的に摂ることをお勧めします。良さそうな食品や食べ方を見つけたら、それをしばらく続けるのがコツです。特定の効果をうたった食品もありますので、自分の目的に合うものを選んで取り入れてみるのも良いでしょう。

國澤 純 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
ワクチン・アジュバント研究センター センター長

2001年3月大阪大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。
日本学術振興会特別研究員、米カリフォルニア大学バークレー校研究員、東京大学医科学研究所准教授などを経て2013年より現職。腸の免疫の観点から、ワクチンや機能性食品開発などの研究を行うと共に、地域連携のコホート研究やヘルスケア領域の研究も行う。

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