ヘルシーなイメージのある和食ですが、ご飯に合うおかずには塩味の効いたものが多くあります。そのため、日本人はどうしても塩分を多く摂りがちです。塩分の摂り過ぎは、高血圧の大きな原因の一つとされています。血圧をコントロールし、健康を維持するための減塩のポイントや、余分な塩分を排出するコツなどについて、日本歯科大学内科客員教授で高血圧専門医の渡辺尚彦先生にお話を伺いました。
高血圧が引き起こすリスクを知ろう
自分の血圧値を把握していますか?日本高血圧学会(JSH)による「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、高血圧の診断基準と降圧目標値について、次のように定められています。
2019年版ガイドラインまでは、病気の有無や年齢によって目標値が異なっていましたが、2025年からは病気の有無に関わらず、全年齢で基準が統一されました。
血圧は高くても自覚症状はほとんど表れないため、毎日の血圧測定が大切です。気づかないまま高血圧状態を放置すると、動脈硬化の進行リスクが高まります。動脈硬化とは、心臓から送り出された血液を全身に運ぶ血管である動脈が硬くなったり、血管内が狭くなったりする状態をいいます。血圧の高い状態が続くと、血管に大きな圧力がかかり続け、 内壁が傷つき硬くなって弾力性が失われます。するとますます血圧が上昇しやすくなります。高血圧と動脈硬化は互いに悪影響を及ぼし、悪循環を招いているのです。高血圧が原因となる動脈硬化は、全身の各部位に病気を引き起こします。こうした重大な病気を防ぐためにも、毎日の血圧測定と血圧のコントロールが重要です。
塩分の摂り過ぎで血圧が上がる理由とは?
高血圧は生活習慣病の一つであり、主な原因として、塩分の摂り過ぎ、肥満、アルコールの飲み過ぎ、喫煙、精神的ストレス、運動不足などが挙げられます。中でも日本人が特に気を付けたいのが、塩分の摂り過ぎです。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、1日の塩分摂取量の目標量は、「男性7.5g未満」「女性6.5g未満」とされています。
ところが実際の1日の塩分摂取量の平均値は、「男性10.7g」「女性9.1g」と報告されています※1。男女共に3g前後、目標量をオーバーしており、普段の食生活で塩分を摂り過ぎていると考えられます。
※1:出典:厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」
塩分を摂り過ぎると、血管内にナトリウム(Na)が増えて、血液の濃度が高くなります。それを一定の濃度に戻すため、血管の外にある水分が血管内に引き込まれます。血管を流れる血液の量が増えることで、血管壁への圧力が大きくなりその結果、血圧が上昇します。また塩分が多いと、末梢血管が収縮して血圧が上がります。
なお、日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、高血圧の人に向けた1日の塩分目標量は性別に関わらず「6g未満」とされています。血圧を適正に保ち、高血圧による病気を防ぐためにも、ぜひ6g未満を目指して減塩に取り組みましょう。
ちなみに高血圧の中でも、塩分の影響を受けやすい「食塩感受性」の人と、受けにくい「非感受性」の人がいます。「非感受性」の人は減塩が血圧に直接影響しないタイプです。ただし、そうした人でも塩分の摂り過ぎは心血管疾患の発症リスクになるので、誰にとっても減塩は大切と考えてよいでしょう。感受性と非感受性については明確な診断基準がなく、減塩指導によってどの程度血圧が下がるかを医師が見て、治療的判断を行います。
調味料の“かけごと禁止”
減塩で最も大切なのは、体に入れる塩分を抑えることです。特に、和食に多く使われているしょうゆやみそには多くの塩分が含まれているので注意しましょう。
出典:文部科学省「食品成分データベース」日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
上記の通り、しょうゆとみそ以外の調味料にも意外に多くの塩分が含まれています。冷や奴にしょうゆ、トンカツにソース、オムライスにケチャップというように、調味料を好きなだけたっぷりかけて食事をしていたら、それだけで1日の塩分摂取量に達してしまう可能性もあります。
そこでぜひ覚えておきたいのが「かけごと禁止」というフレーズです。調味料を料理に直接「かけない」ことを心掛けましょう。調味料は必ず小皿にとって、料理に「つけて」食べるクセをつけると、無理のない減塩につながります。さらに、次のような工夫も減塩を行ううえで効果的です。
「反復1週間減塩法」で薄味に慣れる
塩分の少ない薄味に慣れることも、減塩を成功させるコツの一つです。そのために効果的なのが、「渡辺式 反復1週間減塩法」です。方法は次の通りです。
- 1.1ヵ月のうち1週間だけ、1日の塩分摂取量を6g未満にする
- 2.あとの3週間は普通の食事をする
- 3.また次の月に1週間減塩する
- 4.1~3を10回(10ヵ月)ほど繰り返す
減塩する期間を1週間と限定すると、ゴールが見えやすいのでモチベーションを維持しやすくなります。また、1週間だけでも味覚のリセットにつながるのが大きなメリットです。10回程度繰り返すと、塩味に対する感覚が鋭敏になります。減塩前はおいしいと感じていた料理でも、「味が濃すぎる」「塩辛い」と感じるようになるケースは少なくありません。薄味に慣れることで、普通の食事でも塩分摂取量を自然と減らしやすくなります。
カリウム摂取で塩分の排出を促す
高血圧対策として、減塩のほかにもう一つ重要なポイントがあります。体内の余分な塩分(ナトリウム)を体の外に排出することです。そのためには、ナトリウムの排出を促し、血圧を下げる作用を持つ「カリウム」を含む食品を積極的に摂るのが効果的です。
また、カリウムには血管を拡張させて血圧を下げる働きもあります。日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」でも、カリウムの摂取量を増やすことが推奨されています。カリウムは野菜・いも類、果物、海藻、豆類、乳製品など多様な食品に含まれています。例えば、野菜・いも類や果物では下記の食品が代表的です。
出典:文部科学省「食品成分データベース」
さらに、海藻ではカットわかめ(乾燥)に100gあたり430mg、豆類ではひきわり納豆に100gあたり700mg、乳製品では牛乳に100gあたり150mg含まれています(数値はいずれも文部科学省「食品成分データベース」による)。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では1日のカリウム摂取量は次のように示されています。
血圧の高さが気になっている人は、「1日の目標量」を意識するのがおすすめです。朝食にバナナを1本プラスするなど、毎日の食事の中にカリウムの多い食品を取り入れると上手に補えます。塩分を摂り過ぎてしまった時は、特に意識してカリウムを多く含む食品を選びましょう。
近年はナトリウムとカリウムのバランスを示す、「ナトカリ比(Na/K比)」が注目されています。厚生労働省が国民栄養調査の参加者を24年間追跡した研究によると、食事中のナトカリ比が高い人ほど、その後24年間の循環器疾患での死亡リスクが高いことが明らかにされています※2。
※2:滋賀医科大学2016年7月21日プレスリリース「食事中のナトリウムとカリウムの比が高い人で循環器病死亡リスクが増加 -国民栄養調査対象者の追跡研究NIPPON DATA80 の24 年追跡結果より-」
Okayama A,Okuda N, Miura K,Okamura T,et al. Study.BMJ Open 2016;6:e011632 doi:10.1136/bmjopen-2016-011632.
ナトカリ比を調べるには尿検査が必要ですが、塩分の摂取量を減らし、野菜や果物などからカリウムを積極的に摂るようにすると、ナトリウムとカリウムのバランスが整い、ナトカリ比も低くなることが期待できます。ただし、腎臓が悪い場合はカリウムを摂り過ぎると不整脈などのリスクがあります。心当たりがある人は、必ず医師に相談しましょう。
寒い時期は暖かい場所と寒い場所との急激な温度差に気を付ける、軽い運動を習慣化する、リラックスを心掛ける、しっかり睡眠をとる、といった生活習慣も高血圧対策として大切です。食事をはじめとする生活習慣を見直し、適切な血圧を維持していきましょう。
医学博士。1978年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。米国ミネソタ大学時間生物学研究所客員助教授、東京女子医科大学教授、早稲田大学客員教授、聖光が丘病院顧問などを経て現職。1987年8月より携帯型自動血圧計を装着し、30分おきに血圧を測定し続けていることから「ミスター血圧」とも呼ばれる。近著に『血圧を下げるのに減塩はいらない!ナトカリ比であなたの血圧は下がる』(アスコム)がある。
