知っておきたい病気・医療
2019.04.12

気付かないうちに進行している緑内障

~40歳過ぎたら検査を~
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日本人の失明の原因として、最も多い目の病気は「緑内障」です。自覚症状がほとんどなく、ゆっくり進行するため、気付いたときにはかなり視野が狭くなっていたり、視力が低下したりするケースが少なくないと言います。自分の努力では防ぐことが難しい病気ですが、早期発見・早期治療で進行を遅らせることは可能です。緑内障が起こるメカニズムや検査、治療法などについて、東京大学大学院医学系研究科眼科学教授の相原一さんに伺いました。

眼圧が上がる
メカニズムとは?

緑内障は、眼圧が上昇することによって目の奥にある視神経に異常が生じ、視力や視野に障害が起こる病気です。

緑内障を知るうえで重要なのが「眼圧」です。
眼球の内部は房水ぼうすいと呼ばれる液体で満たされています(下図参照)。毛様体もうようたいで作られた房水は、一定の圧力で循環しながら、目に必要な栄養を運んだり、眼球の形を保つサポートをしたりしています。この房水による圧力のことを「眼圧」と言います。

通常、眼圧はほぼ一定に保たれています。しかし、何らかの要因で房水の流れが悪くなり眼圧が上昇すると視神経乳頭が圧迫され、視神経にダメージを与えます。その結果、視野が狭まるなどの異常が生じるのです。

日本で最も多い
緑内障のタイプとは

緑内障には、ぶどう膜炎まくえん(※)などの他の目の病気や、ステロイドの使用などが原因で眼圧が上昇し、引き起こされる「続発緑内障」、他の病気などの原因がない「原発緑内障」、先天的に眼圧が上がりやすい「小児緑内障」と3つの種類があります。

このうち、一般的に緑内障と呼ばれているのが「原発緑内障」です。原発緑内障はさらに次の2つのタイプに分けられます。

※ぶどう膜炎
眼の中の虹彩、毛様体、脈絡膜からなる3つの組織を総称し、なんらかの原因で炎症を起こす病気。失明に至ることもある。

  • 原発閉塞隅角ぐうかく緑内障
    房水の出口である隅角(上図参照)がふさがれて、急激に眼圧が上がることで発症する緑内障で、急性緑内障とも呼ばれます。

    目の構造上の問題で隅角が狭い人や、中高年の女性でもともと視力の良い人などに多く見られます。

    重度の眼痛および充血、視力低下、めまい、頭痛、嘔吐おうとといった激しい発作が起こるため、すぐに治療を行って眼圧を下げる必要があります。
  • 原発開放隅角緑内障
    隅角は開いているものの、房水の排水路である線維柱帯(上図参照)が目詰まりを起こして房水の流れが滞り、徐々に眼圧が上昇することで発症します。慢性緑内障とも言います。

    日本人に最も多い緑内障のタイプで、緑内障患者の約9割が該当します。また、眼圧が統計学的な正常レベル(20mmHg以下)でも視神経に障害が起こる「正常眼圧緑内障」も原発開放隅角緑内障に含まれます。こちらも日本人に多く、緑内障患者の約7割を占めています。

慢性の緑内障に
自分で気付きにくい理由とは

急性で激しい症状を伴う閉塞隅角緑内障と異なり、慢性の開放隅角緑内障は自覚症状がほとんどありません。緑内障の典型的な症状に視野狭窄しやきょうさく(視野が欠けること)がありますが、以下の理由から自分では異常に気付きにくいのです。

  • 日常生活では両目で見ているため、片方の目の視野が欠けてきても、もう一方の目が視野を補ってくれる。
  • 鼻の側から視野が欠けてくる場合、左右の目がお互いの視野を補い合ってくれる。逆に緑内障以外の病気により耳の側から欠けてくる場合は比較的気付きやすい。
  • 末期になるまで、視力はほとんど低下しない。
  • 欠けている視野は暗くなったり黒くなることはなく、少しかすみがかかってきて、だんだん濃い霧のように感じるだけなので、気付きにくい。
  • 何年もかけて少しずつ視野が欠けていく。

こうしたことから、見える範囲が欠けていることを自覚したときには、すでに病状がかなり進行している例が少なくありません。視力が著しく低下するほど末期症状の場合には、失明のリスクも高くなります。

40歳を過ぎたら
眼科で緑内障検査を

日本では、40歳以上の人口の約5%(20人に1人)、70歳台では約10%(10人に1人)の割合で緑内障患者がいるという調査結果が報告されています(日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査より)。

しかし、実際に病院に通っているのは緑内障患者の1割程度とされており、受診をしない9割の原因は、「症状の出にくさ」にあると言われています。「症状が出たら病院に行こう」という考えでは、手遅れになる可能性が高いので注意が必要です。

現代の医療では障害を受けた視神経を再生することはできないため、緑内障を治すことは不可能です。治療によって一度狭くなった視野が広がったり、低下した視力が良くなったりすることはありません。

しかし、早く発見して適切な治療を始めれば、それ以上視野が狭くなるのを防ぎ、視力を保つことは可能です。生涯にわたり、「目が見えなくて困る」という事態を避けることができます。

そこで重要なのが定期的な検査です。40歳を過ぎたら、ぜひ眼科で検査を受けることをお勧めします。

緑内障の主な検査には、眼圧を測定する「眼圧検査」、隅角の状態を調べる「隅角検査」、視神経乳頭の形状がどれくらい圧迫されているのかを調べる「眼底検査」があります。

このうち眼底検査は健康診断や人間ドックでも受けることができる場合がありますが、必ずしも眼科医が診ているとは限りません。

「緑内障の検査を受けたい」と眼科を受診すれば、精度の高い検査を受けることができます。検査は年1回受けるのが理想的ですが、先に述べたとおり緑内障はゆっくりと進行するので、忙しい40代であれば5年に1回くらいのペースで検査を受けると良いでしょう。ただし、会社などの健康診断だけに頼るのではなく、必ず眼科で検査を受けるようにしてください。

治療は点眼薬が基本
予防と思って続けることが大切

緑内障の治療は、「眼圧を下げる」ことを優先的に行います。多くの場合、点眼薬を用いた薬物療法が基本となります。その人の症状の重症度や眼圧の高さなどに応じて、複数の点眼薬を組み合わせて治療します。

それでも悪化した場合などには、房水の流れを良くして眼圧を下げる外科手術を行うこともあります。

薬物療法と手術のどちらにも共通しているのは、「症状を改善する」のではなく、生涯にわたって「症状を悪化させない」ということです。手術をした後も少しずつ症状は進行していくので、治療を続けていく必要があります。

薬物療法は「数種類の薬をそれぞれ5分以上空けて点眼する」といった細かい決まりがあるうえに、「明らかに良くなっている」という実感を得られないことから途中で治療を止めてしまう人が多いのも事実です。

ぜひ、「治す」のではなく、「防ぐ」という意識をもって治療に取り組みましょう。末期の状態まで進行してから「なんとかしたい」と思っても手遅れですが、早く発見して適切な治療をきちんと続けていることで、失明は防ぐことができるのです。

人生100年時代、自分の目で生涯いきいきと暮らしましょう。

相原 一 東京大学大学院医学系研究科 眼科学 教授

医学博士。1989年、東京大学医学部医学科卒業。2000~01年、米カリフォルニア大学サンディエゴ校緑内障センターで臨床指導医、主任研究員を歴任。マウスの緑内障モデルの確立に携わる。帰国後、四谷しらと眼科副院長を経て、現職。眼圧制御機構の解明、緑内障性視神経障害の機序とその治療をテーマに研究を行う。診療においては緑内障患者のQOL(生活の質)を少しでも高めるような点眼治療や手術に力を入れている。

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