私たちは日々、ストレスを感じることも多く、ストレスが過剰になっていても、自分ではなかなか気付きにくいものです。2014年に法制化された「ストレスチェック制度」は、主に職場でのストレスを確認するものですが、これを活用して自身のストレスを把握することができます。ストレスチェックの活用方法やストレスの対処法について、独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義先生に伺いました。
ストレスの要因・反応は
多様で複合的
ストレスとは、「外から加わる刺激に対する歪みや反応」のことで、正確にはその刺激を「ストレッサー」、状態を「ストレス反応」と言います。ストレッサーには、人間関係、仕事量が多いといった精神的な負担以外にも、暑さ・寒さや騒音などの環境的要因もあり、完全にストレスを排除することはできません。
何らかのストレスを感じると、人は無意識にそれに適応しようと反応を示しますが、ストレスは必ずしも悪者ではなく、人が成長するために必要な刺激でもあります。
人には、柔軟性や耐性があり、ストレスをうまく受け止めながらも成長することもできますが、ストレス過剰になった場合は、心身や行動に次のような影響が出てきます。
生活リズムや環境の変化が大きい4〜5月や季節の変わり目などは、ストレスを感じやすくなります。特に、女性はホルモンの変化があることや、結婚・出産・育児などのライフイベントと仕事の両立、家庭の問題など、男性と比べると公私にわたって多様なストレスを複合的に抱える傾向があります。
ストレスを抱え続けると
心身の病気を引き起こすことも
過剰なストレスを長期にわたって抱え続けると、うつ病や不安障害、パニック障害などの精神疾患や、さまざまな体の不調を引き起こす可能性があります。こうした中、職場のメンタルヘルス向上が求められてきた社会背景もあり、2014年に労働安全衛生法が改正されました。従業員50人以上の職場で、2015年12月から年1回のストレスチェックが義務付けられました。
仕事上のストレス要因は、「仕事の質・量」「対人関係」などが挙げられます。これに、家庭の悩みや個人的な出来事、ライフイベント、ストレス対処能力などの個人的要因が絡み合って、ストレス反応が現れます。
ストレスチェックを
自分のために活かそう
ストレスチェックは、調査票の質問に答えてストレス状況を判定します。調査票では「職場のストレス要因」「心身のストレス反応」「職場の周囲からの支援」の3つの項目に関する質問が必須です。また、結果は本人に通知され、一定規模の集団ごとに集計・分析して職場環境の改善につなげられることも特徴です。
ストレスチェックで「高ストレス者」(※)と判定されると、医師面接を受けるように勧められ、この段階で個人的な要因のヒアリングが加わります。医師による総合判定により、ストレス対処のアドバイスに加え、必要に応じて仕事の軽減などの措置が実施されます。しかし、ストレスチェックの受検は任意のため、医師面接を受けている人はわずか0.6%と十分に活用されていないのが現状です。
ストレスチェックは自分のストレス状態に気付き、心身の病気を未然に防ぐことが目的です。「自分のために活かす」という意識を持ち、心身の病気の予防のために役立てましょう。
※高ストレス者:
ストレスチェックの結果、以下のいずれかに該当した場合、高ストレス者として判定されます。
・「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が高い者
・「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が一定以上であり、かつ「仕事のストレス要因」および「周囲のサポート」に関する項目の評価点の合計が著しく高い者
その日のストレスは
その日のうちに解消しよう
誰でもメンタルヘルス不調に陥る可能性はあります。予防の基本は、より早い段階での自分の気付きと対処にあります。そして、ストレスへの対処を上手にするには、ライフスタイルそのものを健康的にすること、サポートを求められる人間関係を持つことが大切です。インターネット上にメンタルヘルスをサポートする情報がありますので、これらを活用するのも良いでしょう。
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(厚生労働省)
こころの耳 https://kokoro.mhlw.go.jp/
ストレスと上手に付き合うには、ストレスから「逃げない」「溜めない」「先送りしない」、そして「ストレスを活かす」ことが大切です。例えば、失敗しても「自分はダメだ」と考えるのではなく、「時には失敗することもある」「失敗は次に成功するための学びだ」と前向きに捉えることも必要です。
- □脳が疲れている(甘えや怠けではない)と自覚する
- □心のエネルギーを溜める(休養・栄養・服薬)
- □ゆっくりして、無理しない、焦らない
- □話せる人に自分の苦痛を正直に話してみる
- □専門医(精神科・心療内科・メンタルクリニック等)にも相談する
- □自分の長所にも目を向けて、自分をいたわる
- □ちょっとした変化でも自分を褒めてあげる
- □(無理でなければ)適度に体を動かしてみる
- □(少し余裕ができたら)自然・植物・動物に触れる
また、ストレス解消法をできるだけたくさん持つようにし、オン・オフの切り替えをするように心掛けましょう。
1日の中に「運動」「労働」「睡眠」「休養」「食事」の5要素をきちんと入れることで、充実感が得られます。
1日15分でも、仕事から離れていい汗をかくことを習慣にする
労働日々の労働に生き甲斐と存在意義を感じるようにする
睡眠寝つきがよく、目覚めが良い睡眠を十分にとる
休養長時間労働を控え、こまめに休養をとる
食事食事を楽しむ習慣を持つ
毎日を元気に過ごすためにも、趣味を楽しむ、十分な休息をとるなど、自分に合った方法でリフレッシュするようにしましょう。
1972年東北大学医学部卒業、1981年医学博士。 同大附属病院、呉羽総合病院、梅田病院勤務を経て、1991年横浜労災病院心療内科部長、1998年同勤労者メンタルヘルスセンター長。産業精神医医学、心療内科に精通するメンタルヘルスのエキスパート。うつ病を始めとする勤労者の精神疾患の予防や治療、職場復帰支援に取り組んでいる。『Dr山本のメール相談事例集』(労働調査会)、『図解やさしくわかる うつ病からの職場復帰』(ナツメ社)など著書多数。