花粉の飛散量が増える時期は、目がかゆくなったり、充血しやすくなったりする人が少なくありません。こうした症状の多くは「季節性アレルギー性結膜炎」といわれています。対処法としては点眼薬(目薬)が一般的ですが、忙しさから点眼を忘れてしまい、放置して悪化させてしまうことがあります。そこで近年、点眼のし忘れを防ぐ新しい治療薬として注目されているのが、まぶたに塗るタイプの「
圧倒的に多い「季節性アレルギー性結膜炎」
私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物から体を守る「免疫」という仕組みがあり、その働きにかかわるのが「IgE抗体」です。IgE抗体は本来、寄生虫感染に対して働きますが、アレルギー素因がある人においては花粉やダニ、ハウスダストといった人体にとって無害のアレルゲン(抗原)に対しても、IgE抗体が過剰に作られやすくなります。
アレルゲンが体内に入ると、マスト細胞(肥満細胞)と過剰に作られたIgE抗体が結合します(
アレルギー性結膜炎は、アレルゲン(原因物質)が体に触れたり入ったりしてから数分〜数十分で症状が現れる、I型(即時型)アレルギーの1つで、次のような結膜のアレルギー疾患があります。
- □季節性アレルギー性結膜炎
文字通り特定の季節(春や秋)に花粉などのアレルゲンが原因で起こる結膜炎。春のスギやヒノキ、秋のブタクサやヨモギなどの花粉の飛散量が増える時期に現れる、目のかゆみや充血、異物感(ゴロゴロ感)、涙といった症状が特徴。 - □通年性アレルギー性結膜炎
季節に関係なく、ダニやハウスダスト、カビ、ペットの毛、フケなどの物質がアレルゲンとなって症状が出る結膜炎。 - □アトピー性角結膜炎
顔にアトピー性皮膚炎を持つ人に起こる慢性の結膜炎。 - □春季カタル※1
学童期の男児に多い重症の結膜炎。まぶた裏の結膜に巨大乳頭と呼ばれる石垣状のブツブツができたり、角膜(黒目)が傷害されるのが特徴。 - □巨大乳頭結膜炎
コンタクトレンズ、手術用縫合糸などによって結膜組織に対する機械的刺激が生じ、それによって引き起こされる結膜炎。まぶた裏の結膜にブツブツ(巨大乳頭)が生じる。
※1: 春から夏にかけて悪化し冬に症状が軽くなることから名づけられているアレルギー疾患
これらのアレルギーによって生じる結膜炎を総称して「アレルギー性結膜疾患」といいます。2017年度に眼科を受診したアレルギー性結膜疾患患者の実態調査※2では、季節性アレルギー性結膜炎の患者数が56.6%と過半数を占めています。花粉飛散量の増加や大気汚染、遺伝的要因や生活習慣の変化など複合的な要因によって、現代人にとって身近な病気の1つになっていると考えられます。
※2:2017年度日本眼科アレルギー学会アレルギー性結膜疾患実態調査.日本眼科学会雑誌.2022;126:625-635.
アレルギー性結膜炎の診断方法
アレルギー性結膜炎の症状として、ほぼすべての人に生じるのが目のかゆみです。充血して目が赤くなる、目やにや涙が出る、目がゴロゴロする、といった症状も代表的です。花粉によって引き起こされる季節性アレルギー性結膜炎の場合は、くしゃみや鼻水といった鼻炎の症状を伴うことも多いです。いわゆる花粉症の症状です。
鼻炎の症状の方がつらい人などは、耳鼻科を受診した際に目のかゆみについても訴えるケースが多いようです。そこで点眼薬を処方してもらえることも多いですが、確実に診断してもらうには眼科を受診することが大切です。
アレルギー性結膜炎の診断のポイントは次の通りです。
- □I型アレルギー素因(IgE抗体を過剰に作りやすい体質)があるか
- □アレルギー炎症に伴う自覚症状があるか
- □I型アレルギー反応が目(結膜)で生じているか
眼科で行われる検査の1つに、目やにや結膜をぬぐった分泌物から
また、涙の中に含まれる総IgE抗体の量を調べる「涙液中総IgE検査」があります。迅速診断キットを用いて、採取した涙液を検査薬に約10分浸すだけで結果が分かります。結膜好酸球の同定法に比べて簡便で、感度も高いのが特徴です。この検査が陽性であれば、アレルギー性結膜炎の臨床的と確定診断されます。
さらに、血液中の「特異的IgE抗体」というアレルギーの原因物質に対するIgE抗体の量を測定する血液検査もあります。ただし、花粉やダニ、ハウスダストなど特定のアレルゲンに陽性を示しても、必ず目に症状が表れるとは限りません。血液検査だけでアレルギー性結膜炎かどうか確定診断できない点に注意が必要です。
最新の治療薬「眼瞼クリーム」とは
アレルギー性結膜炎の治療は抗アレルギー点眼薬による薬物療法が主体でしたが、2024年5月にまぶたに塗るクリームタイプの「眼瞼クリーム」が発売され、広く普及してきています。
抗アレルギー点眼薬は、薬の種類にもよりますが、1回1~2滴を1日2回(朝と夜)あるいは4回(朝、昼、夕方および就寝前)点眼するのが一般的です。また、点眼後はまぶたを閉じて、1~5分間目頭を指先で押さえるなど、正しい使い方を守る必要があります。ところが、次のような問題が起こりやすい傾向にあります。
- □点眼が苦手で、1回に何滴も使ってしまう(点眼薬が、処方日数よりも早く無くなってしまう)
- □1日に複数回の点眼が必要な場合、昼や夕方は仕事などで点眼できないことがある
- □点眼すること自体を忘れがちになる。また、点眼後にまぶたを閉じて目頭を押さえることをしない
- □コンタクトレンズを使用している場合、レンズを外して点眼するのが面倒
(注:防腐剤を含まないコンタクトレンズ対応の点眼薬であれば、レンズを装着したまま使える) - □化粧をしていると、点眼薬によってアイメイクが崩れやすい
一方、眼瞼クリームには次のような特徴があります。
- □塗る回数は1日1回
- □上下のまぶたに塗るだけで、抗アレルギー作用を持つ有効成分(エピナスチン塩酸塩)が皮膚から結膜へと浸透する
点眼が苦手な人やコンタクトレンズを使用している人でも簡単かつ確実に塗布でき、1日1回、自分のライフスタイルに合ったタイミングで塗布できるので、仕事が忙しい人にも安心です。
ただし、毎日同じタイミングで塗ることが大切です。就寝前に塗るなどタイミングを決めておくと、塗り忘れ防止にもつながります。
使用に当たり、眼瞼クリームは処方薬なので、必ず眼科(または耳鼻科、小児科、内科など)を受診し、医師の診察を受けたうえで処方してもらう必要があります。医師の指示に従い、用法や用量、使用期間をきちんと守ることが治療の効果を十分得るために欠かせません。
花粉が飛散する前の「初期療法」も有効
花粉による季節性アレルギー性結膜炎に対しては、花粉が飛散する前から抗アレルギー点眼薬や眼瞼クリームを使用する「初期療法」も有効です。花粉飛散開始予測日の2週間ほど前から点眼や眼瞼クリームの塗布を開始しましょう。
かゆみの症状が出る期間を短縮できたり、花粉のピーク時期の症状の軽減につながりやすくなります。
花粉の飛散開始時期は下記のウェブサイトなどで調べることができます。
2月の中旬から飛散が始まりそうなら、1月下旬には眼科を受診するのがベストです。「かゆくなる前」の対処を心がけましょう。なお、スギ花粉症と確定診断された人に対する治療法の1つ「舌下免疫療法」は、スギ花粉による鼻症状だけでなく、アレルギー性結膜炎の症状を抑える効果も期待できます。舌下免疫療法とは、アレルゲンを少量ずつ体に取り入れ、免疫の反応を「過剰に反応しない状態」に変えていく治療法です。点眼薬や眼瞼クリームで治療をしてもなお目のアレルギー症状が強い人は眼科で相談してみましょう。
花粉から目を守るセルフケアも大切
季節性アレルギー性結膜炎については、薬による治療だけなく次のようなセルフケアも重要です。
- 1.外出時はメガネやサングラスを着用し、花粉などのアレルゲンから目をガードする
花粉対策用のメガネが効果的ですが、それ以外のメガネやサングラスでも目に入るアレルゲンを減らせます。コンタクトレンズを使用している人は、花粉の多い時期・症状がある時期だけでもコンタクトレンズの装用は中止してメガネに変えるのがおすすめです。
- 2.外出後は目の洗浄剤(洗眼薬)で、目に入ったアレルゲンを洗い流す
防腐剤の入っていない専用の洗眼薬や人工涙液を使い、水道水で目を洗うのは避けましょう。
なお、目がかゆいからといって、かいたりこすったりするのは控えましょう。かゆみを引き起こす物質・ヒスタミンを放出するマスト細胞が物理的な刺激を受けることによって、さらに多くのヒスタミンが放出され、「かゆみがかゆみを呼ぶ」といった悪循環に陥るからです。また、角膜を傷つける恐れもあります。
抗アレルギー点眼薬を使ってもかゆみが治まらない、光がまぶしくて目が開かない、目の赤さや痛み、異物感がひどい、といった症状がある場合は、季節性アレルギー性結膜炎以外の目の疾患が疑われます。なるべく早く眼科を受診することが大切です。
医学博士。1996年 産業医科大学医学部卒業、2005年 山口大学医学部附属病院眼科講師。10年から現職。日本眼科アレルギー学会副理事長。日本アレルギー学会代議員。眼アレルギー、眼感染症をテーマに、基礎・臨床研究を行う。06年度に日本眼炎症学会学術奨励賞、07年度に日本眼感染症学会学術奨励賞(三井賞)など多くの受賞歴を持つ。
