「腸」は、免疫力など全身の健康を左右する重要な臓器です。腸内環境を良好に保つためには便秘の予防や改善が欠かせません。そこで、食事や運動といった生活習慣に加えて行いたいのが「腸もみ」です。腸内環境を整える方法や、いつでもどこでも簡単にできる「腸もみ」について、順天堂大学医学部の小林弘幸教授に、その方法やポイントなどを伺いました。
あなたの腸年齢は
実年齢より上?下?
まず、自分の腸年齢をチェックしてみましょう。
下表から自分に該当する項目をチェックし、一番上に書かれた年齢を足し引きします。算出された合計の数字が実年齢よりマイナスか、あるいはどのくらいプラスかによって、今の自分の腸年齢を知る目安になります。
- □実年齢より若い(総合的にマイナス、あるいは実年齢±4歳)
健康的な腸といえます。このまま、腸に良い食生活を続けていきましょう。 - □実年齢より+5~6歳
正常な範囲内です。年相応の腸内環境といえますが、善玉菌は加齢とともに減少していきます。少しでも腸に良い食生活を取り入れることが大切です。 - □実年齢よりも+7~8歳
注意が必要です。将来的に腸に問題が起きる可能性があるので、今のうちから少しずつ食生活を見直し、腸内環境を整えていきましょう。 - □実年齢よりも+9歳以上
食事、睡眠、ストレスなど何らかの原因で腸内環境が乱れていると考えられます。原因を把握し、できるだけ早く改善に努めましょう。
さまざまな不調を引き起こす
腸内環境の乱れを改善
あなたの腸年齢は何歳くらいでしたか?
腸年齢には、腸内環境が大きく関係しています。
腸内環境が乱れると、腸年齢が実年齢より高くなるだけでなく、次のような症状も現れやすくなります。
- □肌が荒れやすい
- □疲れやすい
- □イライラしやすい
- □食欲が湧かない
腸内環境を左右するのは、腸の中に生息する腸内細菌です。その数は約1000種類、100兆~1000兆個に及ぶと言われており、その多くが腸にすみついています。
腸内細菌は次の3つに大きく分類されます。
腸内細菌の理想的なバランスは、「善玉菌2:日和見菌7:悪玉菌1」と考えられています。
ところが便秘になり、大腸に便が滞留する時間が長くなると悪玉菌が増加してこのバランスが崩れやすくなります。
腸内環境が悪くなることでさらに便秘になりやすくなったり、あるいは下痢をしやすくなったりするなど、おなかの不調が生じるのはもちろん、腸の血流やリンパの流れが滞ることで全身の冷えやむくみなどを招く要因になる場合もあります。
便秘の原因は加齢や運動不足、水分不足、食物繊維不足など様々さまざまですが、近年、幅広い世代で増加傾向にあるのがストレスによる便秘です。
ストレスなどの影響を受けやすい自律神経は、腸と密接な関係があります。排便を促す腸のぜん動運動が活発になるのは、脱力やリラックスの神経である副交感神経が優位になる時です。ストレスや緊張を感じている時に働く交感神経が優位な時にはぜん動運動は抑制されやすくなります。
腸の動きを良くして便秘を解消するためには、心地良い音楽を聴いたり、安らぐ香りを嗅いだりするなど自分がリラックスできる方法を見つけることがまず一つです。副交感神経の働きを高めるような時間をできるだけ増やすよう心掛けましょう。
また、食事については次の項目について気を付けることも大切です。
- □食物繊維をしっかり摂る
- □腹七分目を心掛ける(食べ過ぎは腸にストレスを与える要因になる)
- □朝食を必ず摂る
- □夕食は就寝の3時間前までに終わらせる
さらに、日常的な運動も欠かせません。歩くだけでも腸は刺激を受け、ぜん動運動の促進につながります。
大腸を直接刺激する「腸もみ」で
腸の動きをより活発に!
前述のリラックス法や食事、運動に加えて、是非おすすめしたいのが「腸もみ」です。体の外側から手で直接刺激することができるのは、臓器の中でも大腸特有の大きな利点です。
便が滞りやすい4つの角を重点的に手でもみほぐすだけで腸の動きが良くなり、便秘が改善されやすくなります。
次の方法で行いましょう。
【ポイント】大腸の4つの角をもむ!
便が滞りやすいのは、左右の肋骨の下と、左右の腰骨のあたりの4つの角です。
この部分を押さえるようなイメージでもみほぐすことで効果がアップします。
1. 右上と左下をもむ
右手で右の肋骨の下、左手で左の腰骨の上をギュッと掴み、強弱をつけながら押したりもんだりする。
2. 左上と右下をもむ
左右の手を入れ替え、大腸のもう2つの角を1と同様に押したりもんだりする。
3. おへそに向かってギューッと押す
おへその横に指先を揃え、おへそに向かって押すイメージで少しずつ圧を加える。
注意してほしいのは、痛みを感じるほど強く押したりもんだりしないことです。やさしいタッチで触れるだけでも効果は十分期待できます。
「何分間かきっちりやらなくては」「しっかりもみほぐさなくては」などと神経質になると交感神経が優位になりやすくなるので気を付けましょう。
心地よさを感じながらリラックスして行うことで副交感神経が優位になり、より効果が現れやすくなります。
タイミングは仕事の合間のすきま時間など、空いている時間なら、いつでもOKです。強い刺激を与えないように気を付けさえすれば、1日何回行っても構いません。
より高い効果を求めるなら、お風呂に浸かりながら行うのも良いでしょう。体が温まり、血流が良くなっている状態で腸もみをすることで、腸の働きが活発になりやすくなります。
なお、単に排便が滞っているだけでなく、腹部に痛みも伴う場合は便秘以外の病気が隠れている可能性があります。できるだけ早く医療機関を受診するようにしましょう。
腸には体内にある免疫細胞の約7割が存在していると言われています。腸内環境を整えることで免疫細胞も活性化し、細菌やウイルスなどの侵入をブロックする働きが高まることが期待できます。
全身を健やかな状態に保つためにも、まずは腸の働きから見直していきましょう。
順天堂大学医学部附属順天堂医院 総合診療科・病院管理学教授
日本体育協会公認スポーツドクター。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手やアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。また、日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても知られる。『免疫力が10割 腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』(共著、プレジデント社)など著書多数。