健康ライフ
2024.11.08

漠然とした不安でもメンタル不調は放置しない

~ライフステージの課題に向き合い対処を~
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更年期かなと思ったら、早めに不安を解消するのがカギ!

リモートワークなどで人とのコミュニケーションが変化し、強い孤独を感じたり、抑うつ状態に陥ったりするなど、メンタルに不調を来す人が増加していると言われています。原因はさまざまで、環境や世代によっても異なります。ストレスの多い現代社会でメンタルヘルスを健やかに保つ方法を、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介さんに伺いました。

「こころの病気」の種類と原因

なんとなく気分が晴れない、なかなかやる気が起きない……。こうしたメンタルの不調は少なからず経験したことがあるのではないでしょうか。一時的なものであれば気にする必要はありませんが、数週間、数カ月と長引く場合は「こころの病気」が疑われます。

一般的に「こころの病気」と言われる精神障害(精神疾患)には、次のような病気があります。

  • うつ病
    日本人の約15人に1人が発症する身近な病気。精神の安定や意欲に関わる脳内の神経伝達物質「セロトニン」「ノルアドレナリン」の分泌量が減少し、無気力で憂うつな状態を引き起こす。
  • 双極性障害
    無気力で憂うつな「うつ状態」と、気分が高揚し過ぎて感情や行動をコントロールできなくなる「躁状態」をくり返す。
  • 不安障害
    精神的な不安から、心身共にさまざまな症状が現れる。突然理由もなく激しい不安に襲われて動悸(どうき)やめまい、呼吸困難などを起こす「パニック障害」、人との会話や、人が多くいる場所に強い苦痛を感じる「社会不安障害(社会恐怖)」、つまらないことだと分かっていてもある行為をやめられず、同じことをくり返してしまう「強迫性障害」、生活上のさまざまなことに対して極度に不安や心配になる状態が半年以上続く「全般性不安障害」などがある。
  • 統合失調症
    100人に1人の割合で発症する病気。幻覚や妄想、考えの混乱といった「陽性症状」と、意欲がなくなったり、感情が表に出にくくなったりする「陰性症状」がある。
  • 依存症
    アルコール、薬物、ギャンブルなど、特定の物質や行為・過程に対して、やめたくてもやめられなくなった結果、心身に障害が生じたり、家庭や社会生活に悪影響を及ぼしたりする。

参考:厚生労働省「障害者差別解消法福祉事業者向けガイドライン」、厚生労働省「こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~」

また、拒絶されたり、見捨てられたりする可能性に恐れを抱き、怒りや自傷などの衝動的な行動を起こしやすい「境界性パーソナリティー障害」、トラウマ(心的外傷)になる圧倒的な出来事を経験した後に、日常生活に支障を来すほどの不快な反応が起こる「心的外傷後ストレス障害:PTSD」、特定できるストレスの原因によって著しい苦痛を伴い、抑うつや不安などの症状が起こる「適応障害」なども代表的な精神障害として挙げられます。

いずれも「こころの病気」が疑われますが、こころイコール脳という表現が分かりやすいかもしれません。その理由の一つとして、脳は大脳にある記憶をつかさどる海馬の働きにより、感情や記憶などの精神機能に関係していると言われています。つまり、「こころの病気」は「脳の病気」と言い換えても良いでしょう。

先天的な脳機能の障害である「発達障害(自閉症スペクトラム障害:ASD、注意欠如・多動性障害:ADHDが代表的)」などを除き、多くの精神障害は何らかの問題によってストレスを抱え、メンタル不調が続いた結果、脳機能に障害が起きて発症すると考えられます。

ライフステージごとの課題を知る

メンタル不調の引き金となるのはストレスですが、その原因となる「問題」は極めて個人的なものであり、人の数だけあると言えます。一方で、ぜひ知っておきたいのが、人にはライフステージごとの課題があり、それに伴うストレスもあることです。メンタルを健やかな状態に保ち続けるためには、課題を自分自身で解決するための準備が大切です。

年代ごとの主な課題や心身の変化などを見てみましょう。

  • 10~20代
    「競争・自立」が課題。脳がまだ完全に成長していない時期でもあるので、自分の中の衝動性を抑えるのが苦手な人も多い。そのコントロールも重要。
    初経以降の女性は月経前にさまざまな不快な症状が起こる「月経前不快気分障害:PMDD」「月経前症候群:PMS」のリスクもある。
  • 30~40代
    結婚や子育て、住宅購入などライフイベントの変化が多く、仕事でも自分の立場を確立し、後輩を育てていく時期。家庭や職場での役割や責任を果たすことが課題。
    出産後の女性は、産後うつ病を発症する場合がある。
  • 50~60代
    自分の健康や親の介護問題が課題になる時期。社会的な役割も変化し、自分の在り方や生き方の見直しを迫られることもある。
    また、女性は更年期障害によるメンタル不調も生じやすい。
  • 70代以降
    加齢に伴う心身の機能低下により、さまざまな健康課題が生じてくる。

これらの課題をうまく解決できないとストレスがたまり、うつ状態に陥ったり、あるいはアルコールなどに逃げて依存症になったりするリスクがあります。
「一つの問題が次なる問題を生む」という事態を招かないためにも、「今、どんな問題があるのか」を自分でしっかり理解することが必要です。

マインドフルネスで自分に向き合う

自分が解決すべき課題や問題を理解し、メンタル不調の予防につなげるためには、今の自分自身の状況をきちんと把握する必要があります。
そこで有効といわれているのが「マインドフルネス」です。

■マインドフルネスの方法
  • STEP1
    座禅を組み、目を閉じる
  • STEP2
    ゆっくり鼻から息を吸い、ゆっくり鼻から息を吐くのをくり返し、呼吸に集中する
  • STEP3
    例えば、仕事の失敗やキャリア形成のことを考えたり職場やプライベートの人間関係で悩んだりするなど、ほかの考え事が浮かんできたことに気が付いたら、またSTEP2に戻り、呼吸に集中する
マインドフルネスの方法

脳は完全に“無”になることはできないので、どうしてもさまざまな考え事が浮かんできます。大事なのは、雑念が浮かんでいると気付いたら、また元に戻って目を閉じ、呼吸に集中することです。

マインドフルネスが5分以上できるなら、毎日の日課の一つにして、自分と向き合う時間をつくると良いでしょう。30分以上できるようになると、自分が今どんなことに困っているのか、それを解決するにはどうしたら良いのか、といった目標・目的が自然と定まってきます。そうしたら、目標・目的に合わせて計画を立て、行動し、結果を良い方へと修正していきます。これはメンタルクリニックで行われている治療の流れの一つでもあります。

一方、うつ状態だったり、疲れがたまったりしていると、ただ目を閉じて深く呼吸をすることが5分も続けられません。その場合はメンタルクリニックや心療内科、精神科などを受診する目安と考えましょう。

一般的にメンタルクリニックなどの予約は1~2カ月先になることが多いので、受診までは自分でコントロールしなくてはなりません。
しっかり休む、身近にいる信頼できる人に話を聞いてもらったり助けてもらう、助言やアドバイスに耳を傾ける、ありのままの自分を認めたり自分を大切にしたりといった自己肯定感を高めるようなことをする、といったアプローチが効果的です。

マインドフルネスについてはこちらの記事もご参照ください。

マインドフルネスで集中力アップ!~“今、この瞬間”に意識を向ける習慣を~

問題や不安を可視化する

メンタル不調を悪化させないためには、脳の状態に合わせて最適な行動をとる必要があります。例えば、脳が疲れているなら休んで回復させる、脳の機能に問題があるなら服薬して治療をするなどです。しかしメンタル不調のときには、休むにしてもどう休めば良いか分からない、といった事態になりがちです。

最適な行動をとるためにも、今、どんなことで疲れているのか、なぜ気分がもやもやしているのか、といったことを書き出してみましょう。頭の中を整理・明確化し、書いて可視化すると、自分の中にある「何事にも白黒をはっきりつけたがる、世間の常識にとらわれる」など「疲れやすい考え方のクセ」に気付くケースが多くあります。

考え方を変えるのは決して簡単なことではありませんが、マインドフルネスや日々の学び、規則正しい生活や十分な睡眠、栄養バランスの良い食事を心がけゆっくりと自分を変えていきましょう。一見、メンタルとは関係なさそうな学びでも、少しずつ前向きな思考になることで気付きが生まれ何かしら成長を重ねていけば、やがて自分自身に大きな変化が訪れる可能性があります。

まずは自分の抱える課題や問題、それを解決するためにするべきことを整理整頓しましょう。それができるだけでストレスがたまりにくくなり、メンタル不調の予防につながります。

益田 裕介 早稲田メンタルクリニック 院長

防衛医科大学校卒業。同大学校病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。精神保健指定医。精神科専門医・指導医。精神科診療について分かりやすく解説するYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」運営、登録者数は62万人を超える。

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