脳梗塞やくも膜下出血などの脳血管疾患は、発症後に重い後遺症が出たり、突然死を招くこともあります。発症前はほとんど自覚症状がないため、早期発見には検査を受けることが不可欠です。そこで注目されるのが、脳の健康状態を総合的にチェックできる脳ドックです。脳ドックではどんな検査が行われ、どのようなことが分かるのか、東京脳神経センター副所長の北條俊太郎さんに伺いました。
40代以降に増加する
脳血管疾患
「がん(悪性新生物・上皮内新生物)」「心疾患」と並ぶ日本の三大疾病の一つ「脳血管疾患」。脳血管疾患とは、脳の血管の障害によって引き起こされる「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」などの脳のさまざまな病気の総称で、「脳卒中」とも呼ばれます。
2017年の国内の脳血管疾患の患者数は111万5,000人(厚生労働省「患者調査」)です。年代別では30代から発症する人が現れ始め、40代から徐々に増加し、50代以降は急激に増える傾向が見られます。
脳血管疾患は、発症するまでほとんど自覚症状はありません。しかし、発症すると命に関わるようなケースや、手足の
また、近年では発症後に認知症が進行する要因となることも分かっており、寝たきりになったり、介護が必要になったりするケースも決して少なくありません。
そこで、早期発見・早期治療のためにも活用したいのが「脳ドック」です。
脳ドックで行われる
4つの主な検査
脳ドックでは、主に以下の4つの検査が行われます。
MRI(磁気共鳴画像装置)を用いて、頭部や頭蓋内の断層写真を撮影します。脳の中を輪切りにしたような状態で観察することができるため、さまざまな脳血管疾患をはじめ、脳腫瘍の発見にも役立ちます。また、過去に起こした軽度の小さな脳梗塞や脳出血もこの検査から分かることがあります。脳の萎縮なども分かることから、認知症の発見につながることもあります。
さらに、脳の一部が白く変化する「
MRIを用いて、頭部の血管だけを立体的に撮影する方法がMRA検査です。脳の動脈硬化や血管の
くも膜下出血は死亡率の高い病気の一つですが、未破裂脳動脈瘤の段階で発見することができれば、出血を回避することが可能となります。
MRIを用いて、頸部の血管(頸動脈)の状態を立体的に撮影します。脳に血液を送る重要な血管である頸動脈の動脈硬化が進むと、将来的に脳梗塞を発症するリスクが高まります。
頸部MRA検査で頸動脈の狭窄や
首の血管に超音波を当て、血管壁の厚さを測定し、頸動脈のプラーク(コレステロールなどが溜まって厚くなったもの)で血管に狭窄や閉塞があるかどうかを観察します。
頸部MRA検査と同様、将来的に脳梗塞を発症するリスクを早期に発見し、予防につなげることができます。
いずれの検査も安全性が高く、検査による副作用の心配はほとんどありません。また、頭部MRI・MRA検査、頸部MRA検査の撮影時間はトータルで30分程度、頸部超音波検査も30分程度と比較的短時間で終了し、検査結果は、一般的に数週間後に郵送で届きます。
費用は頭部MRI・MRA検査のみの場合、2万円前後で受けられます。脳ドックに全身のがんを調べる腫瘍マーカーや早期アルツハイマーの検査などを組み合わせたコースが用意されている医療機関もあります。
結果のレポートが送られてくるだけのコースもありますが、最も重要なことは生活習慣病や疾患の危険性などについて医師と十分に話ができる機会を持つことです。
検査を受ける医療機関を選ぶ際には、二次検査や外科的治療が必要になった場合の対応などもあらかじめ確認しておくと安心です。
なお、MRI・MRA検査では強い磁力を使うため、磁石に反応するペースメーカーや人工内耳、金属製の人工歯などを装着している人は、検査を受けることが原則できません。
また、タトゥーやアートメークは、色素が磁場と電磁波に反応し、やけどや変色の原因となる場合もあります。
脳血管疾患の危険因子、
動脈硬化を防ぐ!
脳ドックで発見できることとして、以下の4つが挙げられます。
- 1.動脈硬化
- 2.脳動脈瘤
- 3.脳の萎縮
- 4.脳腫瘍など、脳血管疾患以外の病気
上記のうち、特に脳血管疾患に大きな影響を与えるのが「動脈硬化」です。動脈硬化を引き起こす二大原因は、「加齢」と「生活習慣」です。
今、症状がない場合でも、運動不足や多量の飲酒、高糖質・高脂質の食生活、睡眠不足、過度のストレスといった体に負担をかけるような生活習慣を続けていくと、10年後、20年後と年齢を重ねるにつれて、脳血管疾患を発症するリスクは必然的に高まります。
特に、メタボリック症候群の場合は軽症であっても注意が必要です。内臓脂肪型肥満に高血圧、高血糖、脂質異常症などが重なると動脈硬化を悪化させ、脳血管疾患発症のリスクを高めることになります。
40代以降で、LDLコレステロール値や血糖値、血圧値の高さなどを指摘されている場合は、年に一度くらいのペースで定期的に脳ドックを受診することをお勧めします。
脳ドックを受診する際には、医師の診察を受け、疾患の危険性や、生活習慣を改善するためのアドバイスなどをしっかり聞きましょう。生活習慣を改善し、動脈硬化を防ぐことで、将来の脳血管疾患のリスクを減らすことができます。脳ドックを受診して、脳の病気の早期発見、予防につなげましょう。
脳神経外科医。医学博士。1972年東京大学医学部卒業。都立豊島病院脳神経外科、東京警察病院脳神経外科を経て、米国モンテフィオーレ病院神経病理学講座に留学。転移性脳腫瘍について研究を行う。帰国後、帝京大学脳神経外科助教授、帝京平成大学情報学部教授、帝京大学医学部客員教授などを経て、2007年から現職。