脈が飛んだり、不規則になったりする、めまいや動悸がする…。もしかしたら、それは不整脈かもしれません。不整脈とは脈が乱れた状態のことですが、健康な人でも起こります。一方、死に至るような危険な病気から不整脈が起こることもあり、注意が必要です。不整脈のタイプや原因、対策について心臓血管研究所付属病院所長の山下武志さんに伺いました。
不整脈とはどんな状態?
3つのタイプの違い
不整脈とは、脈が乱れた状態のことです。速い、遅い、不規則なリズムなどさまざまな脈拍のタイプがあります。
心臓の内部は、全身の血液を受け入れる心房(右心房、左心房)と、血液を送り出す心室(右心室、左心室)に分かれます。右心房にある「
心臓の収縮・拡張を繰り返すリズムを拍動と言い、全身の動脈に生じる拍動の数を脈拍と言います。基本的には拍動が一定の間隔で起こり、正常な脈拍は1分間におよそ50〜100回になります。
この脈拍数の範囲を外れる場合や脈の規則性が乱れたものが不整脈で、3つのタイプがあります。一瞬乱れるような不整脈は、健康な人でもよく起こることで、ほとんど心配はありません。一方で、不整脈が少なくとも30秒から1分以上続く場合は病気の可能性もありますので、循環器内科を受診してください。
脈が飛ぶタイプの不整脈は
健康な人にも起こる
時々、脈が飛んで拍動が不規則になるタイプの不整脈を「期外収縮」と言います。期外収縮そのものは病気ではなく、自分で感じないことがほとんどで、ほかの心臓病がなければ心配する必要はありません。
加齢によって起こりやすく、50〜60歳代になれば多くの人に起こります。
自覚症状がある場合も、不整脈の感じ方には個人差があります。楽しいことに熱中している時などは感じませんが、期外収縮のことを気にし始めると、かえって意識するようになり、脳に不安の刺激が伝わり、それがまた期外収縮を生むという悪循環に陥ります。
ストレス、睡眠不足、過労、喫煙、アルコールやカフェインの摂り過ぎ、体重の増加(肥満)など、ライフスタイルが乱れた時に起こりやすくなるので、生活を見直すべきというバロメーターとして考えると良いでしょう。
不整脈の中でも
脈が速くなるタイプは注意を
脈拍が遅かったり、間隔が開いたりするタイプの不整脈を「徐脈」と言います。血流がゆっくりで1〜2秒に1回しか脳に血流がいかない状態です。脳への血流があまりにも足りないと、めまいや失神、息苦しさなどの症状が現れることがあります。こうした症状や高齢の場合は、治療対象となります。
一方、脈が速くなる「頻脈」は2種類あり、拍動が1分間に100回以上になる「頻拍」と、心臓が細かく震えるように動き、拍動が弱くなる「細動」に分けられます。心房に細動が起こる「心房細動」は脳梗塞につながる恐れがあり、心室に細動が起こる「心室細動」は心臓突然死につながる危険なタイプです。
注意したい不整脈 その1
心房細動
加齢に伴い、脳梗塞や突然死につながる不整脈も増えます。
注意したい不整脈の中でも、全国に100万〜200万人と推定され、患者数が多いのは「心房細動」です。心房細動が起こると、全身からの血液を受け入れる心房の中を無数の電気信号が走り回るような状態となり、心房が1分間に400~600回の速さで、細かく震えるように動きます。すると心房の中で血液が淀んで固まり、血栓ができやすくなります。血栓が脳に運ばれると、脳の血管が詰まり脳梗塞を引き起こす原因となります。
息切れ、めまいなどの症状が出る場合もありますが、心房細動のある人の中でこうした症状が出るのは約半数です。残りの半数は突然、重症の脳梗塞が起こり、後遺症をもたらしたり命を失うこともあります。症状のでない心房細動を発見するには、心電図を使います。
特に、75歳以上で、高血圧、糖尿病、心不全、脳卒中を経験した人に心房細動があると、脳梗塞につながるリスクがより高くなります。状態に応じて、脳梗塞の予防のために血液を固まりにくくする薬(
心房細動の背景には、心臓の病気や高血圧、肺の病気、甲状腺の病気などが関係している場合もありますので、原因を見極めることが重要です。
不整脈があることを指摘されても放置していたり、何らかの症状があっても「年齢のせい」としてしまいがちですが、早めに対処することが大切です。
注意したい不整脈 その2
心室細動
注意したい不整脈のもう一つが「心室細動」です。心室は血液を全身に送り出す役割を持っていますが、心室細動が起きると心室の筋肉が細かく
そのため、心室細動がいったん起こると、1分ごとに10%ずつ死亡率が上がり、何もしなければ10分足らずで心停止に陥ります。速やかな心臓マッサージとAED(自動体外式除細動器)による処置を行えるかどうかが重要です。
心室細動を起こしやすいのは、心筋梗塞を経験した人、拡張型心筋症や弁膜症などで心臓に構造的な異常がある人です。
心室細動が発生するリスクが高い場合は、常に拍動を監視し、心室細動が起こったら自動的に電気ショックを与える「植え込み型除細動器」を入れるという選択肢もあります。ただし、日常生活に制限も生じますので、植え込みの判断は医師と相談しながら慎重に行います。
なお、突然死に至る危険な不整脈の中には、遺伝性の不整脈もあります。血縁関係者に心室細動が起きて突然死した人がいるなど、若くてもリスクが高い場合は、植え込み型除細動器などの治療で突然死の防止に努めます。
血管をしなやかに保ち
心臓の負担を減らすために減塩を
不整脈は、長年、心臓に負担が積み重なり、起こる症状です。全身の血管がしなやかなら、少しの収縮で全身に血液を送ることができます。反対に血管が硬いと、ポンプの役割をしている心臓がたくさん働かなければならず、疲弊してしまいます。
心臓に負担をかけない、血管を柔らかくしなやかに保つような生活を送ることが大切です。そのために最も効果的なのは減塩です。塩分を摂り過ぎると、心臓は塩分濃度の濃い血液を調整するため、どんどん血液を腎臓に送ろうと激しく動きます。それが繰り返されると、心臓は疲れやすくなりますが、減塩することで心臓の負担を減らすことができます。
食生活においては、減塩を心掛け、定期的な健康診断などで、不整脈をチェックしましょう。
1986年東京大学医学部卒業。1994年大阪大学医学部第二薬理学講座。1998年東京大学医学部循環器内科助手。2000年(財)心臓血管研究所/第三研究部部長、2011年同研究所長・院長、2014年より現職。日本心電学会木村栄一賞、日本循環器学会YIA(Young Investigator’s Award)、世界心電学会YIA賞受賞。日本内科学会内科認定医、日本循環器学会認定専門医。日本不整脈心電学会理事。著書『NHK出版 病気がわかる本 心房細動に悩むあなたへ』(NHK出版)など。