汗ばむ季節になると金属アレルギーの症状に悩まされる方が増加します。金属アレルギーは汗や唾液などで溶けだした金属が身体に吸収されることにより、免疫反応を起こす症状です。原因は金属の他にもさまざまな物がありますが、適切な方法で症状を抑えることが可能です。金属アレルギーのメカニズムや原因、対策について皮膚科専門医で自衛隊阪神病院の高藤先生に伺いました。
金属アレルギーのメカニズム
金属アレルギーは、金属が触れた部位の肌に症状がでる接触皮膚炎と、金属が口腔内から体内に入ることで生じる全身型金属皮膚炎の二つに分かれます。どちらも金属を取りこんでから、24〜48時間後に皮膚の症状が現れるケースが多いです。
それぞれのメカニズムは次のとおりです。
- 1.接触皮膚炎
アクセサリーやベルトのバックルなど、金属が肌に直接触れることで発症するアレルギーを接触皮膚炎といいます。接触皮膚炎は、汗により溶けてイオン化した金属が皮膚のタンパク質と結合し、体が異物と認識して免疫反応を引き起こすことで生じます。
接触皮膚炎の症状は、金属が触れた部位のかゆみや赤み、腫れなどです。夏場で汗をたくさんかく時期は特に症状がみられやすくなるため、適切に予防や対処をすることが大切になります。 - 2.全身型金属皮膚炎
全身型金属皮膚炎は、口腔内から金属を含む物質が体内に入ることで発症するアレルギーです。通常は、口腔から入りこんだ金属物質は、さまざまな器官を通って体外へ排出されます。しかし全身型金属皮膚炎を起こす方は、排出できず体内に金属が吸収されてしまいます。
全身型金属皮膚炎は、手の平や足の裏に水ぶくれがでたり(
原因は金属だけじゃない!
金属アレルギーというと、直接肌に身に付ける貴金属やアクセサリーなどが原因だと考える方も多いでしょう。しかし、化粧品や食べ物、歯の治療物、ビタミンB12、空気なども金属アレルギー発症の原因となります。これらにもアレルギー反応がでやすいニッケルやコバルト、クロムなどの金属元素が含まれているからです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
- □化粧品
化粧品は成分に金属元素(コバルトなど)が含まれている場合があり、汗で成分が溶けて症状がでるケースがあります。
まつ毛カールのビューラーが原因で、使用後に金属アレルギーの症状が出る例もあります。 - □金属を含む食べ物
豆類や木の実、ココアなどにはニッケルやコバルト、クロムなどがわずかに含まれています。摂取した後に手の平や足の裏にアレルギー反応がでた場合は、摂取を控えて様子をみましょう。
また、ニッケルメッキやステンレスの調理器具は、調理で金属が溶けだすことがあるため、原因のひとつになります。 - □治療済みの歯
歯の詰め物はパラジウムや金、水銀、矯正用器具はニッケルやクロム、コバルトが含まれています。虫歯の治療後や、歯列矯正後に唾液でこれらの金属が溶けだし、体内で吸収されてアレルギー反応がでる可能性があります。
施術後に症状がでた場合は、治療を行った歯医者に相談しましょう。 - □ビタミンB12
しびれや痛みなどの治療で使用されるビタミンB12製剤も、コバルトが含まれているため、内服後に発疹やかゆみがでるケースがあります。
また、ビタミンB12は動物性の肉や魚介、貝類に多く含まれます。 - □汚染された空気
工場や車からでた排気ガス、タバコの煙などにもさまざまな金属が含まれている可能性があり、その空気を吸うことが多い方は、アレルギー反応がでやすくなる可能性があります。季節によっては、汚染された空気が花粉に付着して飛んでくることもあります。
金属アレルギーの対処法、予防方法
適切な方法を知って、金属アレルギーの対策をしましょう。以下に対処法を紹介します。
- 1.身体を清潔に保つ
身体を湿らせないことで、金属が溶けださず接触皮膚炎の予防につながります。夏の時期は汗をこまめに拭き身体の清潔を保ち、特に首や腰など直接アクセサリーやベルトが接触する部分は注意しましょう。 - 2.素材選びやコーティング剤の使用
アクセサリーを使用する前に、金属にニッケルが含まれていないかを確認したり、金属以外の素材でチタンやセラミック、樹脂などを選んだりすると効果的です。また、純度の高い貴金属はアレルギー発症のリスクを抑えられます。
ネックレスやピアスなどの金属を使用する前に、専用のコーティング剤を塗ると汗で金属が溶けだすことを防ぎ、アレルギーの症状を予防できます。素材選びやコーティング剤の活用により、上手におしゃれを楽しみましょう。 - 3.パッチテストと外用薬
アレルギー症状の原因となる金属の元素はさまざまです。そのため、金属アレルギーの症状がでた場合は、パッチテストを行って原因を確定させます。パッチテストで原因の元素を明らかにすると、控えたほうが良いアクセサリーの素材や食べ物などがわかるため、生活するうえで予防がしやすくなります。パッチテストは、対応している皮膚科やアレルギー科を受診して行います。
アレルギー症状がでてしまったら、皮膚科やアレルギー科で皮膚に塗る外用薬を処方してもらいます。症状に応じて、ステロイド剤や免疫抑制剤などが治療に用いられます。また、バリア機能を高めるため皮膚の保湿剤を使用することも効果的ですので、定期的に塗ることをおすすめします。
夏場は金属アレルギーだけでなく、紫外線による日焼けやあせも、虫刺されなどさまざまな肌トラブルが増えやすい季節です。
気になる症状がでた場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置・治療を受けるようにしましょう。
防衛医科大学校卒業。大阪大学医学部附属病院や自衛隊阪神病院で研修ののち、皮膚科専門医の資格を取得。現在は、地域の皮膚科診療に従事し、一般的な皮膚トラブルから慢性疾患まで、包括的なケアを提供。医療に関する情報発信にも力を入れており、患者さんが自身の皮膚健康を維持・改善できるようサポートを行っている。