新型コロナウイルス(病名:COVID:19)の感染拡大をきっかけに、関心を集めているのが肺炎です。厚生労働省の「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)」では主な死因の第5位となっています。誰にでも起こり得る身近な病気でありながら、意外にその種類や特徴などについて知らないことも多いのではないでしょうか。肺炎にかからない、かかったとしても重症化させないために知っておきたい基礎知識について、山王病院の奥仲哲弥副院長に伺いました。
肺炎が進行すると
呼吸困難など命に関わることも
肺は呼吸をつかさどる重要な器官です。左右に分かれた肺の中にはそれぞれ細かく枝分かれした「気管支」が張り巡らされていて、鼻や口から吸い込んだ空気を肺の末端にある「肺胞」まで送り届けています。
毛細血管で覆われた肺胞には、次の二つの重要な働きがあります。
- 1.空気中の酸素を取り込み、毛細血管を通じて全身の細胞に運ぶ。
- 2.毛細血管から運ばれてきた二酸化炭素を肺へ送り、呼気とともに体の外に排出する。
こうした呼吸による酸素と二酸化炭素の交換を「ガス交換」と言います。生命を維持するうえで必要不可欠な働きです。
肺炎とは、ウイルスや細菌による感染などの原因によって、気管支や肺胞に炎症が生じる病気です。咳や発熱、痰が出るなど風邪とよく似た症状が多いため、初期のうちは肺炎とは気付かず放置してしまう例も少なくありません。しかし、進行すると肺胞でのガス交換の働きが妨げられて呼吸困難に陥るなど、命に関わる場合もあるので注意が必要です。
肺炎球菌やインフルエンザによる
肺炎はワクチンで予防が可能
肺炎は、細菌が原因の「細菌性肺炎」、ウイルスが原因の「ウイルス性肺炎」、微生物が原因の「非定型肺炎」と、感染した病原体の種類によって大きく三つに分けられ、次のような違いがあります。
※インフルエンザの病原体ではない
細菌性肺炎や、マイコプラズマなどの非定型肺炎の主な治療法は、抗菌薬になります。適した薬は病原体の種類によって異なります。肺炎の疑いがある場合は速やかに呼吸器内科などを受診して検査を行い、原因となっている病原体を突き止めることが必要です。
症状によっては「新型コロナウイルス感染症では」と不安になる人も多いかもしれませんが、熱が出ている場合は、まず発熱外来を受診しましょう。
痰を伴う咳が出る場合は細菌性肺炎の可能性が高いですが、乾いた咳が続き、さらに息苦しさを伴うような場合には、かかりつけ医などに相談してください。
また、肺炎は日常生活の中で感染して発症する「市中肺炎」と、何らかの病気で入院し48時間以上経過した後に発症する「院内肺炎」に分けられます。
このうち、私たちにとってより身近な市中肺炎は、早期発見・早期治療で完治が見込めるだけでなく、自分自身で予防することが可能です。
細菌性肺炎の中でも特に一般の人がかかりやすく、重症化のリスクも高い肺炎球菌による肺炎は、肺炎球菌ワクチンを接種することで予防できます。
ウイルス性肺炎の中でもとりわけ感染力の強いインフルエンザウイルスについては毎年予防接種を受けている人も多いと思いますが、抗体ができるまでに2週間程度かかるので、流行し始める前にインフルエンザワクチンを接種することが大切です。
高齢者や妊婦、乳幼児、基礎疾患のある人などを対象としたインフルエンザワクチンの助成制度を設けている自治体も増えているので、該当する人はチェックしてみるのもお勧めです。
もちろん、日常的な手洗いや手指の消毒、うがい、マスク着用といった感染対策は欠かせません。しっかり継続しましょう。
身近に起こる肺胞性肺炎
間質性肺炎や誤嚥性肺炎にも注意
肺炎には、感染した肺の組織によって分類する方法もあります。一つは「肺胞性肺炎」、もう一つが「間質性肺炎」です。
一般的に肺炎と呼ばれるのは、肺胞の中に炎症が起こる肺胞性肺炎です。
一方、間質(肺胞と肺胞の間)に炎症が起こる間質性肺炎は、肺胞のまわりの壁が厚く硬くなる「線維化」と呼ばれる状態になり、酸素と二酸化炭素のガス交換がスムーズにできなくなっていきます。呼吸困難など重症化しやすいのが特徴です。
間質性肺炎の治療は原因によって異なりますが、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制剤などが多く用いられています。
ちなみに、新型コロナウイルス肺炎は、間質性肺炎の特徴を示すということが報告されています。
この他、肺炎の種類としては、特に高齢者などに注意が必要な「
通常、口から食べたり飲んだりしたものは食道を通って胃へと運ばれます。気管の入り口にある喉頭には
ところが、加齢とともに咽頭蓋の力が緩んでくると、蓋が後方にずれたり、飲み込みと蓋の開け閉めのタイミングが合わなくなったりして、食べたものが誤って気管に入ってしまうということが起こります。
それでも反射機能が正常に働いていれば、むせることで気管の外に排出することができますが、高齢になるとこの機能も低下します。結果、気管から肺へと食べ物が入り込み、炎症を起こすのが誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎は、食事中だけでなく、寝ている間に唾液を誤嚥することも大きな原因の一つです。口内で肺炎の原因となる雑菌が繁殖しないよう、就寝前は入念な歯磨きとうがいを行いましょう。
鼻から吐いて鼻から吸う
呼吸法で肺機能をアップ
肺炎の予防には、前述したように適切なワクチン接種や、手洗い、うがい、マスク着用などの日常生活の中での感染対策が必須です。
さらに、ぜひ日常的に意識してほしいのが「鼻呼吸」です。
鼻には空気中の有害物質が体内に入り込まないよう、シャットアウトするさまざまな働きがあります。例えば、鼻の入り口付近に生えている鼻毛は、空気中に漂うごく小さなホコリやゴミなどをキャッチするフィルターの役目を担っています。鼻の奥にある粘膜細胞に生えている繊毛は、ウイルスや細菌、花粉などの有害物質をキャッチします。これらの物質を鼻粘膜から分泌される鼻水がからめとり、体の外へと排出します。
ところが、鼻ではなく口で呼吸をすることが中心になっていると、こうした有害物質がダイレクトに口から体内へと侵入することになりかねません。口呼吸は感染症やアレルギー疾患のリスクを招く可能性が高いと言えるでしょう。
長時間パソコン作業などを行っていると、つい前かがみの姿勢になり、呼吸も浅くなりがちです。仕事中も30分に1回くらい、椅子に座り、リラックスした状態で次の呼吸法を3~4回繰り返してみましょう。
- 1.7~8秒かけて鼻からゆっくり息を吐く。吐き終わったところで、更に鼻から吐いて、全て吐き切る。
- 2.ゆっくり5秒くらいかけて鼻から息を吸う。
仕事の合間だけでなく、信号やエレベーターを待っているときなどちょっとしたすき間時間を利用して行うと良いでしょう。
この呼吸法を毎日続けることで、横隔膜を中心とする呼吸筋が鍛えられ、肺機能が強化されていきます。
肺機能がしっかりしていれば、万が一肺炎や新型コロナウイルス感染症を発症した場合などでも重症化しにくいと言われ、スムーズに治療を行えるようになるなど、多くのメリットが期待できます。
呼吸器外科医。医学博士。国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授。東京医科大学卒業後、同大学病院勤務を経て現職。肺がん治療を専門に行う傍ら、呼吸法や呼吸筋ストレッチの指導も熱心に行う。わかりやすい解説でテレビやラジオなどのメディアでも活躍。『医者が教える 肺年齢が若返る呼吸術』(学研プラス)など著書多数。