健康ライフ
2024.12.13

低用量ピルは月経時の強い味方

~正しい知識で「なんとなく不安」を解消~
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低用量ピルは月経時の強い味方

近年、月経痛や月経前症候群(PMS)など女性特有の症状が仕事など日常生活に与える影響が広く注目されています。女性の健康課題の支援策の一つとして、低用量ピルの費用を企業が一部補助する動きも出てきました。月経に伴うつらい症状の改善効果に低用量ピルが有効であることの認知度も高まっていますが、副作用について不安を感じる女性も多くいます。そこで、低用量ピルの正しい知識について、THIRD CLINIC GINZA 院長の三輪綾子先生に伺いました。

月経に伴う悩みや不調は増えている

江戸時代の女性の生涯における月経の回数は約50回以下。対して、現代女性の月経回数は約450回。昔に比べて約9倍も月経の回数が多くなっているというデータ※があります。

昔の女性は現代女性に比べて結婚や妊娠・出産の時期が早く、出産回数も多かったので、出産後は授乳期間のため無月経になり、再び月経が始まるとまた妊娠・出産をくり返すケースが多くみられました。そのため、月経の回数が少なかったと考えられています。

一方、現代女性は栄養状態が良くなったことなどから初経を迎える年齢が早くなり、またライフスタイルの変化によって妊娠・出産の回数が減少傾向にあります。それに伴い月経の回数も多くなり、月経にまつわる不調や病気に悩む女性が増えてきました。

月経による不調は一般的に「月経随伴症状」と呼ばれ、次のような症状が現れます。

月経随伴症状

このうち、月経開始の3~10日くらい前から生じる症状を「月経前症候群(PMS)」、月経時に日常生活に支障をきたすほどの月経痛や、その他の身体・精神・社会的症状を伴う状態を「月経困難症」といいます。

月経時は多くの女性が痛みや不調を感じますが、その症状には個人差があり、人と比較して「自分の症状は軽いか、重いか」といった判断がつきにくいものです。
次のような場合にはぜひ婦人科を受診しましょう。

  • 月経痛がつらくていつも通りの生活を送れない
  • 痛み止めを飲んでも月経痛が治まらない
  • 毎月少しずつ痛みが強くなってきている

月経困難症には、子宮やその周囲には異常がないのに起こるなど原因が分からない「機能性月経困難症」と、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が原因で起こる「器質性月経困難症」があります。
「ただの月経痛」と自分では思っていても、病気が隠れている可能性もあるので受診は大切です。

※Short RV;Proc. R. Soc. Lond. B. Biol. Sci.: 195, 3-24, 1976

月経困難症には保険適用の低用量ピル

医師が月経困難症もしくは子宮内膜症と診断した場合は、治療薬として低用量ピルが処方されます。高用量ピルは乳がんなどの副作用のリスクが高いとされており、現在は中用量ピルや低用量ピル、超低用量ピルが多く用いられ、その中でも最近は超低用量ピルがメインで使われています。
ピルと聞くと避妊をイメージするかもしれませんが、ピルを使う目的はそれだけではありません。避妊目的で服用する低用量ピルは「OC(Oral contraceptive:経口避妊薬)」といい、保険適用ではありません。一方で、月経困難症などの治療に用いる場合は保険適用になり、月経痛の改善や月経量の改善などの効果が期待できます。

保険適用の治療薬である低用量ピルは「LEP(Low dose Estrogen-Progestin:低用量エストロゲン―プロゲスチン)」といい、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)がそれぞれ配合されています。

月経周期は、月経期→卵胞期→排卵期→月経前というサイクルでくり返されており、排卵前にはエストロゲンの分泌量が、排卵後にはプロゲステロンの分泌量がそれぞれ増加します。

ホルモンの分泌をコントロールするのは脳の視床下部ですが、低用量ピルを服用すると脳は「ホルモンが分泌されている状態だから、ホルモン放出の指令を出す必要がない」と判断するため、排卵が起こらなくなります。

すると妊娠の準備のために子宮内膜が厚くなることもなく、また不要になった子宮内膜を排出する必要もなくなります。そのため、内膜がはがれる時の子宮収縮による痛みや出血が起こらなくなるのです。

また、エストロゲンやプロゲステロンの変動によるさまざまな精神症状や社会的症状(イライラや人に会いたくないといった症状)も起こりにくくなります。

なお、ピルはエストロゲン薬(エチニルエストラジオール)の配合量により、高用量、中用量、低用量、超低用量と分類されます。

■ピルの種類とエチニルエストラジオールの配合量 ピルの種類とエチニルエストラジオールの配合量

低用量ピルの飲み方や注意点

低用量ピルは錠剤の飲み薬で、1日1錠、決まった時間に服用します。月経初日から5日目までに飲み始めて、例えば21日間毎日続け、その後7日間休薬するタイプがあります。服用を始めたら注意したいのが「飲み忘れ」です。

毎日朝起きたら飲む、就寝前に飲むなど自分にとって忘れにくいルールを決めて、枕元に低用量ピルを用意しておいたりすると、飲み忘れ防止につながります。1日飲み忘れた場合は翌日に2錠服用してリカバリーすることが可能です。3日以上飲み忘れたら、次の月経初日からまた仕切り直すことになります。

低用量ピルを服用すると、月経痛の改善や経血量の減少だけでなく、月経の開始日が分かるというメリットもあります。大事な用事や旅行などの予定が立てやすくなるなど、生活がスムーズになります。また、保険適用の場合は1カ月600~1800円前後と、比較的安価なのも利点といえるでしょう。

一方で、服用を始めたばかりの頃は、気持ち悪さや胃のむかつき、頭痛、胸が張る、不正出血といった副作用が起こることがあります。多くの場合、服用を続けるうちにこうした症状は軽減していきますが、どうしても不快感が続く時は医師に相談しましょう。低用量ピルにもいくつかの種類があり、別の薬に変更する方法もあります。

もう一つの副作用として、血液中に血栓ができる「血栓症」があります。
他にもいくつかありますが、以下に該当する場合は特に注意が必要です。

  • タバコを吸っている
  • 肥満
  • 高血圧
  • 脳梗塞や乳がんの既往がある

低用量ピルによる治療の対象年齢は初経を迎えた10代から閉経するまでで、年齢としては50歳くらいまで服用可能です。

昨今はオンライン診療で低用量ピルを処方するクリニックも増えています。いずれにしても、月経痛の状態や、現在服用している薬との飲み合わせなど、診療の際には気になることを確認するのがおすすめです。その人の症状に応じて、漢方薬や鎮痛剤など低用量ピル以外に適した治療法を提案される場合もあります。なお、初診時は直接病院を受診し、病気の有無などをしっかり検査して調べることもいいでしょう。

がまんしないで主体的に改善を

副作用などの不安から、低用量ピルの服用をためらう女性はまだ多いかもしれません。日本では長い間、「月経痛や月経に伴うつらさはがまんするもの」と考えられてきましたが、今は研究開発が進み対処法があるので、低用量ピルを服用して生活を快適に過ごすことができます。低用量ピルは、月経前や月経時のつらい症状を解決するための手段の一つです。主体的に自分に合った治療法を見つけ、快適に過ごせるように心がけましょう。

三輪 綾子 THIRD CLINIC GINZA 院長

日本産婦人科学会 産婦人科専門医。2010年札幌医科大学卒業後、順天堂大学産婦人科学講座入局。一般社団法人予防医療普及協会理事としてさまざまなメディアを通じて子宮けいがんや女性のヘルスケアの啓発を行う。株式会社GENOVA社外取締役。2021年よりDMMオンラインサロン「フェムテックサロン」運営。22年6月に堀江貴文氏と共著「女性のヘルスケアを変えれば日本の経済が変わる」(青志社)を出版。

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