つらい頭痛に悩まされた経験がある人は多いのではないでしょうか。重い片頭痛で起き上がることもできず、日常生活や仕事に支障が出るという人もいるかもしれません。片頭痛は特徴を知ることで、コントロールできる病気でもあります。片頭痛の種類や付き合い方を、埼玉国際頭痛センター・センター長の坂井文彦先生に伺いました。
片頭痛は
慢性頭痛のチャンピオン
頭痛には一次性頭痛と二次性頭痛があります。一次性頭痛とは、MRIなどの画像検査では異常がないのに痛みが繰り返し起きる頭痛を言います。一方で二次性頭痛とは、脳の病気などが原因となって起こる頭痛を言います。
一次性頭痛の中でも片頭痛は、専門家の間で「頭痛のチャンピオン」と認識されています。日本では15歳以上の人口の約8.4%、約840万人が片頭痛持ちと言われ、14歳以下の子どもを含めると潜在的に約1,000万人はいると見られます(※)。そのうちの約7割は、ひどい時は寝込んでしまうなど、日常生活や仕事に支障が出るほどのつらい症状に苦しめられています。
※出所:Sakai.F,Igarashi H:Prevalence of migraine in Japan:
a nationwide survey.Cephalalgia1997;17(1):15-22.
片頭痛は「時々ズキズキと脈打つような頭痛が起こる」「動くと悪化する」というのが最大の特徴です。20〜40代の働き盛りに多く、女性は男性の3倍多いことが分かっています。最近は子どもも片頭痛で医療機関を受診するようになってきました。
また、昔は生理周期の関係で、閉経頃には片頭痛も治まることが多いと言われましたが、現在は身体的・精神的ストレスの影響などにより、閉経以降でも片頭痛に苦しむ人は少なくありません。
時々起こる、動くと悪化するのが
片頭痛の特徴
あなたの頭痛をチェックしてみましょう。
- □月に1~2回、多い時は週に1~2回程度、頭痛が起きる。
- □1回の頭痛は数時間から1~3日間続き、つらくて寝込むこともある。
- □頭痛がひどくなると、ズキズキと脈打つように痛む。
- □体を動かすと痛みがひどくなる。
- □頭痛が起こったら、静かで、暗く、においのない部屋で横になっていたい。
- □吐き気がする。
- □頭の片側が痛むことが多い。
- □頭痛が起こる直前に、視界にギザギザしたものが広がるように見えることがある。
- □頭痛が起こる1~2日前に、あくび、イライラ、むくみ、食欲が高まるなどの予兆が表れることがある。
- □ストレスを感じている時より、解放されてホッとした時に起こりやすい。
- □月経に関連して起こることが多い。
- □家族(特に母親)に頭痛持ちがいる。
チェック項目が3つ以上ある場合、ほぼ確実に片頭痛と言えるでしょう。
慢性頭痛の中には片頭痛の他に緊張型頭痛、群発頭痛などのタイプがあります。「緊張型頭痛」は、頭をしめつけられるような頭痛が毎日続き、特に夕方にひどくなります。ストレスなどが原因で起きることが多く、ストレス頭痛とも言われています。「群発頭痛」はある一定期間の間、毎日のように起きる頭痛のことで、期間を過ぎると頭痛は治まります。
近年、片頭痛と緊張型が混じったような「慢性片頭痛」も問題になってきています。慢性片頭痛とは、片頭痛が慢性化して頻繁に起こるようになったものですが、ひどい頭痛がない日も緊張型頭痛のような頭痛が混じってくるなど、頭痛の強さや起こり方も変わってきます。
その他、「薬物乱用頭痛」も注意が必要です。市販の鎮痛薬を含めて、薬の使い過ぎにより頭痛が誘発されるものです。薬物乱用頭痛から慢性片頭痛ヘと変容することもあります。
症状の軽重は人によりますが、月に1回でも仕事を休まなければならないなど、日常生活や仕事に支障があると感じる場合は、早めに神経内科や頭痛外来などの医療機関を受診しましょう。
脳の血管の拡張・炎症で
片頭痛が起こる
片頭痛が起こる原因の一つとして、遺伝的な体質が関連しています。「脳の反応が良い」という体質が遺伝するもので、気圧、気温、ストレスなどちょっとした環境の変化や、ホルモンリズムや睡眠のリズムなど体の変化に過敏に反応して、頭痛が起こってしまうのです。通常は同じ刺激に対しては慣れて影響されなくなるものが、片頭痛の人の場合は刺激に慣れることがない、という報告があります。そのため、頭痛が起こるたびに、脳にどんどん痛みの記憶をためてしまい、ちょっとしたことで頭痛が起こりやすくなり、慢性化してしまうのです。
痛みのメカニズムについてはさまざまな説がありますが、主に脳の血管が拡張して炎症が起こることで頭痛が発生すると考えられています。その鍵を握るのが、体のリズムを保つのに重要な役割を担っている、セロトニンという脳内の神経伝達物質です。セロトニンの活性が低下すると、コントロールされていたはずの
※三叉神経:頭部と顔面を支配する、脳神経の中で一番太い神経。痛い、触った、冷たい、温かいなど顔の感覚を脳に伝える神経で、脳から目、上あご、下あごに向けて3つに分かれて伸びているため、「三叉」神経と呼ばれる。脳の血管を拡張する機能もある。
環境や体内リズムの変化以外にも、ストレスから解放されてホッとした時などにも片頭痛は起こりやすくなります。
忙しく限界まで活動をしている時は、セロトニンが放出され続けて枯渇状態になっています。休日になって心身を休めると、脳が「もう出さなくていい」と判断して、セロトニンの放出を止めてしまい、それまでセロトニンにコントロールされていた三叉神経が活動を始めて片頭痛が起こるというわけです。
また、女性の場合は毎月の月経周期で女性ホルモンが変化することも、片頭痛の理由の一つと考えられます。月経前に反応して頭痛が起こりやすい人が少なくありません。
その他、アルコールなどが片頭痛の誘因になるとも言われています。ただ、アルコールの量や飲み方ではなく、ストレスから解放された時の状況で、片頭痛を起こしやすいというケースもあり、アルコール自体の作用がどれだけ影響しているかはよく分かっていません。
「頭痛ダイアリー」で
自分の頭痛を知ろう
片頭痛の起こり方は人によってさまざまですから、自分の頭痛をよく知るということが、対策の第一歩です。そこでお勧めなのが「頭痛ダイアリー」です。「頭痛ダイアリー」とはどんな時に、どのような頭痛が起こるのか、痛みの強弱や持続時間、飲んだ薬などを日記のように記録するものです。これを見れば自分の頭痛の傾向が把握でき、医師に痛みを伝え、診断や治療を進めるのにも役立ちます。
※頭痛ダイアリーは日本頭痛学会のウェブサイトからダウンロードできます。
片頭痛が起こった時の治療には薬が使われます。鎮痛薬も使われますが、現在、主流となっている片頭痛の治療薬はスマトリプタンなどのトリプタン系の薬剤です。これは三叉神経の興奮を抑え、CGRPなどの放出を抑える働きをする薬剤です。吐き気がするほどひどい頭痛になる前に、上手に使うことが大切です。ただし、鎮痛剤とは違って、拡張した血管を元に戻すというメカニズムそのものに作用するので、どんな頭痛にも効くわけではありません。「また起こったらどうしよう」と不安になりあまり飲み過ぎると、広がっていない血管を逆に収縮させて、反動で余計にひどい片頭痛が起こることもあります。
薬を上手に使いながら、生活の中で「体のリズムを一定に保つこと」「痛みの記憶を減らす」ということが予防になります。
先述のように、急にストレスから解放されてホッと休むと片頭痛のきっかけになることもありますので、平日も休日もできるだけ同じペースを心掛けましょう。「リラックスよりリフレッシュ」を意識して、気持ちよく体を動かしたり、楽しい予定を入れて活動すると良いでしょう。
痛みの記憶が脳に蓄積されるのを減らすため、「頭痛体操」もお勧めです。首の周りの筋肉と神経をストレッチすると、良い信号が脳に送られ、頭痛の慢性化を防ぐのに役立ちます。
足を肩幅に開き、正面を向き、頭は動かさず、両肩を大きく回します。頸椎(けいつい)を軸として肩を左右に90度まで回転させて戻します。これをリズミカルに最大2分間続けてください。
※椅子に座ったままで行っても、同じ効果が得られます。
持って生まれた体質は変えられませんが、片頭痛を起こさないようなセルフコントロールをしたいものです。周囲からは「たかが頭痛」「また会社を休むのか」などと言われることもあり、本人のつらい思いはなかなか理解されにくい現状がありますが、「されど頭痛」です。片頭痛がコントロールできるようになって「人生が変わった」という人もいるほど、大きな影響のある病気です。正しい知識を持って、上手に付き合いましょう。
1969年慶應義塾大学医学部卒業。内科学教室に入局し、神経内科および脳循環・代謝の研究を始める。1976年米国ベーラー大学神経内科留学。1997年北里大学医学部神経内科学教授。2010年埼玉医科大学客員教授。2010年現職。
日本頭痛学会の元理事長など重職を歴任。長年にわたり、日本の慢性頭痛医療を進化させてきた。なかでも「頭痛ダイアリー」の活用・研究では高い成果を上げており、全国の専門医が治療に取り入れている。著書に『「片頭痛」からの卒業』 (講談社現代新書2018)