知っておきたい病気・医療
2017.12.08

その原因不明の不調、バセドウ病かも?

~疲れやすさやイライラなど多くの症状が!~
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約200~500人に1人が罹患するといわれるバセドウ病。甲状腺機能亢進こうしん症の代表的な病気の一つで、女性患者の方が男性患者より5倍程度多いのが特徴です。「疲れやすくていつもだるい」「やたらと汗をかく」など気になる症状があっても、バセドウ病とは気がつかず、いつのまにか症状が進行してしまう例も少なくありません。そこで、甲状腺疾患の治療を専門的に行う、医療法人社団金地かなぢ病院院長の山田惠美子さんに、バセドウ病の症状や診断、治療法について教えていただきました。

バセドウ病は甲状腺ホルモンが
多くなることで発症

バセドウ病は、甲状腺でつくられるホルモンの量が過剰に分泌される病気です。バセドウ病を疑う際に医師が判断の目安とするのが、甲状腺の腫れです。その甲状腺は、のどぼどけの下に位置する気管の上に乗っている臓器(下図参照)で、チョウが羽を広げたような形をしています。男性と女性では、位置が多少異なります。

■甲状腺の位置

普段は、甲状腺の存在を意識することはあまりないかもしれません。しかし実は、脳や心臓、消化管、骨、皮膚をはじめとする多くの臓器や器官など、全身の細胞の新陳代謝を活発にする「甲状腺ホルモン(T3、T4)」という重要なホルモンをつくり出している、とても大切な臓器なのです。

甲状腺ホルモンは、食物に含まれるヨウ素を材料にしてつくられ、甲状腺から血液中に分泌されています。健康な体では甲状腺ホルモンの濃度は一定に保たれていて、私たちの“元気”を生み出す源となっています。

ところが、何らかのきっかけで甲状腺ホルモンが多くなりすぎたり、反対に少なくなりすぎたりすることがあります。このように、甲状腺ホルモンの量が多くなった状態を「甲状腺機能亢進症」、少なくなった状態を「甲状腺機能低下症」といい、さまざまな原因の病気があります。

このうち甲状腺機能亢進症の約9割を占める代表的な病気が、「バセドウ病」です。新陳代謝は体にとって極めて重要な働きですが、甲状腺ホルモンの量が多くなるとその働きが活発になりすぎてしまいます。すると常にジョギングをしているような状態になり、汗をかきやすくなったり、疲れやすくなったり、微熱が続くなどの症状が表れるようになります。そのため、バセドウ病の症状は下記のように多岐にわたります。

■バセドウ病の主な症状

ちなみに、バセドウ病とは反対に、甲状腺ホルモンが少なくなる病気が「橋本病」です。

バセドウ病か否かは
甲状腺検査ですぐ分かる

疲れやすさやイライラ、生理不順や不眠、むくみなど、一般的に他の病気でも起こりうる症状がバセドウ病にも見られます。そのため原因が分からず、婦人科や内科、皮膚科などを受診してみたものの、結局病名が分からなかったという例も少なくありません。

しかし、バセドウ病は原因と考えられる甲状腺自己抗体が特定されているため、血液による甲状腺機能検査と甲状腺自己抗体検査を行えば、すぐに診断をすることができます。もし先に挙げたような症状が4つ以上当てはまったり、原因不明の体調不良に苦しんでいたりする場合は、早めに内科または内分泌科で甲状腺検査を受けることをお勧めします。

そもそもバセドウ病は自己免疫疾患の一つで、体質の変化などによって体が自分の甲状腺を異物とみなすようになることで起こります。異物である甲状腺に対抗しようと自己抗体(TRAb:TSHレセプター抗体)がつくられて、甲状腺を常に刺激し続けるようになるのです。その結果、甲状腺ホルモンが過剰につくられてバセドウ病が発症すると考えられています。

バセドウ病を予防する画期的な方法は今のところありませんが、禁煙は必須です。バセドウ病の約3割の人に起こる眼球の突出は、喫煙している人ほど多い傾向があるためです。

予防はできなくとも、早期発見・早期治療で多くなった甲状腺ホルモンを正常な量に戻していくことは可能です。甲状腺の検査は一般の健康診断には含まれていませんが、医療機関によっては甲状腺ドックや人間ドックのオプションとして取り入れているところもあります。あるいは甲状腺専門の病院などで「検査を受けたい」と相談し、自主的に検査を受けるのもよいでしょう。

初期なら服薬で治療可能
不調が続く場合は、早めに検査を!

バセドウ病は、症状の軽い初期のうちは抗甲状腺薬の内服で治療することができます。適応に年齢制限などはありませんが、規則的にきちんと服用できることは必須条件です。なぜなら、1年から数年間に及ぶ長期間の服薬が必要だからです。

また、白血球の減少による高熱やのどの痛みなどの副作用が生じる場合もあるので、最初の服薬から2カ月間は原則として2週間に1回ずつ検査を受けるなど、定期的に通院する必要もあります。さらに喫煙は治療効果を弱める原因になるので、禁煙することも欠かせません。

妊娠中や授乳中でも内服できる薬もあります。バセドウ病の女性が妊娠した場合、母親が持っている自己抗体が胎盤を通って胎児の甲状腺を刺激するので、抗甲状腺薬の服用が必要になる例も多くあります。

この他、甲状腺が大きく、早く確実に治したい人に適した甲状腺全摘術の外科療法や、19歳以上で他の病気との合併症のため手術が難しい人に適したアイソトープ放射線療法もあります。外から放射線を当てるのではなく、小さなカプセルを飲んで体の中から直接甲状腺だけを治療する内服療法です。

いずれの治療でも、治療効果が表れるのに従って、症状がほとんどなくなるのがバセドウ病の特徴です。運動や仕事、妊娠、授乳など、健康な人と同じように日常生活を営むことができるようになります。

山田 惠美子 医療法人社団金地病院 院長

日本内科学会総合認定医、日本甲状腺学会専門医。1975年、東京女子医科大学卒業後、同大学病院内分泌内科入局。金地病院勤務を経て、91年に同院院長に就任。同院は2004年に日本甲状腺学会認定専門医施設、09年に内分泌・甲状腺外科専門医制度認定施設に認定。著書に『よくわかる甲状腺疾患のすべて』(永井書店)、『甲状腺の病気』(PHP研究所)などがある。

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