体の左右どちらか一方にピリピリとした痛みを感じ、気付いた時には赤い
水疱瘡のウイルスが
再び暴れ出す「帯状疱疹」
帯状疱疹は、皮膚に帯状に水ぶくれが現れる病気です。原因は、子どものころに多くの人がかかる水疱瘡のウイルス(
体の左右どちらか一方に、ピリピリ、チクチクといった神経痛が現れ、次第に、ポツポツと盛り上がった虫刺されのような赤い発疹が皮膚に出て、小豆大くらいの水ぶくれになり、帯状に広がっていきます(図)。帯状といっても体を一周することはほとんどなく、症状は体の片側だけに現れるのが特徴で、水ぶくれはやがて破れてただれた状態となり、かさぶたになります。
新村眞人:感染・炎症・免疫31(4),295(2001)より一部改変
過去に水疱瘡にかかったことのある人は全員、ウイルスを持っています。自分の体の中のウイルスが原因なので、発疹が出ても帯状疱疹として人にうつることはありませんが、水疱瘡にかかったことのない人に接すると、水疱瘡としてうつり、発症することがあります。
疲れた時に
発症することが多い
帯状疱疹を発症して医療機関にかかった人のデータを見ると、男性よりも女性に多く、60代を中心に、50〜70代に多く見られます。
石川博康ら:日皮会誌,113(8)1229(2003)
高齢者、抗がん剤やステロイド剤を使っている人などは免疫力が低下して帯状疱疹のリスクが高くなります。働き盛りの世代も、仕事や家事が多忙で高ストレスの生活が続いている、極度に疲れている時に突然、帯状疱疹を発症することがあるので要注意です。一方で、ウイルスに接しやすい環境下にあるかなどの影響も大きく、子どもの水疱瘡に接する機会の多い小児科医や保育園の先生などは、その度に免疫が活性化するため、ウイルスを抑え込む免疫力が鍛えられ帯状疱疹になりにくいとも言われています。
発症する部位で多いのは胸から背中にかけての上半身ですが、顔面、特に目の周辺に発症することもあります。顔面や目の周辺に現れると、角膜炎や難聴、まれに
※三叉神経
「いたい」「さわった」「つめたい」「あつい」などの顔の感覚を脳に伝える神経
早い段階で気付き
治療を始めることが重要
症状の出方には個人差があり、激痛が続いてから1〜2週間遅れて皮膚症状が出る人もいれば、
しかし、治療開始が遅れてしまうと完治に時間がかかり、また「帯状疱疹後神経痛」という後遺症をもたらしやすくなるため、症状が現れた場合には早めの受診が必要になります。皮膚に痛みなどの異常を感じたら、すぐに皮膚科を受診しましょう。
抗ウイルス薬は
効果が現れるまでに2〜3日かかる
帯状疱疹の治療の中心は抗ウイルス薬で、入院して点滴を行うか、外来での内服薬治療が可能です。従来のファムシクロビル、バラシクロビルなどの抗ウイルス薬に加えて、2017年にアメナメビルが登場しました。この薬は腎臓でなく肝臓で代謝されるため、腎機能が悪い高齢の患者さんでも外来で治療をしやすくなりました。
ただし、抗ウイルス薬はいずれも効果が現れるまでに2〜3日かかります。すぐに効果が見られなくても自己判断でやめたりせず、医師の指示どおりに服用することが大切です。
抗ウイルス薬を投与するのは1週間です。その間は無理をせず、十分な栄養と休息をとるようにしましょう。安静を保つために入院を勧められることもあります。その他、帯状疱疹を発症したら以下に気を付けましょう。
- □患部を冷やさない
冷えると痛みがひどくなるため温めて血行を良くしましょう。 - □水ぶくれは破らない
水ぶくれが破れると細菌に感染しやすくなります。 - □水疱瘡にかかったことのない乳幼児との接触を控える
帯状疱疹自体はうつりませんが、水疱瘡にかかったことのない人に接すると、水疱瘡としてうつり、発症することがあります。
治療が遅れ、症状が進むと
帯状疱疹後神経痛が続くことも
重症の場合や治療が遅れた場合、最も厄介なのは、発症から3カ月以降に「帯状疱疹後神経痛」に移行してしまうことです。急性期の炎症によって神経が損傷してしまうと、皮膚の炎症が治まった後も痛みの刺激が残ります。神経痛は徐々に改善に向かいますが、数カ月で治まる人から数年にわたって激しい痛みに苦しめられる人まで個人差があります。帯状疱疹後神経痛の痛みはつらく、周囲にもなかなか理解してもらえず、中にはうつ状態に陥ってしまう人もいるほどです。薬やペインクリニック(※)で行う神経ブロックなどの治療で、一時的に痛みのない状態にすることができますので、こうした対策を根気よく続けましょう。
※ペインクリニック
痛みを取り除くことを専門とする診療所
大切なのは帯状疱疹を早く見つけて、治療することです。60歳以上の人、皮膚症状が重症な人、夜も眠れないほど強い痛みがある人などは帯状疱疹後神経痛が残る可能性が高いため、特に注意が必要です。
予防の選択肢に
「水痘ワクチン」も
帯状疱疹予防のためには、栄養と睡眠を十分にとり、ストレスをためないことが基本ですが、50歳を過ぎたらワクチン接種も選択肢の一つです。小児の水疱瘡予防が目的だった「水痘ワクチン」が、50歳以上の成人に対しても帯状疱疹の予防を目的に接種が認められるようになりました。アメリカのデータではワクチンを接種した人は帯状疱疹になる確率が約2分の1、帯状疱疹後神経痛になる確率が約3分の1に減らせると報告(※)されています。
※出典:Oxman MN, et al., N Engl J Med 352: 2271-2284, 2005
帯状疱疹は過密スケジュールの仕事や家族の看病、介護といったストレスが重なって、免疫力が低下した時に発症します。「疲れすぎですよ」という体からの警告と捉え、ストレスフルな状況を見直すことが大切です。まずは日ごろから、食事を疎かにしない、少しでも多く睡眠をとる、といったことを心掛け、帯状疱疹を発症させない生活を送りましょう。
1977年東京大学工学部卒業、1984年東京大学医学部卒業。関東中央病院皮膚科、東京大学医学部皮膚科助手などを経て、1989年ハーバード大学へ留学(病理学教室研究員)。帰国後、東京大学医学部皮膚科医局長、講師、病棟医長を務め、1994年東京逓信病院皮膚科医長、1998年同院皮膚科部長。2014年より副院長を兼任。特にアトピー性皮膚炎、乾癬、接触皮膚炎、水疱症などを専門とする。