がんは誰でもなりうる身近な病気の一つです。自分ががんになったらどのような治療法があるのかを知っておくことは、いざという時に迫られる治療の選択だけでなく費用を準備するうえでも大切です。「標準治療」「先進医療」「自由診療」というがんの3つの医療について、帝京大学 福岡医療技術学部 医療技術学科教授の佐藤典宏氏が解説します。
3種類のがん医療の違いを知る
現在がん治療は、費用面の違いによって大きく3種類あります。
保険適用となる「標準治療」、一部が保険適用となる「先進医療」、全額自己負担となる「自由診療」です。このうち最も推奨されている医療が「標準治療」です。
「標準」という言葉から「普通」「平均的」といったイメージを抱くかもしれませんが、世界中で行われた臨床試験の結果から有効性と安全性が確認された「最良」の治療法です。
一方、現時点で健康保険が適用されていない医療に「先進医療」と「自由診療」があります。
先進医療は「厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた療養」を指し、保険給付の対象とすべき治療かどうか評価や検証の段階にある治療法のことです。先進医療を受ける際の治療費(技術料)は全額自己負担となります。ただし、標準治療と共通する診察や検査、投薬、注射、入院などは保険給付の対象になります。
自由診療では、診察や検査から投薬など治療にかかる費用はすべて自己負担になります。中には「最新治療」と紹介される治療法もありますが、前述の有効性や安全性が確認されている標準治療や先進医療とは異なり、科学的根拠(エビデンス)が十分ではない治療法がある点に注意が必要です。
標準治療の新たな選択肢「免疫療法」
標準治療は、がんの3大療法といわれる「手術」「放射線療法」「化学療法(抗がん剤)」を個々の病状に応じて選択、組み合わせて行うのが一般的です。
さらに近年は、治療の新たな選択肢の一つとして「免疫療法」が注目されており、「第4の治療法」ともいわれるようになっています。
がん治療には、自分の免疫システム(体の防御機能)を利用してがん細胞を攻撃する免疫療法があります。免疫療法には「標準治療」、「先進医療」、「自由診療」がありますが、標準治療として実施されている免疫療法の一つが「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた治療です。
私たちの体にある免疫細胞(T細胞)には、がん細胞を攻撃する働きがあります。一方で、がん細胞は免疫細胞(T細胞)の働きにブレーキをかけ、攻撃を回避しようとします。このブレーキをはずし、再びがん細胞を攻撃できるよう導くのが、免疫チェックポイント阻害薬です。
免疫チェックポイント阻害薬は2014年に皮膚がんの一種である「悪性黒色腫(メラノーマ)」の治療薬として保険適用となりました。それ以来、臨床試験が進み、現在は悪性黒色腫(メラノーマ)以外にも下記の通り、免疫チェックポイント阻害薬で治療を行えるがんの種類が増えています。
出典:がん情報サービスHP「免疫療法 もっと詳しく」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html
ただし、多くの場合、「根治切除不能な進行・再発」がんに対し、従来の化学療法(抗がん剤)が効かない、あるいは増悪した後の二次治療以降の選択肢となります。まずは、よりエビデンスが確立されている標準治療が最初の段階での治療となります。
免疫チェックポイント阻害薬が保険適用になるまでは、抗がん剤が効かない、あるいは増悪した場合、それ以上の治療はあきらめざるを得なかったケースも少なくありませんでした。標準治療の一環として選択肢が増えることは、がん治療における大きな希望といえます。
がんの先進医療として注目の粒子線治療
先進医療もまた、標準治療を優先して行ったうえでの選択肢の一つになります。現在、がん治療の先進医療の中心となっているのが、放射線治療の一種である粒子線治療(重粒子線治療、陽子線治療)です。従来のX線とは異なり、炭素(重粒子)や水素(陽子)の原子核を加速して、がんにピンポイントで照射します。標準治療の放射線療法に比べて照射回数が少なく、体への負担が少ないのが特徴です。
一方で、巨大な加速器や照射装置を用いるため、大規模な設備が必要なことから、国内で粒子線治療を受けられる施設は限られています。また、いずれも治療の部分(技術料)は自己負担となり、金額は300万円前後と高額です。
ただし、手術による根治的な治療が困難とされた、以下の一部のがんについては保険適用となります。
※手術による根治的な治療が困難であるものに限る
出典:日本放射線腫瘍学会HP「粒子線治療(陽子線治療,重粒子線治療)の保険適用となる疾患」
https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/particle_beam/2022/07/post-10.html
自由診療を受ける際のポイント
保険適用の免疫チェックポイント阻害薬や粒子線治療は増えているものの、治療が可能ながんはまだ限られています。大規模な臨床試験で一部のがんについては効果と安全性が確認された治療法でも、他のがんでは確認できないというケースがあるためです。結果として、免疫チェックポイント阻害薬や先進医療の中に、保険適用のものと全額自己負担のものが混在しているのが現状です。
「抗がん剤をはじめとする標準治療が効かなかった」「免疫チェックポイント阻害薬や粒子線治療の対象にもならない」といった場合には次のような選択肢が考えられます。
- 1.先進医療(技術料は全額自己負担)について主治医に相談する
- 2.臨床試験(治験)が行われていたら参加する
- 3.自由診療(全額自己負担)での治療を検討する
3.の選択肢の場合、がんの自由診療の種類は多く、標準治療に比べて選択の幅が広い一方で、科学的根拠(エビデンス)が乏しく有効性が確認されていない治療もあります。また、治療内容によっては費用が数百万~数千万円程度かかる場合もあり、全般的に極めて高額になる傾向があります。
こうしたことから自由診療に対してネガティブなイメージを抱く人も少なくありませんが、標準治療や先進医療が継続不可能と判断されたがん患者さんにとっては“最後の
がんの自由診療を行う医療機関はさまざまなので、信頼できる診療を行う医療機関を選択できるよう、事前のリサーチをしっかり行いましょう。主なポイントは次の通りです。
- □できるだけ、身近な医療者(主治医や看護師など)から情報収集する
(自由診療自体を否定されることもあるかもしれないが、主治医や看護師が近隣のクリニックの情報を持っているケースは意外に多い) - □インターネットで検索する時は、誇張表現や宣伝の多いクリニックを避ける
(例)
・「この治療で進行がんが治った」など、治療効果をクリニックの宣伝に使っている
・効果があったとされる治療の症例を画像付きで紹介している など
また、自由診療を受ける際は次のことを必ず確認しましょう。 - □治療のゴール(自分がどのくらいの状態を目指すのか)
- □ゴールまでにかかる費用と期間(回数)
できれば書面に沿ってこれらを説明してもらうのがベストです。逆にいうと、口頭で曖昧な説明しかしてもらえない場合は「信用に値しない」と判断する目安になります。
自分が納得できるまで十分に説明を受けたうえで、治療を始めるかどうか決めることが大切です。
主治医とのコミュニケーションが大切
自由診療のがん治療は多岐にわたり、どのような治療やセルフケアであっても、場合によってはマイナスの影響が生じる可能性もあります。納得して治療を受けることで患者さん自身に希望が生まれ、前向きに生活できるようになるのであれば、自由診療の意義の一つといえるでしょう。
がん治療において最も重要なのは主治医とのコミュニケーションです。次のようなことを何度でも納得するまでよく話し合いましょう。
- □自分のがんはどのようなものなのか
- □どんな治療法があるのか
- □主治医の考える最適な治療法は何か
- □その治療法が効かなかった場合はどうするのか
治療について主治医と話し合った結果、納得できなければ(あるいは確認のために)セカンドオピニオンを求めるのも方法の一つです。ちなみに、セカンドオピニオンは保険の対象外で、全額自己負担となります。
なお、乳がん、胃がん、大腸がん、肺がん、子宮がん・卵巣がんなどについては、エビデンスに基づく検査や治療法などを専門の学会などがまとめて提示している「患者さんのためのガイドライン」や「患者さんのためのガイドブック」などを参考にするのもよいでしょう。
がんとその治療について正しい知識を身につけると共に、定期的ながん検診で早期発見・早期治療につなげることも大切です。
医師(外科医)。医学博士。1993年、九州大学医学部卒業。米国ジョンズホプキンス大学医学部留学、産業医科大学 第1外科講師などを経て、2024年より現職。YouTube「がん情報チャンネル」や、ブログなどでがんに関する情報発信をしている他、『がん専門医が伝えたい がん患者が自分らしく生きるためのセルフケア大全』(CEメディアハウス)など著書多数。
オフィシャルウェブサイトhttps://satonorihiro.xyz/
