なんとなく疲れやすくなった、体がだるい――。それは、肝臓に問題があるのかもしれません。アルコールを過剰に摂取していなくても、普段何気なく摂っている調味料やドリンクなどの糖質に、肝臓の働きを悪くする要因があると言われています。食べたり飲んだりする機会が増える今の時期は、食べ方や飲み方を意識して“肝活(肝臓をいたわる生活)” を行いましょう。肝臓の働きや肝活のポイントなどについて、栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原 毅先生に伺いました。
その習慣、肝臓に良い? 悪い?
次の5つの項目の中で、当てはまる習慣はありませんか?
- 1.飲み会ではアルコール度数の低い、甘いサワーをよく飲む
- 2.アルコールは体に悪いので、ジュースを飲むようにしている
- 3.水分補給としてスポーツドリンクをよく飲む
- 4.疲れたときはエナジードリンクを飲んで気合いを入れる
- 5.食後のデザートにはフルーツを食べるようにしている
出典:栗原毅『肝臓大復活:100歳まで食・酒を楽しむ「強肝臓」の作り方』(東洋経済新報社)
実は、これらはすべて「肝臓に悪い」習慣といえます。例えば上記の1と2は、確かにアルコールの摂取量を抑えることができますが、一方で糖質の摂り過ぎになりがちです。
3のスポーツドリンクや、4のエナジードリンクにも多くの糖質が含まれています。また、5のフルーツには果糖が多く含まれており、これらの飲み過ぎや食べ過ぎはやはり糖質の過剰摂取を招きます。
アルコールの摂り過ぎは肝臓に悪い、と思っている人は多いかもしれません。しかし肝臓のためには、アルコール以上に糖質の摂り過ぎに気を付けるべきなのです。
過剰な糖質で肝臓に脂肪がたまる
なぜ糖質の摂り過ぎが肝臓に悪いのでしょうか。その理由を理解するためにも、まず肝臓の働きについて知っておきましょう。
肝臓の働きには大きく次の3つがあります。
いずれも人間が生きるうえで重要な働きですが、中でもメインになるのが「栄養素の代謝」です。糖質は、体内に入るとまずブドウ糖に分解されます。血液中のブドウ糖は膵臓から分泌されるインスリンの働きによって細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されます。
エネルギーとして利用されずに余ったブドウ糖は肝臓でグリコーゲンに合成され、肝臓や筋肉に貯蔵されます。食事が摂れないなど何らかの理由でブドウ糖が不足したときに、この貯蔵エネルギーであるグリコーゲンが使われます。
一方で、グリコーゲンの貯蔵量には限界があります。過剰な糖質が体内に入るとすぐに満杯になり、余ったブドウ糖が肝臓で中性脂肪に変換されます。中性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪も増加させます。肝臓にも脂肪が蓄積し、「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MAFLD)」※1を招く要因になります。
脂肪肝は初期の段階で自覚症状が出にくいといわれていますが、疲れやすさやだるさを感じ始めたら肝臓が弱っているサインかもしれません。
※1:肥満、耐糖能異常、高血圧、高中性脂肪血症、低HD血症などの代謝異常を伴う脂肪肝。アルコールをあまり摂取していない人でも進行する可能性がある
脂肪肝はまさに万病のもと
30代になると筋肉量が少しずつ減少し、基礎代謝も低下していきます。すると糖質などのエネルギーが10代、20代のころのようには消費されなくなり、過剰摂取で余った糖が脂肪に変換されやすくなります。
脂肪肝を放置していると、約10年後に糖尿病を発症するリスクが高くなります。30代で脂肪肝になったら40代で糖尿病に、40代で脂肪肝になったら50代で糖尿病になる可能性があることを心に留めておきましょう。
血液中の過剰な糖が血管を傷つけるため、動脈硬化や心筋梗塞、脳血管障害などの深刻な病気のリスクも高まります。
また、脂肪肝になった人の1~2割が、肝臓に進行性の炎症が生じる「脂肪肝炎」に移行するといわれています。脂肪肝炎を放っていると次第に線維化が進み、数年から数十年かけて「肝硬変」に進行する可能性があります。
肝硬変は「肝臓がん」のリスクを高める要因の一つです。脂肪肝→脂肪肝炎→肝硬変→肝臓がん、という流れを避けるためにも、まずは脂肪肝を予防する“肝活”が重要です。
果糖ブドウ糖液糖入りの食品に注意しよう
肝活の基本は、糖質の摂り過ぎを防ぐことです。ご飯やパン、麺などの主食は控えめにしていても、間食で頻繁に甘い物をつまんでいたり、ジュースを飲んだりしていると、糖質の過剰摂取につながります。
甘い物は苦手という人も油断は禁物です。調味料やインスタント食品などに含まれる「果糖ブドウ糖液糖」を日常的に摂取していると、脂肪肝が進み、肝臓がダメージを受ける要因になります。
果糖ブドウ糖液糖とは、トウモロコシなどから甘み成分を抽出して人工的に精製した液体で、果糖の割合がブドウ糖より高いものを指します(果糖の割合が50%以上90%未満)。
安価に大量生産できるうえ、甘みが強く、多様な食品に混ぜやすいのが特徴です。
例えば、次のような食品が代表的です。
これらはごく一部で、生鮮食料品を除く市販の多くの食品に果糖ブドウ糖液糖は使われています。すべてをカットするのは不可能に近いといえますが、買い物の際に製品のパッケージに表示されている原材料名をチェックし、なるべく果糖ブドウ糖液糖が含まれていないものを選ぶとよいでしょう。
さらに、次のような“マイルール”も肝活につながります。
- □甘いドリンクを控える
- □カップ麺と菓子パンを控える
- □スナック菓子は小袋のものにする(1回に食べる量を減らす)
- □ケーキやプリン、ゼリーは週に一度のご褒美にする
- □甘いタレはなるべく使わない
- □果糖ブドウ糖液糖入りの調味料を減らす
果糖ブドウ糖液糖を摂り過ぎない工夫をして、肝臓の働きを悪くする糖の害を減らしていきましょう。
酢納豆が肝活をサポート
肝活をサポートするメニューとしておすすめなのが「酢納豆」です。市販の納豆1パックに、タレの代わりに酢をかけるだけの簡単メニューです。なるべく砂糖や甘味料などの糖質が使われていない酢を選びましょう。酢に含まれる酢酸とクエン酸には、肝臓で脂肪を代謝するのに必要な酵素を活性化する働きがあります。
また、納豆に含まれるβ-コングリシニンと大豆サポニンには次のような働きがあります。
- □β-コングリシニン
内臓脂肪や血液中の中性脂肪の排出を促す - □大豆サポニン
脂肪の燃焼を助ける物質・アディポネクチン※2の分泌を促進。アディポネクチンが増えると強力な抗酸化作用により、肝臓の炎症が抑えられる
※2:インスリンの働きを助ける善玉ホルモンの名称。血管を修復するだけでなく、高血圧や動脈硬化を予防・改善する
前述のとおり、市販の納豆のタレの多くに果糖ブドウ糖液糖が含まれています。タレの代わりに酢を使えば、果糖ブドウ糖液糖によるマイナス作用を取り除くことができます。
毎日1食の酢納豆を、ぜひ続けていきましょう。
アルコール摂取は自分の適量と飲み方を守ろう
アルコールよりも糖質の摂り過ぎに気を付けたいのはこれまで説明してきた通りですが、もちろんアルコールも飲み過ぎればアルコール性肝炎などの肝障害を引き起こす要因になります。
2024年に厚生労働省が作成した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」は1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上とされています。
出典:栗原毅『肝臓大復活:100歳まで食・酒を楽しむ「強肝臓」の作り方』(東洋経済新報社)
とはいえ、これは万人に共通の量ではなく、お酒に弱い人はもっと少ない量で留めるべきです。お酒に強いか弱いかは8割方、遺伝で決まっています。アルコールの適量も、遺伝的な体質などによって個人差があります。どのくらいまでなら飲んでも支障をきたさないのか、自分にとってのアルコールの適量を知ることも大切です。
そしてアルコール摂取量は1週間単位で管理しましょう。1日の適量が純アルコール40gなら、1週間で280gに収まるように調整します。週末に宴会の予定があるときは週の前半の飲酒をセーブする、といったコントロールがスムーズにできるようになるはずです。
また「飲み方」も大切です。とにかく酔えればいいと無茶な飲み方をしたり、一晩中大騒ぎしながら飲み明かしたりするのを毎日続けることは、進んでアルコール性肝障害を招くようなものです。
ちょっと高級なお酒を少しずつゆっくり味わうのが理想的な飲み方です。また、必ずお酒と同量の水もチェイサーとして摂取しましょう。アルコールの吸収濃度が低くなる、飲酒による脱水を防ぐ、飲酒量そのものが減る、といったメリットがあります。
甘いものは摂取量に注意し、お酒は自分の適量を心得て、健康な肝臓を維持していきましょう。
医学博士。1978年、北里大学医学部卒業後、東京女子医科大学消化器病センター内科入局。87年より東京女子医科大学で消化器内科、とくに肝臓病学を専攻し、2005年に教授に就任。04年中国中医研究院客員教授、07年慶應義塾大学大学院教授に就任。08年に消化器病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防と治療を目的とした「栗原クリニック東京・日本橋」を開院。『肝臓大復活:100歳まで食・酒を楽しむ「強肝臓」の作り方』(東洋経済新報社)など著書多数。
