仕事のある日はフルタイムで働き続け、休日はベッドでずっとゴロゴロ……。それも休み方の一つですが、思ったように疲れが取れない、気分がスッキリしないということも多いのではないでしょうか? 仕事のパフォーマンスを上げ、人生をもっと楽しむためにも、ぜひ見直したいのが休養の取り方です。「休養学」を提唱する、一般社団法人日本リカバリー協会代表理事の片野秀樹先生に疲労の正体や効果的な休養の取り方について伺いました。
日本人の疲労度は年々増している
日本人の約80%が疲労を感じている――。全国の20~79歳の男女10万人を対象に日本リカバリー協会が行った「ココロの体力測定」調査で、このような結果が示されています(下グラフ参照)。
高頻度:「しばしば」または「いつも」疲れている状態
低頻度:「無い」または「たまに」、「時々」疲れている状態
1999年に厚生省(現・厚生労働省)疲労研究班が、一般地域住民4,000人を対象に行った疫学調査では、疲労を感じている人の割合は約60%でした※1。
※1 厚生労働科学研究成果データベース「疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復手法に関する研究」
つまり、およそ四半世紀の間に疲労を感じている人の割合は、約20ポイント増えたことになります。直近5年間を見ても、日本人の疲労度は年々増加傾向にあります(下グラフ参照)。時代や環境の変化は今後さらに加速すると考えられますので、疲労を感じる人はさらに増え続けると予想されます。
出典:日本リカバリー協会「リカバリー(休養・抗疲労)白書2025レポート」Vol.1
※2017年から2020年までの調査は20~69歳、2021年以降は20歳~79歳に調査範囲を広げたため、全体の疲労率が変動しないよう調整してまとめた疲労状況の結果
常時「オン」の状態が疲労を招く
1999年から現在にかけて疲労を感じる人が増えた背景の一つに、AI技術やデジタル化の普及があります。例えばインターネットの接続を見ても、90年代は「ダイヤルアップ接続」が主流でしたが、今は「常時接続」が当たり前の時代です。電話用の回線を利用してインターネットに接続する「ダイヤルアップ接続」は、自分の意思でインターネットへの接続や切断ができました。「オン」と「オフ」を自分でコントロールできていた、といえるでしょう。
一方、常時接続とは、自分の意思に関係なく常に「オン」の状態に置かれています。パソコンやスマートフォンの電源を入れれば、いつでもどこでも仕事ができたり、人や情報にアクセスできたりするのは便利な反面、リモートワークやオンラインで仕事が完結する場面が増えたことで、外に出て歩く機会が減り、頭ばかり使って体をほとんど動かさない生活になりがちです。さらに、寝る直前までスマートフォンを見るような生活をしていると、なかなか「オフ」の状態に切り替えにくくなります。
特に、物心ついたときからスマートフォンなどのデジタルデバイスが身近にあった若い世代には、その傾向が顕著です。また、こうした機器を活用して時間を効率的に使い、生産性を高めることを重視する傾向も見られます。その結果、「オン」の状態にあることが優先され、「オフ」を取ることに後ろめたさを感じる人も少なくないようです。
実際に、2025年の年代別疲労状況では、20代の「疲れている人(高頻度)」が55.9%と最も高くなっています(下グラフ参照)。その背景にはこうした“タイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)”重視のライフスタイルがあるのかもしれません。
出典:日本リカバリー協会「リカバリー(休養・抗疲労)白書2025レポート」Vol.1
「オフ」の状態がないとパフォーマンスは低下する
仕事で十分にパフォーマンスを発揮したくても、疲れていると、その分パフォーマンスは低下します。スポーツの世界でよく知られる下記の「フィットネス疲労理論」に基づいて説明しましょう。
例えば、ぐっすり眠って起きた朝の体力を100とし、その後の仕事で20くらいの疲労を感じたとします。その状態を上記の公式に当てはめると、【自分の体力100】−【疲労20】=【自分が出せるパフォーマンス80】になり、本来の力の8割程度しか発揮できていないことになります。
疲労とは、肉体や精神の活動能力が低下した状態をいいます。1日の中でも、朝より夕方のほうが活動能力は低下しやすくなります。そのため、日中に適度に休憩を取り「オフ」の状態をつくることが、パフォーマンスを維持するうえで重要です。しかし現代社会で働く人の多くは常時「オン」の状態にあるため、「オフ」を入れずに頑張り続ける傾向にあります。
疲労は、体がだるい、やる気が出ないといった「疲労感」となって表れますが、毎日の忙しさの中で気づかない、あるいは気づかないふりをしてしまいがちです。その結果、疲労によって本来のパフォーマンスが出せず、生産性の低下につながることもあります。また、「疲労感」は、「心身が疲労していて、これ以上活動を続けると危険」ということを知らせる体からのアラートでもあります。この警告を無視して疲労を放置し続けると、慢性的な体調不良やメンタル不調、病気のリスクを高める恐れがあります。
活力を高める7タイプの休養の取り方
心身の健康を保ち、パフォーマンスを100%発揮するためにも、しっかり休養を取り、活動能力を向上させましょう。常時「オン」の状態にあるからこそ、能動的に「オフ」に切り替える“攻めの休養”が大切です。これは、ただ休むのではなく、「活力」を高める休養の取り方として、「休養学」では次の7タイプを提示しています。休養の取り方のバリエーションとして参考にしてください。
出典:片野秀樹『あなたを疲れから救う 休養学』(東洋経済新報社)を一部改編
- 1.休息タイプ
睡眠や休憩など、一般的な「休養」。活動をいったん停止して、エネルギーが回復するのを待ちます。エネルギーを消費しないよう体を動かさず、心と体を沈静させましょう。 - 2.運動タイプ
ウォーキング、ヨガ、ストレッチなど軽めの運動や入浴など。血行が促進され、体内の老廃物が排出されやすくなり、疲労感の軽減につながります。デスクワークの合間に立ち上がって軽く体を動かすだけでもOK。血液の循環を良くすることを意識しましょう。 - 3.栄養タイプ
疲労回復にはスタミナ料理が効果的というイメージがあるかもしれませんが、休養という観点では、「胃腸を休ませる」ことが大切です。消化の良い食事や腹八分目を心掛ける、冷たいドリンクやカフェイン入り飲料よりも白湯を飲む、といった工夫をしましょう。
- 4.親交タイプ
人や動物、自然などとのふれあいが効果的です。子どもとハグをする、パートナーと手をつないで出かける、職場の人と休憩時間に雑談をするなど、自分がほっとできる交流はストレス解消につながり、活力を得られます。ペットと遊ぶ、森林浴やハイキングをする、といった休み方も良いでしょう。 - 5.娯楽タイプ
音楽・映画鑑賞、推し活など、自分の趣味や嗜好を追求することも活力アップにつながります。ただし、あくまでも休養のために行うものなので、逆に疲れてしまうほど没頭しないよう気を付けましょう。一定時間でやめるなど、自分でコントロールすることも大切です。 - 6.造形・想像タイプ
絵や編み物、料理など何か形のあるものを作る。あるいは目を閉じて行きたいところや楽しかったことなどを想像したり、思い出したりする。好きなことに集中したり、思いを巡らせたりしていると、その時間は抱えているストレスを忘れられるはずです。こうした休み方も疲労感の軽減につながります。
- 7.転換タイプ
外部環境を変えることで気分をリセットし、休養につなげましょう。代表的なものは旅行ですが、自宅でも外部環境を変えることは可能です。というのも、私たちの皮膚の外側はすべて外部環境だからです。部屋の模様替えや整理整頓、掃除、洋服を着替える、といった身近な方法でも心の安らぎを感じたり、気分転換できたりするはずです。
以上、7タイプの休養の取り方の中には、「このタイプは自分も前から行っていた」というものもあったのではないでしょうか。効果的な休み方は十人十色で、自分に最適な方法は自分にしか分かりません。この中にすでに行っているタイプがあれば、それが自分に合っている休み方の一つだと判断できます。「元気を出したいけれど、どうしたらよいか分からない」というときに「自分にはこの方法があった」と思い出し、上手に休むきっかけにしましょう。さらに、7タイプの中から「今度はこのタイプや、あのタイプをプラスしてみよう」と複数組み合わせると、自分から主体的に休養を取るモチベーションの向上にもつながります。「オン」と「オフ」をうまく切り替えながら、活力に満ちた豊かな生活を目指しましょう。
博士(医学)。東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部・医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所未病公認講師で休養学を指導。日本リカバリー協会では休養士の教育や養成を行うと共に、休養に関する問題や理解度を高める講義などを通じて、リテラシー向上を目指した啓発活動に取り組んでいる。
