健康マメ知識
2022.05.13

どうしたら治る? 四十肩・五十肩

~肩と腕のスムーズな動きを取り戻そう~
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

腕が上がらず着替えがつらい、背中に手を回せない……。日常のちょっとした動作に支障が生じてしまう四十肩・五十肩。悪化させないために知っておきたい対処方法や、症状が改善しない場合の最新治療などについて、東邦大学医療センター大橋病院整形外科の池上博泰教授に伺いました。

肩関節まわりの炎症が
四十肩・五十肩を引き起こす

一般的に四十肩・五十肩と呼ばれる肩の痛みは、文字どおり40~50代の中高年世代に多く見られます。四十肩と五十肩は同じ病気ですが、日本整形外科学会用語集では「肩関節周囲炎」あるいは「五十肩」として登録されています。本記事では、以下「五十肩」と表記します。

肩関節は、上腕骨頭(じょうわんこっとう)と呼ばれる上腕部の一部と、関節窩(かんせつか)と呼ばれる肩甲骨(けんこうこつ)の一部で成り立っています。上腕骨頭は野球のボール、関節窩はお猪口(ちょこ)にそれぞれ例えることができます。小さなお猪口の上に野球のボールが載っている様子をイメージしてみましょう。野球のボールを受け止めるお猪口が小さく浅いため、腕や肩を大きく広範囲に動かすことができる一方で、激しい運動や外傷等で関節がはずれてしまう場合(脱臼(だっきゅう))もあるなど、不安定な面もあります。

この不安定な構造を支えるのが、肩関節のまわりに存在する複数の筋肉・腱、靱帯です。筋肉・腱の動きのしなやかさは、加齢や外傷などによって低下していきます。こうした状態が続くことで肩関節周辺の組織に炎症が起こり、強い痛みが生じます。これが五十肩の主な要因と考えられています。

また、肩関節のまわりは、肩関節の動きをスムーズにする「滑液包(かつえきほう)」と、関節を包む「関節包(かんせつほう)」という袋状の組織で覆われています。五十肩が進行するとこの袋が癒着して、肩や腕を動かしにくくなる「凍結肩」と呼ばれる状態になる場合があります。

肩関節まわりの名称

痛みの強い急性期には
無理に動かさないことが大切

五十肩の経過は、「急性期(炎症期)」「拘縮(こうしゅく)期」「回復期(寛解期)」という3つの段階に分けられます。

特に注意したいのは、炎症によって痛みが強く現れる急性期(炎症期)の対処方法です。「痛くても動かさないと、肩まわりが固まってさらに動かしにくくなるのでは」と思いがちですが、炎症を起こしている時に肩関節を無理に動かそうとすると、ますます悪化させる可能性があります。急性期(炎症期)は、日中にはあまり痛みを感じなくても、夜になって横になると眠れないほど痛む場合があります。

こうした夜間痛が治まってきたら、拘縮期に移行している目安と考えられます。拘縮期に入ったら、無理のない範囲で少しずつ動かして肩関節の動きを改善するようにしましょう。

急性期(炎症期)、拘縮期、回復期(寛解期)の主な症状と対処のポイントは、それぞれ以下のとおりです。

急性期(炎症期)、拘縮期、回復期(寛解期)の主な症状と対処ポイント

五十肩と間違えやすい病気に注意

個人差はあるものの、五十肩は発症から1~2年ほどで自然に回復していく場合がほとんどです。しかし、急性期(炎症期)に痛みのために眠れない日が続いたりすると、うつ傾向になる場合があるなど、肩以外の部分にまで影響が及ぶ可能性があります。

また、五十肩は左右どちらかの肩から二の腕にかけて痛む場合が多いのが特徴のひとつですが、左肩から左腕にかけて生じる痛みは、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患による痛み(関連痛)である可能性も考えられます。

さらに、五十肩に似た症状の病気に腱板断裂(けんばんだんれつ)があります。肩の筋肉と上腕骨頭をつなぐ腱板が切れたり裂けたりすることで生じる病気で、仕事やスポーツで肩をよく動かす人や、過去に肩関節の脱臼やけがをしたことがある人、腱板の弾力性が低下した高齢者などに起こりやすい病気です。

「五十肩だからそのうち良くなるだろう」と自己判断で放置するのではなく、気になる症状があれば医療機関を受診して、医師の診断を受けることが大切です。先に挙げた症状のほか、次のようなことに心当たりがある場合には、なるべく早く受診するようにしましょう。

  • 夜、痛みで眠れない日が増えた
  • だんだん痛みが強くなってきている
  • 痛みのせいでやりたいことができないなど、日常生活に支障がある

動かしづらさと痛み、
それぞれの最新治療とは

五十肩の治療は、急性期(炎症期)は消炎鎮痛薬の貼り薬や内服薬が中心となります。痛みが治まらない場合は、炎症を抑えるステロイド剤や、肩関節の動きをなめらかにするヒアルロン酸、痛みを抑える局所麻酔薬などを用いる場合もあります。

拘縮期や回復期(寛解期)は運動療法が中心になりますが、肩関節が硬くなって動きの悪さが改善しない場合は、関節包の癒着を取り除くことで動きをスムーズにする治療を行います。いくつかの治療方法があります。

「サイレント・マニュピレーション(非観血的関節授動術)」は、肩関節の麻酔を行った後、医師が患者の肩を動かして癒着した関節包をはがす治療方法で、通常は日帰りでの治療が可能です。また、健康保険も適用されています。ただし、骨粗しょう症や糖尿病、甲状腺疾患などの持病がある場合には骨折などのリスクが生じる可能性があるため、治療が受けられない場合があります。

サイレント・マニュピレーションでも改善しない場合には、関節鏡などの器具を使い、癒着した関節包を切り離す手術もあります。手術は体への負担やリスクもあるので、医師とよく相談したうえで治療を進めていくことが大切です。

また最近では、肩関節の周辺にできた新生血管(正常な血管から分かれてできる新しい血管)が新たな炎症を起こし、痛みを伝える神経を増やして五十肩を長引かせる一因になることが分かってきています。この場合の治療として、カテーテルを用いた「血管内治療」があります。X線で透視しながら、カテーテルを使って新生血管に抗生物質(抗菌薬)を詰め、新生血管を閉塞させ、痛みを取り除く治療法です(※保険適用外)。

五十肩はきっかけや前兆などが特になく、ある日突然起こることが多いものですが、普段から肩まわりを柔軟に保つよう心掛けることは予防のうえで大切です。デスクワークなどで同じ姿勢を長時間続けている場合には、1時間ごとに立ち上がって肩甲骨を動かすストレッチを行うのも良いでしょう。

池上 博泰 東邦大学医学部整形外科学講座 教授

1985年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部整形外科学教室に入局。米国ハーバード大学留学、慶應義塾大学整形外科准教授などを経て、2012年東邦大学医学部整形外科准教授、2013年から同教授。日本整形外科学会専門医。日本手外科学会専門医。専門領域は肩、肘、手の外科、関節リウマチ、スポーツ整形外科など。現在、日本肩関節学会理事長。

プロフィール写真