暑くて食欲が低下しがちな夏は、食べる量が減り、食事から摂取できる水分や栄養が不足しやすくなります。そのうえ多量の発汗に伴って水やミネラル(電解質)、ビタミン類も失われやすい状態になります。熱中症や夏バテを防ぐためには、食事からの水分と栄養の補給が重要です。そこで注目したいのが、食欲がないときでも取り入れやすく、しかも効率よく水分と栄養を補給できる味噌汁です。上手な取り入れ方について、済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜先生が解説します。
体液量(水分量)のバランスの崩れに要注意
汗をかくことで、私たちの体温は一定に保たれています。上手に汗をかけないと体温が上昇して熱がこもり、熱中症を引き起こす要因になります。汗をかけなくなる原因はいくつかありますが、大きな原因の一つに、脱水症があります。
脱水症とは、体内の水分「体液」が減少した状態をいいます。
通常の生活では、体液量(体内の水分量)は、1日の水分の補給と排出によって一定に調節されています(下図参照)。
体内の水分は、食事に含まれる水分と飲料、体内で作られる水(代謝水)の合計です。
体から出る水分は、尿・便、呼吸や皮膚からの蒸発によって排出されるものの合計になります。体重60kgの成人男性の場合、1日に約2.5Lの水分が出入りしています。さらに汗をかいたときには、別途その分の水分を摂取する必要があります。
出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」(James L. Gamble: [Chemical Anatomy Physiology and Pathology of Extracellular Fluid]より引用、改変)
食事や飲料による水分摂取が不足したり、発汗や下痢、嘔吐などで水分の排出量が多くなり過ぎたりすると、体液量(水分量)のバランスが崩れ、脱水症を招きやすくなります。
脱水に陥らない水分補給のコツ
脱水症を防ぐためには、こまめな水分補給が欠かせません。
コップ1杯(150~200ml)程度を1日8回、下図のようにタイミングを決めて、喉が渇く前に摂取しましょう。
脱水症を予防する目的であれば、体から水分を奪う作用のあるアルコール以外の飲料を摂取しましょう。アルコールには利尿作用があり、尿の量が増えるためかえって体内の水分が失われます。また、カフェインに敏感な人は、コーヒーやお茶も利尿作用が働きやすいため避けましょう。ジュースや糖分が多い炭酸飲料などは血糖値が上がることで体液の成分バランスが崩れ、より水を欲する状態になり、水分を摂取すると今度は尿量が増えて、結果的に脱水につながります。取り過ぎには注意しましょう。
出典:谷口英喜『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本(改訂版)』(日本医療企画)
多量の汗で失われがちな成分とは
こまめな水分補給と同時に重要なのが、食事からの水分摂取です。1日に食事から摂取できる水分量は1.0Lと、1日の水分摂取量の約4割を占めています。
飲料と同じくらい、食事からの水分摂取は大切です。
特に厳しい暑さが続く夏場は食欲が低下しがちです。食事の量そのものが減ると、水分の摂取量が不足する要因となります。それだけでなく、素麺などさっぱりした食事に偏ると、ミネラル(電解質)やビタミン類など体に必要な栄養も不足しやすくなります。
さらに、夏場は汗の量も増加します。多量の汗とともに水やミネラル(電解質)、ビタミン類が排出され、不足しやすくなる点にも注意が必要です。
水溶性ビタミン(ビタミンB群とビタミンC)は汗や尿で排出されやすいため、体内に貯蔵できません。水溶性ビタミンの中でもビタミンB1は、ブドウ糖をエネルギーに変え、脳や神経の正常な働きを保つ作用があります。夏場の体力回復にも重要な役割を担っています。
熱中症予防はもちろん、夏バテ対策のためにも、栄養バランスの取れた食事を3食しっかり取ることが大切です。
野菜中心の味噌汁で不足しがちな栄養を補う
とはいえ、夏場はどうしても食が進まなくなるという人も多いでしょう。そうした状態でも、比較的摂取しやすく、必要な水分や栄養を効率よく補給できるのが味噌汁です。
食欲がないときは具なしの味噌汁で構いません。それだけでも次のようなメリットが得られます。
- □水分を補給できる
- □ナトリウム(塩分)を補給できる
- □発酵食品である味噌を摂取することで腸の免疫作用(腸管免疫)が活性化し、免疫機能の向上が期待できる
温かい味噌汁を飲みたくないときは、冷蔵庫で冷やした「冷やし味噌汁」を飲むのもおすすめです。冷やしても栄養価は変わりません。
具材をプラスすれば、不足しがちなミネラル(電解質)、ビタミン類をはじめ、たんぱく質など多様な栄養をまとめて摂取できるのも味噌汁の優れた点です。
難しく考えずに次のようなことをポイントに取り入れてみてください。
いずれにしても、自分の好みやその日の食欲に応じて、好きな具材を組み合わせればよいでしょう。どんな具材でも取り入れやすいのが味噌汁の魅力であり、工夫次第でアレンジを楽しめるのは味噌汁ならではです。
あまり火を使いたくない、味噌汁を作るのが面倒、といったときは、市販のインスタント味噌汁を利用するのもよいでしょう。その場合もなるべく野菜が多めのものを選ぶのがポイントです。余裕があれば、カットした野菜や豆腐をプラスすれば栄養価が高まります。
塩分の取り過ぎに注意しよう
味噌汁を飲むタイミングは朝食がベストです。食欲がなくても最低限味噌汁を取ることで腸管が刺激され、自律神経の働きが活性化します。脱水症や熱中症の予防はもちろん、午前中の活動のパフォーマンス向上につながることが期待できます。
水だけでなくナトリウム(塩分)も摂取できるのが味噌汁の大きな利点の一つですが、塩分の取り過ぎには気を付けましょう。発汗量の多い夏だからといって、あえて塩気の効いた濃い味の味噌汁にする必要はありません。他の季節と同じ程度、あるいはやや薄めに仕上げるとよいでしょう。さっぱりとした味付けのほうが食べやすく、また「塩分を多く取ることで喉が渇く」といったことも起きにくくなるからです。具だくさんにして汁の量を減らすのも減塩につながります。
なお、3度の食事で味噌汁を取り、合間にスポーツドリンクで水分補給するといった方法を日常的に続けると、塩分過多になりがちです。スポーツドリンクは糖分も多く、カロリーも高めなので、頻繁に摂取するのはなるべく控えましょう。スポーツ時や暑熱環境下での労働、炎天下での移動や活動、飲酒後など、体内の水分が失われやすい場面で取り入れるのに適しています。栄養成分表示を確認し、一定量以上のナトリウムが含まれているものを選ぶとよいでしょう。目安は、40mg/dLです。食塩相当量だと、約0.1㎎/dLです。
めまいや立ちくらみ、発熱、こむら返りといった脱水症や熱中症が疑われる症状がみられるときは、速やかに経口補水液を摂取しましょう。経口補水液はスポーツドリンクとは違い、「特別用途食品(病者用食品)」として国の基準を満たしているものです。「予防」ではなく「治療」に用いるものと考えてください。
夏は、暑さによる疲労がたまりやすい時期です。暑熱環境下でも元気に過ごすためには、睡眠と栄養、水分補給の3つが欠かせません。食べて飲んでゆっくり休むことを心掛けましょう。このうち栄養と水分補給を担い、疲労回復をサポートするのが味噌汁です。夏の食事に上手に取り入れて、健康を保ちましょう。
医学博士。1991年福島県立医科大学医学部卒業後、横浜市立大学医学部麻酔科、神奈川県立がんセンター麻酔科などに勤務。2016年より現職。東京医療保健大学大学院医療栄養客員教授。慶應義塾大学医学部麻酔学教室非常勤講師。臨床業務、臨床研究、大学院教育、講演活動を行うとともに、臨床栄養の生涯教育サイト「谷口ゼミ」(https://taniguchi-seminar.com/)を開塾し、医療従事者の生涯教育や「飲水学」の普及に力を注いでいる。『いのちを守る飲水学 からだがよろこぶ水分補給のトリセツ』(評言社)など著書多数。
