知っておきたい病気・医療
2018.05.11

お酒好きじゃなくてもかかる
脂肪肝は病気の入り口!

~肝硬変だけではなく、心臓病などの原因にも~
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国内の脂肪肝の患者数は約3,000万人(参照:診療ガイドライン2014)と推計されています。「沈黙の臓器」といわれる肝臓の異常は、症状にはなかなか表れないため、「自分には関係ない」と楽観視している人も多いかもしれません。しかし、脂肪肝を放置すると、肝機能が低下して肝炎から肝硬変、さらに肝がんに至る可能性があります。それだけではなく、脂肪肝は他の生活習慣病とも深い関わりがあり、さまざまな病気の原因になることもわかってきました。栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅先生に脂肪肝の原因と改善法を伺いました。

肝臓は「沈黙の臓器」
放置すると危険

肝臓は、肋骨の下、みぞおちより少し右上に位置し、重さ1.2〜1.5kgもある大きな臓器です。体内の血液の約4分の1が集まっており、血液の成分を酵素によって変化させ、必要な物質を作り出すなど、大切な働きをしています。

■肝臓の主な働き
  • 1. 代謝
    食べた物の栄養分を分解・再合成して貯蔵。必要に応じて分解し全身の細胞に送り出す。
  • 2. 胆汁の生成
    脂質やビタミンの消化を助ける消化液「胆汁」を生成。胆汁は血液中の老廃物を排出する。
  • 3. 解毒
    アルコールや体内で発生した有害物質を分解して無毒化する。

生命維持に欠かせない重要な役割を担っている肝臓は、少々のことでは機能低下が起こらないよう、予備能力を備えています。例えば、手術などで一部を切除しても2〜3ヵ月でほぼ元の大きさまで再生します。
また、幹細胞の一部が壊れても痛みのような自覚症状が出ないため「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
しかし、症状がないからといって、血液検査で肝臓関連の数値が悪いのに「まだ大丈夫」と放置をしていると、やがて正常な細胞が減って、慢性肝炎から肝硬変、肝がんへと至る可能性があります。さらに、糖尿病や脂質異常症など生活習慣病とも深い関わりがあり、心臓病や脳卒中を発症して命に関わる事態を招くリスクもあります。「沈黙」しているからこそ、注意する必要があるのです。

お酒を飲まなくても
脂肪肝になる

では、肝臓の病気はどのように起こるのでしょうか。

私たちが口にしたものは、食べ物もアルコールもすべて肝臓で代謝され、中性脂肪に変わり、貯蔵されます。健康な肝臓には中性脂肪が3〜5%蓄えられていますが、余分な中性脂肪がたまりすぎ、30%以上になると、フォアグラのように黄色く腫れ上がった状態になります。これが「脂肪肝」です。

脂肪肝の原因には、飲酒が関係している「アルコール性脂肪肝」(1日のアルコール摂取量が男性30g、女性20g以上)と、「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」に分けられ(図1)、お酒を飲まなくても脂肪がたまる場合も少なくありません。アルコール量20gは、ビール中瓶1本、または中ジョッキ1杯、日本酒で1合、ワインでグラス2杯が目安となります。
肝臓に中性脂肪がたまると、血流が悪くなって肝機能が低下し、進行すると肝細胞が炎症を起こして慢性肝炎となります。これも「アルコール性脂肪肝炎」と「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分けられます。

■図1 脂肪性疾患の分類

NAFLD:Nonalcoholic fatty liver disease 非アルコール性脂肪性肝疾患
NAFL:Nonalcoholic fatty liver 非アルコール性脂肪肝
NASH:Nonalcoholic steatohepatitis 非アルコール性脂肪肝炎

NAFLのうち8〜9割は脂肪肝のままでほとんど病気は進行しませんが、1〜2割はNASHに進み、さらにそのうち5〜20%は肝細胞の壊死えしや線維化(線維が増加して、肝臓が硬く変化する)が起こって肝硬変となり、肝がんを発症するリスクが高くなります(図2)。近年、このNASHが注目されており、NASHに進行する割合は男性より女性の方が多いこともわかっています。

■図2 脂肪肝(NAFL)以降の経過

お酒を飲まなくても脂肪肝になる主な原因は、食べ過ぎや筋肉量の低下です。脂っこい食べ物の脂質がそのまま脂肪になるのではなく、最大の原因は糖質です。1日に摂取する糖質の目安は、男性で250g、女性で200gと言われています。総カロリーに対して、ご飯や麺類、菓子や果物などに含まれる糖質を大量に摂ると、血糖値が急上昇してインスリンというホルモンが分泌され、このインスリンがエネルギーに変換しなかった余分な糖分を脂肪に変えてしまうのです。

脂肪肝はメタボリックシンドロームなど他の生活習慣病とも関連が深いことがわかっています。肝臓に脂肪がたまるということは、皮下脂肪や内臓脂肪もたまっていると考えられ、脂肪肝は「メタボリックシンドローム→動脈硬化→心臓病や脳卒中」という悪しきプロセスの出発点とも捉えられます。脂肪肝というと“お酒を好む男性の病気”と思う人もいるかもしれませんが、女性の脂肪肝も増えています。もともと男性より筋肉量が少なく、脂肪をエネルギーに変える力が弱いためです。男女を問わず、肝臓に気を配り、脂肪肝の段階で食い止めることが大切です。

肝臓の異変に
早く気付くことが大切

自分の肝臓の状態を知るには、血液検査の数値をチェックします。以下の3つが肝機能の指標です。ALT(GPT)がAST(GOT)よりも高い場合には糖質の摂りすぎによる脂肪肝が、AST がALTよりも高い場合にはアルコールによる脂肪肝が疑われます。

■表1 肝機能の検査項目と基準値

※基準値は施設により異なる

日頃の生活習慣からも、脂肪肝のリスクは予測できます。下の10項目のうち、当てはまるものをチェックしてみましょう。

■脂肪肝セルフチェック
  • 朝食を抜く日が多い
  • つい間食をしてしまう
  • 食べるスピードが早い
  • 夕食後によく何か食べる
  • 麺類や丼ものなどの一品ものを週3回程度食べる
  • アルコールをあまり飲まない
  • 果物をよく食べる
  • 満腹感があっても、食べ物を残すことができない
  • 階段よりもエスカレーターやエレベーター、徒歩よりも車を使うことが多い
  • ここ数年で体重が5kg以上増えた

0〜2個
心配なし。

3〜4個
脂肪肝の可能性あり。

5〜6個
脂肪肝が進んでいる恐れあり。

7個以上
脂肪肝が深刻に進んでいる恐れあり。すぐに生活改善に取り組みましょう。

脂肪肝を改善する食生活
“糖質ちょいオフ”を心がける

脂肪肝の段階なら、生活習慣を見直すことで改善が可能です。食事と運動の両方で、無理なくやせることを目指しましょう。食生活のポイントは次の通りです。

  • 1. カロリーより糖質に注目
    カロリー(熱量)の高い食品の栄養素がそのまま体内に吸収されるわけではなく、食品によって吸収率は異なります。脂肪の原因になっているのは主に糖質ですから、脂肪をつけないようにするには、カロリーより糖質を減らすことに注目しましょう。
  • 2. 糖質を10%減らす“糖質ちょいオフ”
    ご飯、パン、麺などの糖質を約10%(1日に茶碗1杯程度)、少しずつ減らすことをおすすめします。また、果物に含まれる果糖は吸収が早く脂肪に変わりやすいため、食事代わりに摂ったり一度に大量に食べたりするのは避け、間食や食後に少量を楽しみましょう。
  • 3. “ダイエット脂肪肝”に要注意
    脂肪肝の原因の多くは糖質の摂りすぎとはいえ、糖質を制限しすぎても脂肪肝のリスクが高まるので注意が必要です。極端な糖質制限で肝臓が働くのに必要な中性脂肪まで不足すると、危機的状況を補おうと体中から脂肪を集めて肝臓に送り込むからです。そのため、手足はやせてもおなかだけポッコリしているという状態になります。1ヵ月に3kg以上の減量は禁物です。
  • 4. 肉類をしっかり食べる
    ダイエットのために野菜中心の食事にすると、糖質とともにたんぱく質も減らしてしまうことがあります。たんぱく質は筋肉を作る材料になり、筋肉が増えれば基礎代謝も上がります。脂っこい肉料理が脂肪肝になりやすいわけではありませんので、肉類もしっかり食べましょう。
  • 5. お酒は適量を飲み、つまみに注意
    飲みすぎは肝臓に悪影響をおよぼしますが、適量の飲酒はむしろ脂肪肝の予防になることもあるようです。適量を飲酒する人の方がまったく飲まない人よりも肝臓の数値が改善したという研究報告もあります。適量には個人差もありますが、女性の場合、日本酒で1合、ワインでグラス2杯程度までが目安になります。ただし、つまみで糖質を摂りすぎないように気をつけましょう。
  • 6. チョコレートを食べる
    カカオ含有量70%以上の糖質が少ないタイプのチョコレートは、糖質の吸収を抑える食物繊維が多く、抗酸化力のあるポリフェノールを赤ワインの4倍も含みます。食前と食間に3ヵ月間食べ続けたところ、肝機能が改善したという研究データもあります。

脂肪肝を改善する運動で
筋肉量を維持・増加させる

脂肪を燃焼させるためにはウオーキングなどの有酸素運動が有効だと知られていますが、実は筋肉量を増やすレジスタンス運動(筋力トレーニング)も重要です。筋肉量は加齢によって年々減っていくうえ、ダイエットで体重を落とすと、脂肪とともに筋肉量も減ってしまいます。筋肉量が減ると、基礎代謝が低下してエネルギー代謝が悪くなり、糖質の摂取量を減らしても肝臓に脂肪がたまりやすくなってしまいます。筋肉量を維持・増加させる運動が大切です。

また、肝臓に脂肪がたまるように、筋肉にも脂肪がたまります。いわば“脂肪筋”です。脂肪肝をフォアグラに例えるなら、脂肪筋は霜降り肉のようなものです。脂肪筋ではインスリンが十分に働かないので、代謝が落ちて脂肪燃焼がうまくいきません。レジスタンス運動で筋肉に負荷をかけることで、脂肪の分解・燃焼を促進します。ゆっくり行う「スロースクワット」や体幹を鍛える「ドローイン」などがおすすめです。

ドローインのやり方

息を大きく吸いながらおなかをへこませ、15秒キープ。
息を吐きながらゆっくり元に戻す。
おなかをへこませているときは、息を止めなくてよい。

生活改善で大切なのは急にがんばることではなく、日常のこととして「長続きさせること」です。毎日無理なくできる習慣を、楽しみながら前向きに続けていくことで健康を維持しましょう。

栗原 毅 栗原クリニック東京・日本橋 院長
前 慶應義塾大学特任教授

1978年、北里大学医学部卒業。東京女子医科大学消化器病センター内科、同大学青山病院成人医学センター助教授、中国中医研究院客員教授、東京女子医科大学教授、同大学特定関連診療所・戸塚ロイヤルクリニック所長を経て、2008年に現クリニックを開院。脂肪肝などの消化器疾患の治療やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防・改善に力を注ぐ。「血液サラサラ」の提唱者の一人でもある。『脂肪肝はちょっとしたコツでラクラク解消する 1日25gのチョコが効く!』(河出書房新社)、『糖尿病の食事はここだけ変えれば簡単にヘモグロビンA1cが下がる』(主婦の友社)ほか著書多数。

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