知っておきたい病気・医療
2026.03.13

若い人ほど大腸がんに要注意!

~定期的な検診を心がけよう~
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「まだ若いから、がんの心配はないだろう」と思い込んでいませんか?実は近年、大腸がんは若い世代で増加傾向にあります。2025年に発表された最新の研究では、若年層(20~40歳代)の大腸がん増加に「コリバクチン毒素」というある種の腸内細菌からの分泌物が関与していることが明らかにされています。この研究結果を発表した東京大学 医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター教授と国立がん研究センター がんゲノミクス研究分野 分野長を兼任する柴田龍弘先生に、「まだ若いからこそぜひ心がけたいこと」などを伺いました。

大腸がんが若い世代に増えている

「複数の国において、若年層の大腸がんと子宮体がんの罹患率と死亡率が増加している。」この事実が国立がん研究センターが参加した国際共同研究チームにより明らかになりました※1

※1 国立がん研究センター プレスリリース「若年大腸がんと子宮体がんの罹患・死亡の増加を確認 若年発症がんの病態解明の基盤となる国際共同成果」(2025年12月25日)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2025/1225/index.html

特に大腸がんは、日本人のがんの中でも罹患数(一定期間にがんと新たに診断された人の数)が男女計で最も多く※2、国内で最も多いがん種として知られています。日本人のがんによる死亡数を見ると、男性は肺がん、女性は大腸がんが死因の第一位となっています※3

※2 国立がん研究センター 全国がん登録罹患データ(2021年)

※3 国立がん研究センター 人口動態統計がん死亡データ(2024年)

大腸がんの罹患率を年齢別に見ると、急増するのは50代から80代にかけてですが、30代後半から徐々に増加していることが分かります(下グラフ参照)。

■大腸がんの年齢別罹患率(2021年) 大腸がんの年齢別罹患率(2021年) 出典:国立がん研究センター 全国がん登録罹患データ(2021年)

なぜ大腸がんが日本人に多く、しかも若年層で増加しているのでしょうか。その背景に「腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素」の関与があることが、国立がん研究センターと東京大学医科学研究所が参加した国際共同研究で分かってきました。

日本人の大腸がん患者の5割が持つ“毒素”とは

そもそも、がんは細胞分裂の際に、偶然、遺伝子(DNA)が傷つくことによって起こります。この傷のことを「遺伝子の変異」といいます。正常な細胞は必要なときに増え、必要がなくなると増えるのをやめますが、遺伝子の変異が起きた細胞は増殖し続けることがあります。変異の増殖によってできた細胞のかたまりを「腫瘍」といい、悪性の腫瘍を「がん」といいます。

遺伝子の変異の原因は、喫煙やウイルス・細菌による感染、化学物質や放射線などさまざまです。そして新たに国立がん研究センターと東京大学医科学研究所が参加した国際共同研究によって明らかにされたのが、前述の「コリバクチン毒素」と、遺伝子の変異との関係です。同研究では、日本を含む11の地域(日本、ブラジル、ロシア、イラン、カナダ、タイ、ポーランド、セルビア、チェコ、アルゼンチン、コロンビア)における981症例の大腸がんを対象に、全ゲノム解析を行いました。ゲノム解析とは、生物が持つ遺伝情報を総合的に解析するものです。研究結果報告※4の中で、特に注目したいのが次の3点です。

注目したい3つの研究結果

※4 国立がん研究センター、東京大学医科学研究所プレスリリース「国際共同研究により大腸がんの全ゲノム解析を実施し日本人症例を解析 日本人大腸がん患者の5割に特徴的な腸内細菌による発がん要因を発見」(2025年5月21日)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2025/0521/index.html

コリバクチン毒素は、大腸菌などの腸内細菌が産生・分泌する物質です。この物質がDNAを傷つけ、その結果として特徴的な変異パターンを引き起こします。変異が起きた遺伝子を調べて、その変異パターンが確認できれば、コリバクチン毒素によって生じた変異だと判断できます。喫煙や紫外線など、がんの原因にはさまざまなものがありますが、コリバクチン毒素はそれらと同様に、遺伝子の変異を引き起こすことが証明された発がん物質の一つです。

日本は世界的に見ても大腸がんの患者数が多い傾向にあります。その背景にコリバクチン毒素の関与があることが、この研究で科学的に裏付けられたといえます。若年層の大腸がん増加の背景にも、コリバクチン毒素の関与がある可能性が考えられることを、研究結果が示しています。

20~30代でも定期的な大腸がん検診を

こうした研究が今後さらに進むことで、日本における大腸がんの新たな予防法や治療法の開発につながることが期待されていますが、実現するのはもう少し先になりそうです。一方で、誰でも今すぐにできることがあります。それは、大腸がんを人ごとと思わず、定期的にがん検診を受け、早期発見・早期治療につなげることです。

大腸がんは30歳未満でも発症するリスクがあります。初期は無症状で気づきにくいため、発見が遅れやすく、血便などの自覚症状が現れたときにはかなり進行しているケースが少なくありません。20~30代は男女共に働き盛りであるのはもちろん、結婚や出産、育児などライフステージもどんどん変化する時期です。人生これからという大切な時期に、進行がんが見つかる可能性はゼロではありません。進行がんになってしまうと、人工肛門(ストーマ)が必要になったり、最悪の場合は命に関わることもあるかもしれません。

一方で、リンパ節や遠隔(大腸から離れた器官)への転移がほとんどない初期の段階で発見できれば、5年生存率は97.3%というデータ※5もあり、早期発見によって治せる確率が高いことが分かっています。

※5 国立がん研究センター 地域がん登録による生存率データ(1993~2011年診断例)(5年生存率)

現在、市区町村で実施されている大腸がん検診は40歳以上が対象です(全国健康保険協会に加入している会社員は35歳以上)。検査項目は、年1回の「便潜血検査(便に血が混ざっていないか調べる検査)」が中心です。便潜血検査は主に大腸がんや大腸ポリープなどによる出血を見つけることを目的としており、2日間にわたって便を採取する「2日法」が広く行われています。このうち1回だけでも陽性と判定されたら、精密検査として大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることが強く推奨されています。

大腸内部を直接観察できる大腸内視鏡検査は、便潜血検査に比べて非常に精度が高いのが特徴です。大腸がんの発症リスクが高い要素を持っている若年層は、便潜血検査で異常はない、あるいは自覚症状がないといった場合でも、できれば1~2年に1回のペースで大腸内視鏡検査を受けるのが理想的です。自主的に大腸内視鏡検査を受ける場合は自費診療になりますが、内視鏡検査中に見つかった大腸ポリープはその場で切除でき、がん化リスクの有無なども診断可能です。大腸がんを早期発見するための選択肢としてぜひ検討しましょう。

腸活は健康全般において大切

コリバクチン毒素がなぜ日本人や若年層の大腸がん患者に多いのか、大腸がんを発症していなくても日本人ならコリバクチン毒素を持っているのか、どうしたらコリバクチン毒素による変異を防げるのか、といったことはまだ分かっていません。いわゆる“腸活”がコリバクチン毒素を減らすというエビデンス(科学的根拠)も現在のところありません。しかし、腸内細菌のバランスを乱さず、腸内環境を整える生活習慣は、健康全般の維持に役立つといえます。

腸内細菌とは、私たちの腸に生息する、1000種類100兆個に及ぶ多種多様な細菌の総称です。よく知られるように、大きく次の3つに分類されます。

腸内細菌の分類

健康な状態のときはそれぞれの菌がバランスを取り合って、体に必要なビタミン類を合成したり、代謝を促したりしています。しかし栄養バランスの偏りや不規則な生活習慣、過度のストレスといった要素が積み重なると腸内細菌のバランスが乱れ、便秘や下痢、肌荒れ、アレルギーや感染症、肥満や糖尿病、うつや認知症といった多様な病気のリスクが高まります。

大腸がんは特定の腸内細菌が大腸の細胞や免疫細胞に悪影響を及ぼし、がん化を促すといったメカニズムが複数の研究で報告されています。特に若いうちは赤肉や加工食品、高脂肪の食事に偏りがちです。腸内環境を整えて健康を保つためにも、有用菌を増やす食物繊維やオリゴ糖、ヨーグルトや納豆などの発酵食品を取り入れたバランスの良い食生活や、適度な運動や十分な睡眠を心がけましょう。

柴田 龍弘 東京大学 医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センター 教授
国立がん研究センター がんゲノミクス研究分野 分野長

博士(医学)。1990年東京大学医学部卒業。最新のゲノム解析技術を駆使してがんにおける遺伝子異常を広く調べている。特に大腸がんや肝臓がん、胆道がんなどの消化器がんを主な対象として、がんの個別化医療(治療・診断・予防)に向けた新たな突破口を開くことを目的として研究を進めている。

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