知っておきたい病気・医療
2017.10.13

女性に増え続ける大腸がんにご用心

~症状が出にくい大腸がん。40代からは年1回の検診を~
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女性のがんというと乳がんや子宮がんを思い浮かべますが、女性のがん死亡数のトップは大腸がんです。しかし、早期に発見し、適切な治療をすれば治る可能性が高いのも大腸がんの特徴です。大腸がんとどう向き合えばいいのか、検診の重要性や治療について、東京医科歯科大学名誉教授・光仁会第一病院院長の杉原健一さんにお聞きしました。

女性のがんで最も多い死亡数
罹患数も2位

国立がん研究センターによると、女性のがんの中で大腸がんは死亡数が最も多く、年間約2万3,000人(2015年)が亡くなっています。罹患数も乳がんに次いで2位(5万6,508人、2013年)という、身近ながんと言えます。

大腸がん発症年齢のピークは、以前は60代後半でしたが、最近は70代と年代が高くなっています。男女とも30代頃から徐々に増え始め、50歳を過ぎると急激に増加します。2017年の予測では、男性が8万5,500人、女性が6万4,000人、計14万9,500人と、さまざまながんの中でも大腸がんが最も罹患数が多くなると推測されています。

これほど大腸がんが増えている背景として、食生活の西洋化(肉食や脂肪の多い食事)や社会全体の高齢化の影響が大きいと思われます。

大腸がんのリスクを
高める要因は?

大腸がんのリスクを高める要因の一つとしては家族歴、つまり遺伝(体質)が挙げられます。大腸がんはいくつもの遺伝子異常が蓄積して発生しますが、もともといくつかの遺伝子異常を持っている家系もあれば、遺伝子異常のない家系もあります。2親等以内に大腸がんにかかった人がいる場合は、一度、大腸内視鏡検査を受けておくことをおすすめします。
ただ、遺伝子異常のない家系でも、食生活やライフスタイルによって多くの遺伝子に異常が起これば、がんになる可能性は高くなりますし、遺伝子異常のある家系でも、後天的に蓄積する遺伝子異常が少なければ、罹患する可能性は低くなります。

生活習慣の面では、肥満、食物繊維不足などの影響が大きいと言われています。食生活では、赤肉(牛、豚、羊など)や加工肉(ベーコン、ソーセージ、ハムなど)も関連があるとされ、2015年にWHO(世界保健機関)が「毎日50gの加工肉(ベーコン2切れ以下)を食べ続けると大腸がんになる確率が18%上がる」と発表して注目されました。ただし、日本人はもともと赤肉や加工肉の摂取量は欧米より少なく、平均的な摂取量であれば、それほど恐れる必要はないでしょう。世界がん研究基金と米国がん研究協会では、赤肉の摂取を週500g未満とするように推奨しています。

便秘と大腸がんの
関連性は低い!?

肉などを多く食べると、肝臓で胆汁酸がたくさん作られて腸に流れ込みます。胆汁酸は消化吸収を助ける働きをします。肝臓で作られたフレッシュな胆汁酸を一次胆汁酸といいますが、一次胆汁酸は腸内細菌によって分解され、二次胆汁酸に変化します。二次胆汁酸の中に発がん作用のある物質が含まれるため、脂質過多などで胆汁酸の循環が滞ると、発がん物質が腸の粘膜に接して大腸がんが発生するというメカニズムが解明されてきています。

このように聞くと「便秘になって二次胆汁酸を含む便がずっと腸内に停滞しているとがんになりやすいのではないか」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。便と粘膜は直接接触するわけではなく、間にある粘液の層を介して接しています。大腸がんが発生する原因は粘液の状態や腸内細菌などさまざまな要因が複雑に絡み合っています。

早期発見のために
毎年検診を受けよう

大腸がんは早期には自覚症状はなく、進行しても症状が出にくいという特徴があり、また、発生する場所によって症状に違いがあります。

直腸がんやS状結腸がんの場合、肛門に近いため出血などの異変に気付きやすく、また、血便や便通異常(便秘・下痢、便が細くなる)などの症状で見つかることもあります。
一方で、盲腸・上行結腸・横行結腸などの右側の腸は腸管が太く、便も軟らかい状態のため、出血があっても便と混ざってしまい、症状として表れにくいのです。貧血の症状で見つかることもありますが、潰瘍からじわじわ出血しているのに単なる貧血と思い、発見が遅れることもあります。女性の場合は男性よりも、腸の右側部分にできるがんが多く見られますので注意しましょう。

■大腸がんの症状 出典:大腸癌研究会編「大腸癌治療ガイドラインの解説2009年版」(金原出版)

症状が出にくい大腸がんを早期に見つけるためには、やはり検診が重要です。多くの自治体では、40歳以上を対象に年1回、大腸がん検診「便潜血検査」を実施しています。便潜血検査は、便に混じった目に見えない血液を見つける検査ですが、血液が出ないがんが発生しているケースもあります。一度の検査で異常がなかったとしても安心せず、毎年受け続けることが大切です。

便潜血検査で陽性であった場合、肛門から内視鏡を挿入して腸内をすみずみまで観察する大腸内視鏡検査(大腸カメラ)でがんの有無を確かめます。大腸内視鏡検査を受けるのが恥ずかしいという気持ちからか、便潜血検査で陽性の結果が出ても大腸内視鏡検査を受ける人の割合は65%程度です。体からの警告があったのに、次の検査を受けずに手遅れになっては元も子もありません。生きていくためには物を食べ、食べたら排せつするのは自然で大事なことです。便潜血検査で陽性と言われたら、必ず大腸内視鏡検査を受けましょう。

積極的な治療で
治る確率が高い大腸がん

大腸がんが見つかったら、がんのタイプやステージ、患者さんのライフスタイルなどを総合的に考慮したうえで、外科手術、化学療法、放射線治療を組み合わせて治療します。主な治療は、がんを切除する外科手術です。

ステージはがんが大腸の壁に入り込んだ深さ、転移の有無などによって決まります。ポリープや0期、Ⅰ期の一部の早期がんは内視鏡治療で取り除くことが可能です。施設によって違いはありますが、日帰りでの治療も可能です。

■ 大腸がんのステージ分類
ステージ0 がんが粘膜にとどまっている
ステージI がんが大腸の壁(固有筋層)にとどまっている
ステージII がんが大腸の壁(固有筋層)の外まで浸潤している
ステージIII リンパ節転移がある
ステージIV 遠隔転移(肝転移、肺転移)または 腹膜播種 ふくまくはしゅ (※)がある

※がん細胞が臓器の壁を突き破って、腹膜に広がること

■大腸壁の解剖図 出典:大腸癌研究会編「大腸癌治療ガイドラインの解説2009年版」(金原出版)

内視鏡で切り取ったがんが粘膜下層にまで及んでいた場合、転移する可能性がどれくらいかが分かるようになり、それによって追加して手術を行うのかを判断するようになってきました。手術の場合、開腹手術と腹腔鏡手術が半数くらいの割合で行われています。傷が小さく患者さんの負担が少ない腹腔鏡手術も普及していますが、がんの進行度や発生した場所などによっては必ずしも腹腔鏡手術が適さないケースもあります。主治医とよく相談したうえで最適な治療法を選ぶことが大切です。
また、大腸がんは、遠隔転移があっても半数は手術で切除することができます。

進行して手術ができないがんに対しても、化学療法が進歩しています。いくつかの副作用の異なる薬を選択することができ、分子標的薬(がん細胞が持っている特定の分子やがん細胞の成長に欠かせないタンパク質の分子だけを攻撃する薬)などの登場によって生存期間が延びました。

5年生存率はステージIIで90%以上、ステージIIIでも80%以上と、積極的な治療によって治る確率が高いがんでもあります。繰り返しますが、検査をきちんと受けることが何よりの予防となります。検診(便潜血検査)を毎年受けること、そして、陽性であれば必ず大腸内視鏡検査を受け、大切なご自身を守りましょう。

杉原 健一 東京医科歯科大学名誉教授・特任教授、光仁会第一病院院長

1974年東京大学医学部卒業。1985年Imperial Cancer Research Fund(英国)研究員。1987年東京大学医学部第一外科。1989年国立がんセンター外科。1992年国立がんセンター中央病院外科医長。1997年東京医科歯科大学医学部外科学第二講座教授。2004年東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学教授。2014年から現職。大腸癌研究会会長、日本消化器外科学会理事長を務めた。著書に『大腸がんを生きるガイド』(日経BP社)など

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