体にできる“石”の代表格である、尿路結石。男性の7人に1人、女性の15人に1人が一生のうちに一度は経験すると言われる身近な病気です(参照:尿路結石症診療ガイドライン2013)。「痛いのは嫌だけど、石が出てしまえば大丈夫」と思っていませんか? 尿路結石は生活習慣が強く影響する病気で、放置すれば将来の健康を大きく損ないかねません。尿路結石の予防法や再発のリスク、最新の治療法などについて大口東総合病院泌尿器科部長の松崎純一先生に伺いました。
尿路結石とは
尿の通り道にできる石
尿路結石とは、その名のとおり、尿の通り道(尿路)に石ができる病気です。尿を作る腎臓にできる「腎結石」、尿が通る管である尿管にできる「尿管結石」、膀胱にできる「膀胱結石」、尿の出口である尿道にできる「尿道結石」があります。尿路結石のうち9割以上は腎結石と尿管結石です(参照:尿路結石症診療ガイドライン2013)。
結石の多くは尿を作る腎臓の中(腎実質)で作られます。結石が腎臓の中にあるうちは痛みがないことが多い(腎結石)のですが、剥がれて下に落ち、尿管の途中に詰まると、急な激痛や発熱などの症状を引き起こします。
石が尿管の壁を傷つけて痛むと思われがちですが、尿管に結石が詰まり、尿が流れなくなったり逆流したりして腎臓を圧迫することで、痛みが生じるのです。この時の痛みは、どんなに屈強な人でも我慢できないほど激しい痛みです。腎臓は左右の背中側に近いところにあるため、左右どちらかの腰背部やわき腹が痛むことが多いようです。
さらに、血尿も尿路結石の典型的な症状のひとつです。肉眼でも分かる真っ赤な尿が出ることは少ないものの、血尿が出て、かつ腰のあたりが痛いという場合は、それだけで結石が疑われます。
腎結石は痛みがないことも多く、自覚症状がないため、人間ドックなど検査で見つかることがあります。
尿路結石ができるのは
生活習慣が関係している?
尿路結石は、尿に含まれるカルシウムなどの成分が結晶化したもので、成分によってもさまざまな種類があります。大きく次の3つに分けられます。
- □カルシウム結石
シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの成分が結晶化した結石。結石全体の約9割を占める。シュウ酸やリン酸の吸収や尿への排出などの代謝の問題が関与している可能性がある。 - □尿酸結石
プリン体(たんぱく質に多く含まれる物質)を多く摂りすぎると、分解されて尿酸が増えるためにできる結石。血液中の尿酸値が上がると痛風になるが、血液ではなく尿に多く出る人は尿酸結石になりやすい。 - □感染結石
膀胱や腎臓についた細菌による炎症のためにできる結石。前立腺肥大などで尿をうまく出しきれずに残ると、そこに細菌が感染して結石ができやすくなる。女性でも膀胱炎などと関連してできることがある。
水分に対してカルシウムなどの成分が過飽和(溶ける限界以上の物質を含んだ状態)になると結晶化するので、汗を多くかく夏場は体内の水分が少なくなり、尿の濃度が濃くなるため、石ができやすくなります。ただし、結石ができる理由はそれだけではなく、さまざまな要素が複合しています。尿中のpH(酸性、アルカリ性の度合い)も関与していて、尿が酸性に傾くと体内のナトリウム、カリウム、カルシウムなどの排出量に影響し、カルシウム結石になると言われています。
結石のできやすさに関しては、先天的な体質も影響していると言われていますが、食生活の欧米化など後天的な生活習慣もかなり関与しています。例えば、バターやチーズ、卵など動物性脂肪を中心にした食事を好む人、水を飲まない人は要注意です。
尿路結石の患者さんには高脂血症や糖尿病、痛風、高血圧などの疾患がある人が多く、メタボリックシンドロームとも深い関係があります。「メタボリックドミノ」とも言われるように、これらの生活習慣病は互いに関連しており、心臓病や脳卒中につながる連鎖を引き起こします。尿路結石もその連鎖の一つに位置付けられる生活習慣病と考えられます。
治療は場所や大きさによって違いが
症状がなくても放置しないで
結石のできる場所や大きさによって、治療法は異なります。一般的に、4mm以下の小さな結石は、尿と一緒に自然に出る可能性が高いので、尿管を広げて排石を促す薬や痛みを緩和する薬を用いながら、自然排石を待ちます。1日2リットルの水分摂取や運動を行うことで、平均40日で約8割が自然に出ます。なお、運動は、結石を出しやすくするため垂直的な力のかかるものが適しており、縄跳びや階段の上り下り、ランニングなどが良いでしょう。
一方、10mm以上の大きな石は自然排石される可能性が低いため、手術を行います。手術は以下の3つが主流で、開腹手術は激減しています。痛みや発熱などがある場合は4mm以下でもこれらの治療を行うこともありますし、4~10mmの結石の場合も、症状や本人の希望に応じて治療を選択します。
痛みや発熱があれば積極的な治療が必要ですが、症状がなくても、結石があることでダムのように尿の流れがせき止められ、腎臓の機能が低下してしまいます(水腎症)。実際に、症状がなくても血液検査で腎機能が低下していることが分かり、よく調べたら結石が見つかるという人もいます。結石があるのに何年も放置すれば、腎機能もどんどん低下して、慢性腎臓病(CKD)から腎不全につながる可能性が高くなります。腎機能が低下してからでは、元に戻すことはできませんし、心臓病や脳血管障害のリスクも高くなります。また、抗がん剤などの薬を使う場合、腎機能に応じて薬の量を設定するので、腎機能が落ちた状態ではそれだけ薬物療法に制限が出てしまいます。そのため腎臓を守るためにも、結石は放置しないで早めに治療することが大切です。
再発を繰り返す尿路結石
メタボを防ぎ、カルシウム摂取を
尿路結石は、治療をしても再発を繰り返す人が多いのも特徴です。自分の結石の種類を知り、種類に応じた対策が必要になります。
1日2リットルを目標に水分を摂ること、運動によって筋肉や骨に負荷をかけることは、結石がある時だけではなく、日ごろから結石を作らないための予防としても重要です。
食生活では、メタボリックシンドロームにならないために糖質・脂質などのバランスの取れた食事が基本です。塩分やプリン体の過剰摂取に注意し、その上で、カルシウムをしっかり摂ることを心掛けましょう。
カルシウム結石の場合、主な成分であるシュウ酸を食事で多く摂り過ぎると、吸収されて尿に出て、尿中のカルシウムと結びついて結石になりやすいのです。シュウ酸はホウレンソウなどの葉物野菜やコーヒー、紅茶、チョコレートなどに多く含まれていますが、この他にもあらゆる食品に含まれていて、厳密に制限するのは難しいため、十分なカルシウム摂取に努めましょう。
カルシウム結石なのにカルシウムを摂るのは矛盾しているように思うかもしれませんが、カルシウムを十分に摂ることで、腸の中でシュウ酸とカルシウムが結びついて便と一緒に排泄され、尿中へ出るシュウ酸の量が減ります。
カルシウムは牛乳・乳製品や小魚などに多く含まれています。1日600〜800mgを、食事の時にシュウ酸と一緒に摂ると高い効果を期待できるでしょう。なお、牛乳や豆腐は100gに約1,000mgのカルシウムを含みます。
また、夜寝ている間は水分を摂らず体も動かさないので、尿が濃縮されて、結石ができやすい状態になっています。「結石は夜に作られる」と言われていますので、夜遅い時間の食事は避けましょう。
尿路結石はメタボの前兆
痛みがなくても油断しないこと
一度、尿路結石ができた人は、治療後も定期的に通院することが大切です。
例えば体外衝撃波砕石術(ESWL)の治療後に結石が割れたり、直後に石が1つでも出ると、安心して通院をやめてしまう人も少なくありません。ところが、体内にはまだ小さな結石が残っていて、それが再び大きくなったり、痛みを出したりすることもあります。通院している人は医師からのアドバイスが得られることで食生活に気を付けるなどの意識が高く、検査で異常が早く見つかる、といったメリットがあると言われています。
症状がないと安心してしまいがちですが、痛みだけを基準に自己判断で通院をやめてしまうのは危険です。尿路結石の治療はここ数年で大きく進歩していますから、一度でも結石ができた経験のある人は、人間ドックや健診を受けるだけで安心せず、泌尿器科の専門医と定期的に受診することが大切です。また、尿路結石は「メタボの前兆」でもあります。尿路結石ができるということは重大な病気につながる危険な因子があることを自覚して、生活改善に努めましょう。
1989年横浜市立大学医学部卒業。横須賀共済病院、神奈川県立がんセンター、藤沢市民病院を経て、2002年に大口東総合病院泌尿器科部長に着任。2015年から副院長を兼任し、日本トップクラスの尿路結石手術をけん引している。著書に『経尿道的尿管砕石術―安全・確実なTULの手術手技』(メジカルビュー社) など。「尿路結石症診療ガイドライン2013年版」(第2版)作成委員の1人でもある。