知っておきたい病気・医療
2020.03.13

女性に多い下肢静脈瘤

~治療とセルフケアとは~
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下肢静脈瘤かしじょうみゃくりゅうは、女性に多い身近な病気です。脚の静脈が浮き出てコブのようになる、脚がむくむ、重い、だるいなどの症状が現れます。近年、体への負担が少ない新しい治療法が登場し、痛みや傷跡が残る心配も減り、楽に治せるようになってきました。下肢静脈瘤の治療やセルフケアについて、お茶の水血管外科クリニック院長の広川雅之先生に伺いました。

下肢静脈瘤ってどんな病気?

下肢静脈瘤とは、脚の血管が膨れてコブのようになる病気です。軽い症状も含めると、成人の約半数に見られるほど身近な病気です。命に関わる病気ではありませんが、血管がボコボコとコブのように浮き出る、脚が重い、だるい、むくむなどの症状が現れます。夜、寝ている間に起こる「こむら返り」に苦しむ人もいます。進行すると、血液の循環が悪くなることによる皮膚の炎症(うっ滞性皮膚炎)で湿疹や色素沈着、脂肪が炎症を起こして硬くなる脂肪皮膚硬化症などを起こすこともあります。ごく一部ですが、さらに重症化すると潰瘍かいようができることもあります。

下肢静脈瘤が起こる原因は?

脚の血管には動脈と静脈があり、静脈のうちでも深いところにある「深部静脈」と、皮膚に近く浅いところにある「表在ひょうざい静脈」があります。下肢静脈瘤は、表在静脈の弁が壊れることで起こる病気です。

静脈は、心臓から足先まで送られた血液を、重力に逆らって心臓まで戻す役割を果たしていますが、逆流を防ぐため、静脈にはハの字型の弁がついています。この弁が壊れてきちんと閉まらず、戻り切らない血液がたまることで、血管が膨れます。汚れた血液が脚にたまるため、むくみやだるさなどの症状が起こります。

■下肢静脈瘤は静脈の弁が壊れることで起きる 下肢静脈瘤は静脈の弁が壊れることで起きる

一度壊れた弁は、自然には治らないため、放置すれば下肢静脈瘤は進行して症状は徐々に悪くなります。症状を悪化させる要因としては、職業や生活習慣の影響が大きく、特に美容師や調理師など、立ち仕事の人は下肢静脈瘤になりやすい傾向があります。立ち仕事でなくても介護や看病で、急に症状が悪化する人もいます。
また、女性は妊娠・出産を機に発症する場合もあり、筋力も男性に比べて弱いため、男性よりも下肢静脈瘤になるリスクが高く、特に筋力が衰えてくる中高年の女性に多くなります。身長が高い人や運動不足の人、肥満の人もなりやすいと言われています。

■下肢静脈瘤のセルフチェック

以下の項目であてはまるものが2つ以上あれば、下肢静脈瘤の可能性があります。

  • 夕方になると足が重い、だるい、疲れやすい
  • 足にむくみがある(夕方になると靴下のゴムの跡がついている)
  • 寝ている時に、足がつることが多い
  • 足首やふくらはぎの血管が浮き出て、ボコボコしている
  • クモの巣のような細かい血管が見える
  • ふくらはぎや足がほてる、熱く感じる
  • 足に湿疹やかゆみがある
  • 足の皮膚が茶褐色に変色していたり、固くなっている
  • 近親者に下肢静脈瘤の人がいる(いた)

下肢静脈瘤の種類と特徴

下肢静脈瘤の種類は、どこの静脈の弁が壊れるかによって変わります。以下の①〜③のタイプは、軽症で症状もあまりないことが多く、治療の対象となるのは④、⑤が大半です。

■下肢静脈瘤の種類と特徴 下肢静脈瘤の種類と特徴

負担の少ない日帰り治療が可能
2019年から新たな治療法が保険適用に

治療が必要な下肢静脈瘤は、多くの場合、体への負担が少ない治療で治すことができます。現在主流なのは、血管内治療による「レーザー治療」と「高周波治療」です。どちらも細いカテーテルを入れて血管を内側から焼き、静脈を塞ぐ治療で「血管内焼灼しょうしゃく術」とも呼ばれます。局所麻酔で傷跡も小さく、日帰りでの治療が可能です。どちらの治療も効果はほぼ同じです。

■レーザー治療

静脈に入れた細いレーザーファイバーからレーザー光を照射し、熱によって静脈を塞ぐ方法。2014年に保険適用を受けた最新の波長1470nmのレーザーを用いた治療では、従来より痛みや皮下出血が少なくなっている。

■高周波治療

専用のカテーテルを脚の付け根の静脈まで入れ、高周波電流を流してカテーテルを熱して静脈を焼く方法。

また、2019年12月から瞬間接着剤(グルー)による「グルー治療」も保険適用となりました。グルーとは英語で「glue」という綴りで、「のり」を意味します。これは、シアノアクリレートを主成分とする瞬間接着剤を静脈に注入して塞ぐ方法です。静脈を焼かないため、局所麻酔は必要ありません。合併症のリスクもより低く、治療後の制限もほとんどありません。グルー治療は、今後、新たな選択肢の一つとして広がっていくでしょう。

従来から行われてきた「硬化療法」は、静脈の中に薬剤を注射して塞ぐ方法です。網目状静脈瘤や側枝型そくしがた静脈瘤など軽症の静脈瘤、手術後に再発した静脈瘤、高齢者、心臓の病気など合併症がある場合に適しています。

治療は、静脈瘤によって適するもの、適さないものがあります。超音波(エコー)検査による詳しい診断をもとに、ライフスタイルや希望なども含めて総合的に判断し、最も適切な治療法を選択します。
問診や検査をしっかり行わず、治療を急がせるような場合は、注意が必要です。医療機関の選択は、慎重に行いましょう。

セルフケアで
下肢静脈瘤を防ごう

脚のむくみやだるさが気になるといった下肢静脈瘤の場合、軽度であればセルフケアで十分に対処できます。ポイントは脚にたまった血液を心臓に戻すことです。長時間同じ姿勢で立っていたり、座っていたりすることを避け、1時間に1回は歩くなど工夫して脚を動かしましょう。散歩やジョギングなど適度な運動でふくらはぎの筋肉を鍛え、血流を改善することも効果的です。次のような簡単な体操もお勧めです。

■血流が良くなる体操
  • つま先立ち
    机や手すりなど安定したものをつかみ、ゆっくりと両足のかかとを上げ下げする。10回くり返す。
  • 足首回し
    椅子に浅く腰を掛けて、かかとを床につけたまま、つま先で円を描くように足首からゆっくりと回す。外回り5回、内回り5回を1セットとし、3セットくり返す。
  • ブルブル体操
    仰向けになって両手両足を天井に向けて上げ、力を抜いた状態で手足をブルブルと小刻みに30〜60秒揺する。3回くり返す。

下肢静脈瘤の症状がなくても、弁に異常が見られる場合があります。ただし、すべてに治療が必要なわけではありません。基本的には、症状が辛くて生活に支障がある場合が治療の対象となり、軽症の場合は弾性ストッキング(あるいは市販の着圧ソックス)による圧迫やセルフケアを行います。
弾性ストッキング※は、医療用に比べると圧力は低くなりますが、市販品でも同様の効果があります。なお、女性は妊娠するとホルモンの影響で下肢静脈瘤が悪化しやすくなります。妊娠がわかった時点から出産後半年くらいは、着圧ソックスや弾性ストッキングを着用することをお勧めします。

※弾性ストッキング: 弾力性を持った特殊なストッキングのこと。足先から心臓への血液の戻りを助け、下肢静脈瘤のうっ血症状を改善する。足関節部の圧迫圧が最も高く、上に向かうほど圧力が弱くなる段階的圧迫圧の構造になっている。「医療用」と「市販品」があり、基本的な構造や効果は同じだが、医療用の方が締め付ける圧力が強い。

脚に血液をためない生活が予防や症状の改善につながります。生活の中にセルフケアを取り入ることを心掛け、下肢静脈瘤を予防しましょう。

広川雅之 お茶の水血管外科クリニック院長

1962年神奈川県生まれ。1987年高知医科大学医学部卒業、第二外科入局。1993年米国ジョーンズホプキンス大学医学部。2005年東京医科歯科大学血管外科講師。同年、お茶の水血管外科クリニック院長就任。医学博士、外科専門医、脈管専門医、日本静脈学会理事、日本静脈学会ガイドライン委員会委員長、日本血管外科学会・日本脈管学会評議員。著書に『下肢静脈瘤は自分で治せる』(マキノ出版)、『下肢静脈瘤 最新の日帰り治療できれいな足を取り戻す』(講談社)、『下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン2019』(日本静脈学会)など。

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