知っておきたい病気・医療
2019.07.12

お口の生活習慣病「歯周病」をストップ

~初期段階で放置しないことがカギ~
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歯を支える骨がなくなり、最悪の場合には歯を失うことにもなる歯周病。それだけでなく、歯周病菌が歯ぐきの毛細血管から血管内へと侵入して全身へと運ばれることで、さまざまな病気のリスクを高める一因になることも多くの研究で分かってきています。全身の健康を保つためには、まず歯の健康に気を付けることが不可欠です。歯周病の基礎知識から予防法、最新のホームケアについて、鶴見大学歯学部の花田信弘さんに伺いました。

歯周病の初期症状を
チェックしてみよう

下記のチェック項目のうち、自分に当てはまるものをチェックしてみましょう。

  • 朝、起きたときに口の中がねばつく
  • 歯磨きをすると歯ぐきから血が出る
  • 歯のすき間に食べ物がはさまりやすい
  • 歯ぐきの色が赤い、もしくは赤黒い
  • 歯ぐきがムズムズする
  • 歯ぐきが部分的に腫れている
  • 冷たいものが歯にしみる
  • 口臭が気になる

上の項目はすべて歯周病の初期症状です。どれかひとつでも症状が強く表れている場合は、歯周病が始まっている可能性があります。

歯ぐきが腫れる歯肉炎から
歯を失う可能性のある歯周炎へと進行

歯周病とは、「歯肉炎」と「歯周炎」という2つの症状の総称です。

歯肉炎は、酸素を好む歯周病菌によって引き起こされます。通常、歯と歯ぐきの境目にあるわずかなすき間「歯肉溝」からは、白血球や抗体などの免疫成分を含む「歯肉溝滲出液」しにくこうしんしゅつえきという液体が分泌され、歯を細菌から守る役割を担っています。

ところが、歯周病菌は歯肉溝滲出液に含まれるアミノ酸をエサにして増殖していくため、歯周病菌が増えるにつれて歯肉に炎症が生じ、歯ぐきの腫れや赤みなどの症状が表れます。

こうした炎症が慢性的に続くうちに歯肉溝が徐々にえぐれて深くなり、「歯周炎」へと進行していきます。

歯肉溝の深さは健康な状態では1~2mmですが、4mm以上になると「歯周ポケット」と呼ばれます。

歯周ポケットの中では酸素を嫌う歯周病菌がどんどん繁殖し、歯根と歯槽骨しそうこつをつなぎとめる歯根膜や歯槽骨を破壊していきます。そして最終的には歯が抜ける事態まで進んでいくのです。

■歯肉炎 歯肉炎
■軽度歯周炎 軽度歯周炎
■中等度歯周炎 中等度歯周炎
■重度歯周炎 重度歯周炎

歯肉炎を放置することが
全身の病気の一因に!?

歯肉の炎症を放置してしまう理由は、痛みがほとんどなく、歯ぐきが腫れても歯科で処方された薬を塗れば、腫れが治まるケースが多いことにあります。

しかし、腫れが治まったからといって根本的に治っているわけではなく、放っておけば歯周炎へと進行するだけでなく、全身のさまざまな病気の原因になる可能性があります。

歯肉炎を放置していると歯周病菌が増殖を続け、歯周ポケットの中の歯肉が絶えず炎症を起こした状態になります。すると、異物の侵入を防ぐバリア機能を持つ上皮細胞が壊れ、傷口ができます。その傷口から歯肉に張り巡らされた毛細血管へ歯周病菌が入り込み、全身へと広がっていきます。

血液中に口内の歯周病菌が入り込んだ状態のことを「歯源性菌血症」しげんせいきんけつしょうと言います。がんやアルツハイマー型認知症、動脈硬化、関節リウマチ、糖尿病などさまざまな病気のリスク因子になることが、多くの研究で分かってきています。

歯周病予防の基本は
丁寧な歯磨き

歯周病を予防するためには、歯磨きが大切です。ブラッシングを行う際には、歯ブラシが届きやすい歯の表面と裏側だけでなく、歯と歯の間の面まで丁寧に磨きます。歯と歯のすき間は歯間ブラシやデンタルフロスを使い、しっかり汚れを取り除き、さらに、舌は舌専用のブラシでやさしくなでるように取り除きましょう。細菌のかたまりである「舌苔」ぜったいがたまるのを防ぐことができます。

一生自分の歯を保つには
積極的な除菌ケアが有効

日常のケアである歯磨きに加え、歯の表面に付着した細菌を排除する「3DS」※を活用することをお勧めします。

※Dental Drug Delivery Systemの略。虫歯菌や歯周病菌の除菌を行なう最新の予防方法で、虫歯や歯周病のリスクが高い人に有効。

一人ひとりの歯型に合わせて作られたマウスピースのようなトレーに抗菌薬や殺菌消毒剤を入れ、5分程度歯に装着します。歯の表面や歯肉溝に殺菌剤が染み渡り、バイオフィルム(菌膜)を作り出す細菌の数を減らします。薬剤に触れていない頬や舌、歯肉などにいる常在菌には影響はありません。3DSを毎日朝晩2回続けることで、歯周病菌のほとんどいない健康な口内環境が整っていきます。

現段階では健康保険が適用されないため、初期費用として10万円前後かかりますが、口内の歯周病菌の減少が確認された後は、市販の洗口液を使用することも可能です。

一生涯、自分の歯を残すために、3DSは有効だと言えます。
3DSを取り入れている全国の歯科医院は下記のサイトで調べることができます。

3DSについては、下記のサイトで確認いただくことができます。
歯の健康ステーション
https://www.kenko-station.jp/3ds/therapy.html

糖質の摂り過ぎは控え
抗酸化成分を十分に摂る

歯の健康を保つためには食生活も重要です。歯周病菌による炎症や刺激で活性酸素が過剰に分泌されると、炎症を起こしている組織などを傷つけて、さらに歯周病を悪化させる要因になります。

こうした酸化ストレスを防ぐためにも、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなど抗酸化物質が含まれる食品を十分に摂りましょう。

■抗酸化物質が含まれる食品 抗酸化物質が含まれる食品

また、たんぱく質や脂質などをバランスよく摂ることも欠かせません。一方、糖質の摂り過ぎや甘いものの食べ過ぎは歯の状態を悪化させ、歯源性菌血症が生じやすくなる大きな原因となります。

お菓子類だけでなく、普段何気なく飲んでいる清涼飲料水や、市販のドレッシング、ソース、ケチャップなどの調味料にも砂糖や甘味料を多く含んでいることが多いので、摂り過ぎに気を付けましょう。

全身のさまざまな病気を誘発しないためにも、日ごろから正しい口腔こうくうケアの習慣を身に付け、糖質の摂りすぎを控えるなど心掛けましょう。

花田信弘 鶴見大学歯学部 探索歯学講座教授

1953年福岡県生まれ。福岡県立九州歯科大学歯学部卒業、同大学院修了。米国ノースウェスタン大学博士研究員、九州歯科大学講師、岩手医科大学助教授、国立感染症研究所部長、九州大学教授(厚生労働省併任)、国立保健医療科学院部長を経て、2008年から現職。この間、健康日本21計画策定委員、新健康フロンティア戦略賢人会議専門委員、内閣府消費者委員会委員、日本歯科医学会学術研究委員会委員長を務める。『歯周病が寿命を縮める』(法研)、『歯科発 アクティブライフプロモーション21』(デンタルダイヤモンド社)など著書多数。

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