自分の月経周期をきちんと把握していますか? また、「今月の月経はいつもとちょっと違う」と気づいても、そのまま放っておいたりしていませんか?
月経は女性の健康にとって大切な指針の一つ。周期が大きく乱れたり、それまで毎月順調に訪れていたのに突然こなくなったりするのは、体に何らかの異変が生じているためと考えられます。しかし、この体からのサインを見逃している女性は意外に多いそう。
「特に30~40代の女性は、仕事の忙しさなどを理由に自分の体のことを二の次にしてしまいがち。例えば不正出血があったとしても、『良くないことは分かっているけれど、そのうち止まるだろうから様子を見よう』などと自己判断して放っておくうちに、子宮の病気が進行してしまうケースは少なくありません」と、いけした女性クリニック銀座院長の池下育子さんは話します。
子宮内膜症とはどんな病気?
まずは、以下をチェックしてみてください。1つでも当てはまれば「子宮内膜症」の可能性があります。
- □月経痛(激しい腹痛や腰痛、頭痛や吐き気、のぼせ、むくみなど)
- □月経量の増加
- □月経時以外の腰痛や腹痛
- □性交痛
- □排便痛や排尿痛
「子宮内膜症」は、とりわけ30~40代の女性に多い子宮の病気です。
子宮内膜とは、子宮の内側を覆っている組織のこと。月経周期に応じて厚くなり、月経が始まると組織がはがれ落ちて月経血として排出されます。
子宮内膜症は、子宮内膜が本来あるべきではない、子宮の内側以外の臓器にもできる病気です。できる部位は
子宮の内側以外にできた子宮内膜も女性ホルモンの影響を受け、月経周期に合わせて増殖し、出血します。しかし子宮のように月経血として排出できないため、血液やはがれ落ちた内膜が体内にたまり、周囲の組織と癒着してひきつれやねじれなどを起こします。
その結果、先のチェックのような症状が表れやすくなり、不妊の要因になるともいわれています。
子宮筋腫とはどんな病気?
もう1つ、30~40代の女性に多い病気に「子宮筋腫」があります。
子宮筋腫は、子宮の筋肉の一部にできる良性の腫瘍です。子宮の中にできる「筋層内筋腫」、子宮の外側を覆う
- 筋層内筋腫
- 子宮筋腫の中で最も多く、約70%を占めるといわれます。筋腫が小さいうちはほとんど症状がなく、大きくなるにつれて下腹部にしこりを感じたり、月経量の増加、月経不順などが起こりやすくなります。
- 漿膜下筋腫
- 大きくなるまでほとんど症状が表れることはありませんが、大きな筋腫になると子宮の近くにある膀胱が圧迫されて頻尿になったり、腸の周りが圧迫されて便秘になったりすることがあります。
- 粘膜下筋腫
- 筋種が小さいうちから、月経血が多くなる、月経が長引く、また不正出血などの症状が表れやすい傾向にあります。
月経量が以前に比べて多くなった、月経痛がひどくなった、などの症状がある場合は、子宮筋腫の可能性があります。良性の腫瘍なのでがん化することはほとんどありませんが、症状によっては妊娠しにくくなったり、流産しやすくなることも。これから妊娠・出産を考えている人はぜひ早いうちに婦人科を受診しましょう。
現代社会には子宮の病気を引き起こすさまざまな要因が
子宮内膜症も子宮筋腫も、詳しい原因はまだ明らかにされていません。しかし、子宮内膜症には「女性ホルモン(エストロゲン)と月経血の逆流」、子宮筋腫には「女性ホルモン(エストロゲン)の影響」が一因としてあると考えられています。
こうした要因を生み出す背景が現代社会には多くあります。例えば、体の発育がよくなり初潮を迎える時期が昔に比べて早くなっている一方で、女性のライフスタイルが多様化したことで妊娠や出産の時期は遅くなってきています。出産しないという選択もあります。つまり、体にとってはそれだけ排卵や月経の回数が多くなるということ。必然的に女性ホルモンの周期の影響を受ける期間も長くなるわけです。
また、月経中でも仕事のためにヒールの高いパンプスで歩き回ったり、ジムでトレーニングをするなど、月経中に無理に体を動かすことが月経血を逆流させる要因になっていないか懸念されています。
ストレスによる心身の不調を防ぐために
また、30~40代は結婚、出産などの大きなライフイベントがあったり、仕事も責任が増して多忙になったりする年代。こうした背景から精神的なストレスが知らず知らずのうちに蓄積し、子宮の病気や月経のトラブルなどの原因になっていることもあるといいます。
適切な治療を行って月経が再開しても、ストレスなどメンタル面での不調が改善されるとは限りません。もし2週間以上にわたって、眠れない、イライラする、ひどく落ち込む、何もやる気が起きないなどの抑うつ状態が続くようなら心療内科などを受診することをお勧めします。
もちろん、ストレスをため込まないよう普段から心がけることも大切です。池下さんが提案するのは、「不快に思っていることなどを言葉で表してみる」ことです。心の中のモヤモヤを気心の知れた人に話してみるのもいいですし、ノートなどに書きつづってみるのもいいでしょう。言葉にすることで悩みや不満が整理整頓され、気持ちがスッキリするのです。
さらにもう一歩踏み込んで、「発想の転換」のトレーニングも行ってみましょう。
例えば、Aさんという人が時間を守らないということにストレスを感じているとします。でもAさんも出かける間際に何かトラブルがあって実は焦りながら急いで来てくれたのかもしれない、あるいは自分に会うのがうれしくて洋服選びに時間がかかったのかもしれない、というようにマイナスをプラスに変えるような想像をしてみるのです。
実際、物事にはすべてプラスとマイナスの二面性があるもの。マイナスをプラスに転じる発想ができるようになると、心もぐんとラクになります。
最近は月経前にイライラしたり、情緒不安定になったりする「PMS(月経前症候群)」を抱える女性も増えているそう。PMSとは、月経の3日~10日くらい前から起こる生理前の不快な症状。月経が始まると次第に症状が弱まり、やがてなくなります。ストレスが多いほど症状が重くなりやすい傾向があるので、日ごろから上手にストレス解消することはとても重要です。頑張った後には自分の好きなことを存分に堪能したり、おいしいものを食べたりして、自分にご褒美をあげるのもいいですね。
なお、PMSの治療には低用量ピルを用いて一時的に排卵を抑制する薬物療法や、個人の体質や症状に合わせた漢方療法などが行われています。
体の異変を放置せずに病院へ行くことが大切ですが、まずは日頃からストレスをため込まないよう、自分に合った上手な気分転換法を見つけて、心と体を健康に保ちましょう。
帝京大学医学部卒業後、帝京大学麻酔学教室助手として勤務。国立小児病院麻酔科を経て、東京都立築地産院産婦人科へ。1991年、同産院医長に就任。92年に池下レディースクリニック銀座を開業。著書に『女性の病気百科 気になる体の悩みや症状がわかる』(主婦の友社)、『ラブ&セーフティ・セックス 愛するふたり』(日東書院)、『Maternity Book ママになるまでの10ヵ月ダイアリー』(梧桐書院)など。