「体に優しそう」「副作用が少なそう」というイメージの漢方薬。しかし「薬」であることには変わりありません。ドラッグストアなどで購入できるものも多いだけに、正しい知識を身につけて上手に取り入れたいものです。漢方薬の基礎知識について、東邦大学医療センター大森病院東洋医学科の田中耕一郎診療部長に伺いました。
漢方薬は自然由来の生薬を
複数組み合わせて処方
漢方薬とは、「
生薬とは、自然由来の素材を加工したもので、主に次のようなタイプに分けられます。
- □植物由来のもの
一般に「シナモン」という名前で知られるケイヒ(桂皮)、シャクヤクの根を乾燥させたシャクヤク(芍薬)、クズの根を乾燥させたカッコン(葛根)など、多くの種類があります。生薬の大部分が、根や茎、花などの植物由来です。 - □動物由来のもの
ロバの皮から作られたアキョウ(阿膠)、カキの殻から作られたボレイ(牡蛎)などがあります。 - □鉱物由来のもの
セッコウ(石膏)、カッセキ(滑石)などがあります。
漢方薬に配合される生薬には、食材としても用いられるような身近なものから、医療用のものまで、幅広い種類があります。生薬にはさまざまな薬効があり、症状や体質などに応じて、複数の種類の組み合わせで処方されています。例えば、広く知られている漢方薬の一つである「葛根湯」には、発汗や解熱などの効能を持つカッコン(葛根)のほか、マオウ(麻黄)、タイソウ(大棗)、シャクヤク(芍薬)、ケイヒ(桂皮)、カンゾウ(甘草)、ショウキョウ(生姜)といった生薬がブレンドされています。葛根湯は、風邪の中でも、寒気や発汗を伴う発熱がある場合に効果的です。風邪の初期の頭痛や鼻水、肩や首のコリなどの症状にも用いられます。
漢方薬と西洋薬の
違いを知っておこう
漢方薬には、西洋薬(西洋医学で処方される薬)とは異なる特徴があります。
まず、漢方薬の原料は自然由来の生薬ですが、西洋薬の原料は、ほとんどが人工的に化学合成された物質です。また、漢方薬は複数の生薬を組み合わせますが、西洋薬の多くは単一の有効成分で構成されており、1つの病気や症状に対して強い効果を持っています。そのため、西洋薬の場合は、複数の病気や症状を抱えていると薬の種類も増える傾向があります。処方の対象にも違いがあり、西洋薬は病気や症状に対して薬を処方しますが、漢方薬は人を診て薬を選びます。つまり漢方薬の場合、同じ病気や症状であっても、その人の状態や体質によって違う薬が処方されることがよくあります。
漢方薬は、西洋薬に比べると副作用は少ない傾向にありますが、医薬品である以上、リスクもあるということに留意しておきましょう。副作用の一例として、カンゾウ(甘草)の取り過ぎによる「偽アルドステロン症※」や、まれにオウゴン(黄芩)やサイコ(柴胡)を含む薬剤による「間質性肺炎」や「肝機能障害」などがあります。
※偽アルドステロン症:アルドステロンというホルモンが、副腎から分泌されていないにもかかわらず過剰に分泌されているような状態になり、血圧上昇やむくみなどの症状を引き起こす病気。
これ以外にも、服用後に胃がもたれる、下痢をしやすくなる、だるさを感じる、頭痛がする、といった症状が現れる場合もあります。一時的な症状で治まることが多いですが、漢方薬に含まれるいずれかの成分が体質に合っていない可能性も考えられます。こうした体調不良が続くようなら、使用を中止して医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
改善したい症状がある場合は
まず医療機関の受診を
漢方薬には、急性の症状に対して即効性のあるものもあれば、症状が現れ始めたタイミングで早めに服用して進行を防ぐものもあります。体質そのものを改善することを目的に、年単位で服用を続けることもあります。
漢方薬は、医療機関やドラッグストア、漢方薬局などで手に入ります。最近では、多くの医師が漢方薬を治療の選択肢の一つとして取り入れており、公的医療保険適用のエキス製剤(生薬を煎じたエキスを
何らかの症状があり、それを改善したい場合は、まず医療機関を受診することがベストです。症状の原因を調べた結果、漢方薬よりも西洋薬のほうが有効な場合もありますので、医師の指示に従いましょう。西洋薬と漢方薬の両方を併用するケースもありますが、この場合も医師の指示を守ることが大切です。
市販の漢方薬を購入する場合は
パッケージに記載の症状を確認
ドラッグストアなどで取り扱いのある市販の漢方薬は、不調に対するセルフケアの一環として取り入れることもできます。市販の漢方薬のパッケージには「むくみに」「足腰の冷えに」「イライラしがちな方に」というように、適した症状が記載されていますので、こうした中から自分の症状に近いものを選びます。
効能に関する説明書きなどには「体力虚弱、冷え症で貧血の傾向がある」「体力中等度以下で、のぼせ感がある」など、体質についての記載も多く見られます。しかし、体力の強弱や疲れやすさの度合いなどは、自分自身で正確に判断するのは難しいものです。体力の強弱は、胃腸の強弱と関連することが多いため、例えば「体力がない」=「胃腸が弱い」と読み替えるのが一つの方法になります。ただ、自分に合う漢方薬を見つけるためには、やはり医師や薬剤師に相談することがおすすめです。
自分の体質を詳しく知ったうえで漢方薬を使いたい場合は、日本東洋医学会が認定する漢方専門医に相談するのも一考です。最寄りの漢方専門医は、下記のウェブサイトで検索することができます。
●日本東洋医学会 専門医検索
https://www.jsom.or.jp/jsom_splist/listTop.do
漢方薬は、自分の体質を知って、より健康になるための強い味方です。健康な毎日のために、取り入れてみてはいかがでしょうか。
医学博士。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本内科学会認定医・専門医・指導医。日本病院総合診療医学会認定医、日本医師会認定産業医。1993年北海道大学教育学部教育社会学講座卒業。富山医科薬科大学(現:富山大学)医学部、自治医科大学一般内科を経て、東邦大学医療センター大森病院東洋医学科入局。著書『生薬と漢方薬の事典』(日本文芸社)など。