健康マメ知識
2025.02.14

視力が良くても「アイフレイル」にご用心

~生涯にわたり健康な目を保つために~
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「以前より何となく見えにくい時があるけれど、日常生活に支障がないから大丈夫」このように考えて、気になる目の症状を放置していませんか? 「目が疲れやすい」「夕方になると見えにくくなる」などの症状があるなら、「アイフレイル」かもしれません。アイフレイルとは何か、どんなリスクがあるのかなど、アイフレイルの啓発活動を推進する京都大学大学院医学研究科眼科学教授の辻川明孝先生に伺いました。

目の健康状態をセルフチェック

現在の目の状態を把握するために、以下のリストについて、思い当たる項目をチェックしてみましょう。

  • 目が疲れやすくなった
  • 夕方になると見えにくくなることが増えた
  • 新聞や本を長時間見ることが少なくなった
  • (手元の料理がよく見えなくて)食事の時にテーブルを汚すことがたまにある
  • 眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった
  • (車のヘッドライトや日光などが)まぶしく感じやすくなった
  • はっきり見えない時にまばたきをすることが増えた
  • まっすぐの線が波打って見えることがある
  • 段差や階段で、転びそうになり危ないと感じたことがある
  • 信号や道路標識を見落としそうになったことがある

チェックの数が

  • 0個
    あなたの目は今のところ健康です。変化を感じたら、再度チェックしてください。
  • 1個
    目の健康に懸念はありますが、直ちに問題があるわけではありません。
  • 2個以上
    アイフレイルの可能性があります。一度、眼科専門医に相談しましょう。

出典:日本眼科啓発会議「アイフレイルチェックリスト Ver.1.1(2023年11月改訂)」

2個以上の項目をチェックした人に可能性がある「アイフレイル」とはどのようなものか、見ていきましょう。

アイフレイルは、目の不調が気になる状態

加齢によって心身の機能が低下し、健康な状態と要介護状態の間にある状態を「フレイル」といいます。フレイルは「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」の大きく3つに分けられます。加齢に伴う目の機能低下は、広い意味で身体的フレイルに含まれます。

現在、身体的フレイルは主に筋力低下(サルコペニア)や運動器機能の低下(ロコモティブシンドローム)などを指す言葉として使われています。

そこで目に特化した概念として、2021年に日本眼科啓発会議(日本眼科学会、日本眼科医会、日本眼科医療機器協会、日本コンタクトレンズ協会、日本眼科用剤協会)が提唱したのが「アイフレイル」です。

アイフレイルとは特定の目の病気を指すものではなく、冒頭のチェックリストのように目の不調がある状態を指します。

しかし、「病気ではないから」と放っておくのはよくありません。チェックリストで示した目の状態や症状には、以下のような目の病気や異常が隠れている可能性があるからです。

なお、これはあくまでもセルフチェックであり、すべての目の病気や異常を診断するものではありません。一つの目安として参考にしましょう。

チェックリスト項目に隠れている可能性のある目の病気や異常 資料提供/辻川先生

以前に比べて小さな文字が読みにくくなってきたのは年齢のせいだから仕方がない、と思っている人は少なくないかもしれません。
しかし、少しの異常でもそのまま放置していれば、眼鏡やコンタクトレンズをつけても物が見えにくい、文字の読み書きが困難になる、色や形の識別ができない、一部見えない場所があるなど、視機能に障害が生じる恐れがあります。

こうした視機能障害を予防するためには、アイフレイルを早期に発見し、適切な治療や対処をすることが重要です。

■アイフレイルの段階での治療や対処が重要 アイフレイルの段階での治療や対処が重要 参考資料:日本眼科啓発会議「40歳以上の人のためのアイフレイルガイド」

健康な目とアイフレイルの間に位置する「プレアイフレイル」は、アイフレイルの自覚症状はまだ出ていないものの、視機能が低下し始めている状態を指します。高血糖や高血圧、喫煙、紫外線などを避けることで、アイフレイルに至るリスクは低下します。アイフレイルは、プレアイフレイルよりもさらに進行している状態を指します。加齢や生活習慣、ストレスによって進行は変わります。さらに進行すると、緑内障や白内障とった視機能障害になります。

アイフレイルの早期発見には眼科の受診が必須

身体的フレイル、精神・心理的フレイル、社会的フレイルに共通する大きな特徴の一つに、生活習慣を見直すことで健康な状態に戻せる「可逆性」があり、フレイル対策として、十分な栄養摂取や身体活動(運動)、積極的な社会参加などが推奨されています。

一方、アイフレイルの場合は、生活習慣の見直しで戻せる可能性は低く、光がまぶしくなる原因には白内障、手元が見えにくくなる原因には老視(老眼)、物がゆがんで見える原因には加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)など、さまざまな原因が考えられます。

冒頭のチェックリストで、2個以上該当した人に「一度、眼科専門医に相談しましょう」とアドバイスしているのは、症状の原因は自分では判断できないためです。

身体的、精神・心理的、社会的という3つのフレイルと異なり、アイフレイルは眼科医による診断と、その結果に基づく治療や対処が欠かせません。また、診断を受けるのが早ければ早いほど、視機能障害を防ぐ効果も高いと考えられます。

見ることが不自由または不可能になる視機能障害は70歳以降など高齢になるほど発症率が高く、その原因となる目の病気は40~50代から徐々に進行している場合が多くあります。

視機能障害の原因として最も多い病気は緑内障(40.7%)で、この他、糖尿病網膜症(10.2%)、加齢黄斑変性(9.1%)、白内障(1.8%)などが多くを占めていました。いずれも早期発見・早期治療で進行を遅らせたり、悪化を防いだりすることが可能な病気です※1

※1 Morizane Y, et at. Jpn J Ophthalmol. 2023 ;67:346-352.

緑内障は40歳以上の約5%(20人に1人)が患っているという報告※2もあります。また、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。

緑内障だけでなく、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など目の病気の多くが初期は無症状であることを知っておきましょう。早期発見には眼底検査をはじめとする眼科検診が大切です。

人間ドックや企業の定期健診などで眼底検査を受けられる場合もありますが、そうした機会がない人はぜひ冒頭のセルフチェックリストを活用しましょう。「こんな症状が気になっています」と眼科専門医に相談することで、必要な検査や治療につなげることができます。

※2 「日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(通称:多治見スタディ)」
https://www.ryokunaisho.jp/general/ekigaku/tajimi.php

アイフレイルの診療・研究・啓発活動を行っている眼科医は、以下のウェブサイトに掲載されています。

■日本眼科啓発会議 アイフレイル啓発公式サイト
アイフレイルアドバイスドクター
https://www.eye-frail.jp/advice-doctor-list/

また、眼科専門医は以下のウェブサイトで検索できます。

■日本眼科学会
眼科専門医を探す
https://member.nichigan.or.jp/josWebMember/html/senmoni_search_index.html

アイフレイルは他のフレイルにも影響

アイフレイルが進行し、高度な視機能障害になると、自動車の運転ができない、食事や服薬に支障を来たす、一人で外出するのが難しいなど、さまざまな問題が起こりやすくなります。身体活動が減少し、社会とのつながりも希薄になると、身体的、精神・心理的、社会的といった他のフレイルにも影響します。

人生100年時代に、生涯にわたって良好な視機能を保ち、健康寿命を延ばすためにも、アイフレイルの早期発見が大切です。

日本眼科啓発会議では「40歳を過ぎたら、点検という感謝を!」というスローガンを掲げています。一般的に40代は多くの人が老眼に気付くなど、目の機能が低下し始める年代です。日頃から自分の目を大切にすると同時に、「何かおかしい」と感じたら早めに眼科医に相談して検査を受けることを習慣にしていきましょう。

辻川 明孝 京都大学大学院医学研究科眼科学教授

1993年、京都大学医学部卒業。Children’s Hospital Boston留学、神戸市立中央市民病院眼科副医長、京都大学医学部附属病院眼科助手、京都大学大学院医学研究科眼科学講師、香川大学医学部自然生命科学系眼科教授などを経て、2017年より現職。博士(医学)。日本眼科学会専門医・専門研修指導医、眼科PDT認定医、臨床研修指導医。

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